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「地面師たち」原作本と続編「ファイナル・ベッツ」

2024年09月24日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

Netflix でドラマ化され、大ヒットした「地面師たち」の原作本。

ストーリーは、8月21日のブログで十分したので、
ここでは、原作とドラマの違いについて述べる。

最初の詐欺の場面で、
なりすまし役の老人の窮地を救うための
茶のこぼし
近所のスーパーの件でのハリソンの無線での助力というくだりは
ドラマオリジナル。

辻本拓海の趣味は山登りという
原作の設定はドラマではスキップ。

免許証偽造者の長井は事故のため
顔面に火傷がある引きこもりという設定で、
その心をほぐす拓海との友情物語が原作にはあるが、
これもドラマではスキップ。

寺の持ち主の尼僧を沖縄に行かせるための作戦で、
拓海はホストクラブに潜入するが、
それはドラマオリジナルで、原作にはない。

尼僧の愛人は劇団主催者の男。
尼僧が男を買ってホテルで快楽の夜を過ごすという設定は
ドラマのサービス。
尼僧が土地を売りたい動機として、
劇場の建設というニセの設定が原作ではなされ、
その為のニセの完成予想図も用意される。

尼僧を沖縄に行かせるのは、
劇団主宰者への講演の依頼を作り上げ、同行したという設定。
尼僧だけ戻るのは、主宰者の男と喧嘩したらしい。
従って、沖縄の空港で殺人事件
ハリソンによる竹下の虐殺などは、ドラマオリジナル。

尼僧の到着寺の見学のサスペンスは原作、ドラマ共通。
ただし、ドラマでの文化財の仏像のくだりは原作にはない。
反対に、麗子の指のマニキュアがサスペンスの一つの要素となっている。
なりすましの女性は、
旅館の仲居で、病気の息子を抱えている、
というのがドラマの設定だが、
原作では、FX投資で損を出した主婦になっている。
従って、麗子がなりすまし役を探すために
旅館の仲居となって働く、という
少々不自然な設定はドラマ独自のもの。
なりすまし役の翻意は、息子の死ではなく、
夫に投資の失敗がばれたため。

拓海の父が騙された詐欺師は地面師ではなく、
医療機器売買に関する詐欺。

騙される石洋ハウスの社内事情は、
ドラマの方が詳しく、納得の出來。
会長と社長の確執は原作にはない。
モデルとなった「積水ハウス地面師詐欺事件」の
実話を取り入れたようだ。

ドラマと原作の最も大きな改変は、
刑事の辰の取り扱い
ドラマでは女性刑事が助手として付くが、
原作ではこの女性刑事は登場しない。
墓で待ち伏せし、拓海を追究するのは、
女性刑事ではなく、辰本人。
ドラマでは辰は殺されるので、
その後の展開で女性刑事が必要となったらしい。
従って、殺されかけた拓海を助けるのは、辰本人。
ドラマでの「ダイハード」の下りは、
当然原作にはない。
脚色者の秀逸な設定
きっと映画ファンなのだろう。

総じて、ドラマは映像的に映えるように脚色されており、
ドラマのヒットの要因も、
脚色者の功によるところが多い。

小説とドラマは、別のメディアなので、
改変は当然だが、
今回の例は、改変がうまくいった実例。

また、ハリソンを演ずる豊川悦史をはじめ、
綾野剛、ピェール瀧、小池栄子、
リリー・フランキー、山本耕次、
お笑い芸人のアントニーまで
配役がドラマを面白く立体的にした。
映画は配役が決まった段階
ほぼ成功が確定する。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「地面師たち」の続編
2024年7月に刊行したばかりの新作。

前作の不動産詐欺事件の関係者は次々逮捕され、
主犯のハリソン山中だけが消息不明に。
前作から引き継いで出て来るのは
ハリソン以外には、
辻本拓海と刑事を退職した
前述のとおり、
辰はドラマでは殺されているが、
続編では生きている。
後藤や麗子が出て来ないところを見ると、
ハリソンに殺されたらしい。

冒頭、シンガポールのカジノでバカラに没頭する男・稲田の描写から始まる。
この男、元サッカー選手で、
裏カジノ通いが報じられ、チームからクビになった男。
タイのサッカーチームに拾ってもらおうと渡航したが、
結局契約に至らず、帰路立ち寄ったシンガポールで、
有り金かけた大勝負の末、一文無しになってしまう。
途方に暮れる稲田に声をかけた日本人がいた。
あるビジネスに参加してくれたら、
莫大な金を提供するという。
その男こそ、潜伏中のハリソン山中だった。

というわけで、稲田を加えた新たな詐欺グループの標的は、
シンガポールのリゾート開発会社御曹司で社長のケビン
会長の父親からの低評価を挽回すべく、
新たな物件で起死回生をしようと焦っている。
ハリソン山中のグループからの釣り糸につけられたエサは釧路。
地球温暖化の影響で、
北極海の氷が減っているため、
欧州から太平洋へ抜ける航路が現実味を帯びており、
通年使用が可能になれば、
スエズ運河経由の航路より
ヨーロッパから東アジアまでの距離が4割短縮され、
輸送コストや日数も大幅に削減できるという。
そうなった場合、玄関口である釧路港が
海運の拠点のハブ港として、
重要な役割を果たすことになる。
釧路に世界中から人とモノと金が集まり、
開発ラッシュが繰り広げられる。
とういう現実的には未定の話で、
港に面した一等地、
総額210億円をひっかけようという作戦。

チームは影であやつるハリソン山中と
交渉役の吉沢安彰、稲田、売り手権堂のニセ者で元芸人の金本、
買い主側に潜入した女性マヤ、
そして、ケビンに偽情報をつかませる友人のリュウたち。
契約は豪華客船の上でなされるが・・・

これにハリソン山中を追う刑事の佐藤サクラの動きや
地元受け入れ時の菅原がヒグマに襲われる挿話などがからむ。

佐藤は刑務所にいる拓海と面会し、情報を得る。
また、佐藤の父親との関係も描く。

出来栄えは前作より劣る。
本題のだましに入るまでが長過ぎるし、
だましのテクニックも
前作でさんざん見せられているから、新鮮味がない。
なにしろ、新参加の稲田の人間性が不快だし、
ハリソンが何を見込んで、
このサッカー以外に能無しの男をチームに入れたかが不思議。
題名に「ファイナル・ベット」とあるように、
ギャンブル依存症のこの男と
最後の賭けに持っていきたいからとしか思えない。

単独では十分面白いのだけれど、
ドラマが抜群の面白さだっただけに、
期待が大きくなり、損した感じ。