月に大量の水を発見したのは?
長期宇宙旅行に欠かせないのが、月面基地の建設である。NASAでは2020年ごろ、月面基地建設の計画を進めている。月面基地を作るには、いくつかの要素が不可欠になる。最も重要なのは酸素と水。
どちらも地球から運ぶのは現実的ではなく、月に着いてから作るか、月で見つけるかのどちらかだ。2010年現在、月に水があることは確実になった。では、月に水が大量にあることを発見したのは何という探査機だろう?
2009年、月のクレーターにロケット弾を打ち込み水を探すLCROSS(エルクロス)という無人探査機が打ち上げられた。エルクロスのミッションの主目的は、月の極地方にある永久影のクレーターに、氷が存在することを確かめることであった。その結果、月の南極地方のカベウスクレーターで、水の発見に成功した。
しかし、意外なことに水の存在を確認することはできたが、その量までは正確に把握できなかった。量をつきとめたのは、インドの月探査機「チャンドラヤーン1号」であり、その量は6億トンであった。
チャンドラヤーン1号の分析
米航空宇宙局(NASA)は2010年3月1日、月の北極付近にあるクレーターに大量の氷が存在する可能性が高いと発表した。インドの月探査機「チャンドラヤーン1号」に搭載したNASAのレーダー(Mini-SAR)を使い、太陽の光が差し込まない北極付近のクレーターを調べた。
その結果、直径2~15キロのクレーター40カ所以上に、氷であることを示す物質が分布していることを発見した。氷の厚さはさまざまだが、黒部ダムの3倍、東京ドーム480杯分に当たる6億トンと推定している。
NASAは昨年、無人探査機「エルクロス」の調査によって、クレーターの中に水蒸気の存在が確認され、まとまった量の水があるとみられていたが、具体的な量は不明だった。
分析した研究者は「水が月で作られ、保存されていることが分かった。月は人々が思っていた以上に興味深い場所だ」と述べている。
発見したのはMini-SARという、ジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所とアメリカ海軍航空兵器センターが開発した観測装置で、月面に対し電波を発射し、反射されてくる電波を分析し、表面の特徴を調べた。(共同 2010.3.2)
チャンドラヤーン1号とは?
チャンドラヤーン1号は、、インド宇宙研究機関(ISRO)が、2008年10月22日に、初めて打ち上げた月探査機である。可視、近赤外線、低エネルギーX線、高エネルギーX線の各領域における詳細な月表面の観測を行うことを目標にしている。そのペイロードには11の観測機器が搭載され、そのうち6つはアメリカ航空宇宙局(NASA)や欧州宇宙機関(ESA)、ブルガリア科学アカデミーによるものであった。
また機器のうち1つは探査機本体から切り離して月面に投下されるプローブ(重量29kg)であり、将来の軟着陸による月探査機の実現に備えて、減速用噴射装置の試験が行われた。
ミッション期間は2年間を予定していたが、2009年7月中旬に姿勢制御用スターセンサが故障したことからミッションを1年あまりに短縮することが検討されていた。その後8月29日に通信が途絶し、1年足らずで公式にミッション終了が宣言された。観測チームはミッションの95%は達成されたとしている。(Wikipedia)
エルクロスの科学的成果
2009年に月面に衝突して観測を行った月探査機「エルクロス」の主任研究員を務めた、アンソニー・コラプリート(Anthony Colaprete)氏はその成果を次のように述べている。
これまでの最も大きな成果は、月に水があることを確認したことです。「エルクロス」は月の南極にあるカベウス・クレーターに衝突しましたが、このクレーターには太陽光が全く当たらない永久影があり、そのような領域には氷が存在する可能性があると言われてきました。「エルクロス」は、衛星本体とセントールロケットから構成されていますが、まず初めにロケット部分、その約5分後に衛星本体が、それぞれカベウス・クレーターに衝突しました。そして、クレーター衝突時に舞い上がった物質の組成を調べたところ、上層からは水蒸気と塵、下層からは重い物質が検出され、その両方の層から水を示す証拠が見つかったのです。それらの噴出物は、クレーターの底にあったものと考えられます。
具体的には、「エルクロス」に搭載された近赤外線分光器で得られたデータが、水蒸気と氷の混合物に見られるスペクトル・データと見事に一致しました。ほかの化合物でしたら、これほどぴったり一致することはないでしょう。
また、紫外線・可視光分光器によるデータからは、水が太陽光で分解される時に生成される「ヒドロキシ基」の存在を示すスペクトルの特徴が見られました。その結果、これまで考えられていた以上に、月には水が広範囲にわたって大量に存在している可能性がでてきたのです。
エルクロスはその他にも膨大なデータを得ることができ、現在分析を行っています。今ちょうど論文を書いているところなので、残念ながらここでは発表できませんが、驚くようなデータがぞくぞくと出てきています。それらはとても興味深い内容ばかりですので、新しい発見に期待してください。
予想外だったエルクロスの衝突
カベウス・クレーターへの衝突は地上から観測しにくいことは初めから分かっていましたし、そのことについては衝突の直前、皆に伝える努力をしていました。衝突の前日に私は多くのプレスインタビューを通して、「皆さんがご覧になるのはスペクタクルな現象ではなく、おそらく、黒いものが少しだけグレーになる程度のものです」ということを伝えていたのです。
しかし、NASAですら大爆発のイメージ図を公開し、皆さんの期待を高めました。ドラマチックな様子を期待する方が多かったと思いますが、現実の科学の世界ではそうはいかないんですね。
実際はこのような感じでした。セントールロケットの衝突から20秒後、視界のよい「エルクロス」の衛星本体からは、約600km先にサンフランシスコ市くらいの大きさの塵雲が見えていました。600kmほど離れたところから観測しても、莫大な大きさの塵雲があったのですから、かなりスペクタクルな衝突だったと思います。
一方、衝突時の閃光は秒速およそ2kmで広がっていきました。最初、爆発は外に向かって水平方向に広がり、非常に速いスピードで塵雲が高度15~20kmまで上昇しました。この塵雲とは、クレーターから発生した1000度の高熱の蒸気雲です。これらの現象は予測されておらず、とてもドラマチックな光景でした。しかし、その雲は地球からでは見えませんでした。
大爆発が起きるのではないかと皆さんに期待をさせてしまいましたが、これはある意味良かったように思います。なぜなら、世界中の何百万人もの目を月に向けさせ、月について考えてもらうことができたからです。ここ数年、JAXA、インド、中国、そしてアメリカの多くの人々が開発してきた、素晴らしい月探査に注目してもらえるいい機会になりました。そして、とてもポジティブな印象を与えてくれました。あの衝突の夜に、多くの人たちが月に関心を持ってくれたこと、また、私たちのミッションについて議論が起ったのは嬉しいですね。
「エルクロス」が、月にはまだ分からないことがたくさんあることを示し、皆さんの注目を集めたことは確かです。今回の成果が、きっと今後の惑星探査ミッションにもつながっていくと思います。 (JAXA:インタビュー 2010.5.31)
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