空飛ぶ自由人・2

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映画『渇水』

2023年06月09日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

市の水道局に勤める岩切俊作は、
水道料金を滞納している家や店舗を回り、
水道を停止する「停水執行」の業務に就いていた。
貧しい家庭を訪問しての
水を止める作業は、
仕事として割り切っても、精神を蝕むものだった。
滞納者の中にはクズもいて、
理不尽な罵声も浴びせられる。

そんな中、父親が蒸発し、
母親の育児放棄にあっている
幼い姉妹の家の水を止めるた時は、
さすがに胸が痛んだが、
どうすることも出来ずにいるばかりだった。

日照りが続き、給水制限が発令される中、
姉妹が頼りにしている公園の水道も止められてしまう。
食べ物と水を万引きする姉妹の現場を見た岩切は、
ついにある行動に出る・・・

電気、ガス、水道のうち、
水道が一番安いが、一番命に関わるライフラインだ。
それさえ払えない人たちの窮状を見て
心が動いても、何もすることは出来ない。
一つ情けをかけてしまえば、無限の責任が生ずる。
それには耐えられい。
さぞ苦しいだろう。
事実、若い同僚は、たまりかねて職務を異動してもらう。
淡々と職務をこなしても、
心の中には、重く沈むものがある。

この葛藤は、私好みの題材。
岩切を演ずる生田斗真
相棒の磯村勇斗もいい演技を見せる。


子供たち二人もいい。


なのに、感動しないのはなぜだろう
並行して岩切の家庭の事情も描かれるが、
深く切り込むわけではない。
主人公の持つ「寂しさ」を口で説明するだけでなく、描かなければ。

感動が生まれない原因、
おそらく、根本原因である母親の問題を放置しているからだろうと思われる。
男と同棲している母親を引きずり出す、
それが出来なければ、
児童相談所に話を持ち込む。
地方公務員として、それくらいの行政知識はあるだろう。
第一、公務員としての通報義務があるのではないか。
近所のおばさんが親切ごかしの提案をして
子供に拒否されるのとは、わけが違う。
観客は当然「母親はどうなっている」と思うわけで、
この観客の当然の疑問には、映画は答えなければならない。

最後に取る行動も突発的なもので、
何の解決にもつながらない。
まあ、おかげで、
子供たちは施設に送られることになるのだが。
原作は、もっと悲惨な結果なので、映画としては救いがある。

題材はいいのに、
料理しそこなった、という残念さが残る作品。

監督は高橋正弥。 
河林満の小説「渇水」を実写化したドラマ。
文學界新人賞を受賞し、芥川賞候補にもなった。
1990年の作だから、映画化まで33年かかったことになる。

5段階評価の「3.5」

拡大上映中。