空飛ぶ自由人・2

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映画『親愛なる同志たちへ』

2022年04月12日 10時00分42秒 | 映画関係

[映画紹介]

1962年、フルシチョフ政権下のソ連。
物価高と食糧不足、給与カットに対する労働者の不満が高まり、
ロシア南西部の町ノヴォチェルカッスクの国営機関車工場で
大規模なストライキが発生した。
5千人を越える群衆が集まり、
共産党幹部が管理する工場を占拠するなど暴徒化した。


事態を重大視したモスクワのフルシチョフ政権は、
スト鎮静化と情報遮断のために高官を現地に派遣。
そしてスト勃発の2日目、
デモ隊や市民を狙った無差別発砲事件が発生、
沢山の市民の命が奪われた。
KGBのデータによると死者26人(非公式では約100人) 、
負傷者数十人、処刑者7人、投獄者数百人に達した。
西側諸国なら大事件として報道されるのだが、
政権は事件の情報を秘匿、
ソ連が崩壊するまで約30年間隠蔽されていた。

この実話を、85歳のロシアの監督、
アンドレイ・コンチャロフスキーが、
一市民のリューダの一家を中心に描く。

リューダは第二次世界大戦の最前線で看護師を務め、
今は共産党市政委員会のメンバーで、
元白軍の老いた父と

18歳の娘スヴェッカと3人で生活していた。
人々が砂糖を求めて列を作るのを尻目に、
係とつるんで贅沢品を無料で手に入れるなど、
党の特権を使いながらも、
スターリンの時代を懐かしむ体質を持っていた。

しかし、発砲事件に娘が巻き込まれ、
リューダは、娘の身を案じ、
パニックが巻き起こった広場を駆けずり回る。
病院に行っても娘は収容されておらず、
死者の中にもいない。
だが、霊安所に収容されずに、
秘密裡に埋葬された人々がいることを知り、
KGBの友人と共に市街の外の墓地に行き、
そこで娘の特徴と同じ遺体を埋葬した事実を掴む・・・。

という一部始終を、
モノクロ、スタンダードで、
一切のBGMを排した緊迫した映像で描く。
息がつまるような臨場感
そして、暴きたてる旧ソ連の人民抑圧の体質。

主人公のリューダは、
実は体制側の人間で、
党と国家と共産主義体制を信じていた人物。
しかし、目の前に晒された現実は、
その理想を厳しく裏切るものだった。

マルクスとエンゲルスによって創設され、
レーニンによって具体的国家の形を取った
社会主義・共産主義は、
元々人間の本姓に反していたために、
その運営においては強圧的にならざるを得ず、
人間にとって最も重要である自由を奪い、
その結果、破綻してソ連の崩壊に至り、
20世紀において、
その壮大な実験を終えた。
(いまだにその残滓となる国家は存在しているが)

その幻滅の淵に立つリューダを真正面から捉えた本作は、
観客の胸に痛みを巻き起こす。

と同時に、
今起こっている
ロシア(旧ソ連)によるウクライナ侵略を想起せざるを得ない。
ロシアでの公開時の2020年には
ウクライナ問題は発生していなかったのだが、
今の事態を見ると、
ロシアという国は、何一つ変わっていないのだな、
と思わされる。
社会主義・共産主義の特色は、
どうしても一党独裁の党の無謬性に固執する。
だから、誤謬を指摘するデモもストも認めるわけにはいかない。
そして、対外的にはもっと誤ちを認められないから、
情報を隠蔽する。
ソ連もロシアも中国も北朝鮮も、どうしてもそうなる。

映画の中で、
市民に発砲しろと迫る党上層部に対して、
軍の幹部が、
軍は外敵と戦うためにあるのであって、
人民に銃を向けるのは、それは憲法違反だ、
という場面が印象的だった。

市民に銃弾を発射した天安門事件は、
いまだに中国では、タブーだ。

つくづく、日本、今の日本に生まれて幸運だったと思う。

リューダが、KGBの友人と車の中で

ソ連を讃える歌を歌う場面の皮肉。

歴史の暗部に光を当てる、
老監督渾身の力作

リューダを演ずるユリア・ヴィソツカヤは、
監督の奥さん。

第77回ベネチア国際映画祭で審査員特別賞を受賞した。

5段階評価の「4」

予告編は↓をクリック。

https://youtu.be/-f11lPk-W3A

ヒューマントラストシネマ有楽町他 で上映中。

 

スタンダードサイズの映画なのに、

スクリーンサイズはワイドのまま、

左右に黒い部分が残る。

幕を引いて、スタンダードサイズに出来るはずだが、

なぜ、しない。

 

 

 


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