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短編集『激動 東京五輪』

2022年05月07日 23時30分44秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

1964年の前回東京五輪をモチーフにした
7人の作家によるアンソロジー
2020年のオリンピックを当て込んだ企画だと思うが、
発刊は2015年。
随分気が早い。
執筆陣は、大沢在昌、藤田宜永、堂場瞬一、
井上夢人、今野敏、月村了衛、東山彰良で、

顔ぶれに不足はない。

大沢在昌「不適切な排除」

ワシントンのジャーナリスト、デビッドから
主人公の作家の友人・玉川の父の死がCIAの陰謀らしいので、
調査させてくれ、という依頼が舞い込む。
玉川の父は「シングルエイト」の
前製品「ラピッドエイト」の開発者で、
1964年11月2日、つまり、オリンピックの直後、

ひき逃げにあって、死んでいた。
父親の遺物の中から一堂は8ミリフィルムをみつける。
それをDVDに変換して映してみると・・・

当時新発売だったスーパーエイト、シングルエイトが出て来て、
なつかしかった。
8ミリ映画というのは、
16ミリフィルムを使って片側を使って撮影し、
一巻終わったところで
カメラを開けて、前後逆転してもう半分の片側を使って撮影し、
現像時、縦に分割して、8ミリ映画となる。
面倒だったので、
最初から8ミリにしたフィルムをマガジンに入れて、
誰でも撮影できるようにしたのが
コダックのスーパーエイト、
富士フィルムのシングルエイト。
途中で交換する手間がないので、
「私にも写せます」というCMで大ヒットした。

ただ、50年以上前のフィルムに
写っていた車中の人物の顔が識別できるかというと、
それは難しいだろう。

藤田宜永「あなたについてゆく」

クラブの経営者と歌手とその伯父の話。
伯父の徳太郎は陸上の選手で、
戦前東京でオリンピックが開かれていれば、
走っただろう選手だった。
徳太郎が警察に追われて逃走する時が、
マラソンの開催日で、
徳太郎の逃亡とアベベの力走が重なる。

飯田久彦、北原謙二、藤木孝などの名前が出てきて、なつかしい。

堂場瞬一「号外」

新聞記者の濱中は、特ダネを掴む。
爆弾魔・草加次郎と接触し、インタビューが取れそうなのだ。
しかし、その日はオリンピックの開会式の日。
紙面はオリンピック一色で、
そんな記事が入る余地はない。
社会部長の水谷が妙手を思いつく。
号外を出すというのだ。
他社が後追いをしても、
最初にスクープした実績は作れる。
警察とは、草加次郎とインタビューした後、
逮捕に踏み切る手筈も整った。
そして・・・

井上夢人「予行演習(リハーサル)」

国立競技場近くの中学生は、
オリンピック開会式の予行演習に駆り出される。

(これは、事実)

そこで、澄夫とイットクの二人は、
最近近所の工事現場で発見された死体について
勝手な推理を働かせる。
推理は近所の母娘の不和から埋蔵金の話にまで広がり・・・

最後に、二人の中学生が、
後の二人作家・岡嶋二人(井上泉、徳山諄一)であった、というオチがつく。
鰐淵晴子の名前も出て来て、これもなつかしい。

今野敏「アリバイ」

オリンピックの開会式の日、
強盗殺人事件が起こる。
犯人は逮捕され、一審では有罪となったが、
控訴審では一転無罪。
しかも、検察の上告もなく、
無罪が確定した。
当時新人記者だった加賀が、この謎に取り組む。
開会式の空に自衛隊の飛行機が描いた五輪の輪が
重要な要素として、登場する。
というのは、犯人が空に観た輪は、
四輪しかなかったというのだ。

パラレルワールドの話で、納得できず。

月村了衛「連環」

先に紹介した「悪の五輪」のダイジェスト版。
記録映画の監督選定を巡る
ヤクザの稀郎と三流監督・錦田の話に絞り、
それ以外の要素をそぎ落としたもの。

東山彰良「陽のあたる場所」

売春宿の運転手をしている男の逃避行を
オリンピックの開会式を背景に置いて描く
ハードボイルド。


1964年のオリンピックを背景にした
書き下ろしアンソロジーの企画は買える、

ただ、
どの話も暗部にばかり目をやった作品群となった。

 



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