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産学28法人で共同開発する「日本版スマートグリッド」とは何か?

2010年06月09日 | エネルギー
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 日本版スマートグリッッドの実証実験
 大学、メーカー、電力会社など28法人が、日本版スマートグリッドの基礎技術確立を目指し共同で実証事業を始めることになった。

 経済産業省が公募した「次世代送配電系統最適制御技術実証事業」の参加事業者として21日採択されたのを受け、今年度から3年間で低炭素社会に必要な新しい電力供給システムの基礎技術開発と実証を目指す。

 28法人のうち、東京大学、東京工業大学、早稲田大学、東芝、日立製作所、明電舎、三菱電機、電力中央研究所、東京電力が幹事となって事業を進める。

 日本が世界に約束している低炭素社会の実現には太陽光発電を初めとする再生エネルギーの大量導入が不可欠だ。そのためには、送配電系統の安定化と需要側の最適な制御が可能な新しいシステム「スマートグリッド」を構築することが必要とされている。

 実証事業では、配電系統における適切な電圧の監視・制御を行う機器、方式や、系統状況に応じた需要家内機器の電力使用について最適な制御方式を開発し、機能を検証する。(サイエンスポータル 2010年5月24日)

 スマートグリッドとは何か?
 スマートグリッドとは、人工知能や通信機能を搭載した計測機器等を設置して電力需給を自動的に調整する機能を持たせる事により、電力供給を人の手を介さず最適化できるようにした電力網である。

 新しい機能を持たせた電力網である。アメリカ合衆国の電力事業者が考案した。「スマート」という語が表わすように、通信機能を持った人工知能搭載の電力系や制御機器等をネットワーク化することによって発電設備から末端の電力機器までを通信網で接続し、自動的に需給調整が可能な電力系統を構築することで電力の需給バランスを最適化しようというものである。

 巨額の公共投資を必要とするため、計測機器、システム、設備工事といった関連業界が推進し、特にこうした産業を持つ日本や米国などでは官民一体で推進している。

 再生可能エネルギーへの対応
 再生可能エネルギーへの対応のためにスマートグリッドが用いられる要素も大きい。

 太陽光発電や風力発電のような地上で得られる自然エネルギーから発電する電力は、その発電量が時々刻々と変化して一定には得られないという特性がある。それぞれの発電元に固有の蓄電池を備えて送出電力を平準化する形式もあるが、コスト高や維持管理の手間なども考慮すれば最善策であるか疑問がある。

 できるだけ多くの自然エネルギー由来の発電システム同士を連接することで総体としての発電電力量を平均化できれば、蓄電池容量を減らすと同時に蓄電池も集中できれば維持管理も楽になると考えられる。

 自然エネルギー由来の発電システムは地理的に分散して存在するために、多数を連接するには専用の送電網を作るよりも既にある商用電力の送電網、つまり電力系統を利用する方がムダがないが、周波数や電圧といった電力品質を電力系統内の隅々まで維持し続けるためには、需要家側と送出側、そして電力系統を管理する側が相互に協調する必要がある。

 スマートグリッドでは、こういった再生可能エネルギーを電力系統で問題なく扱えるようにするための方法として、センサネットワーク技術と充電技術で対応する構想が存在する。

 センサ・遠隔制御技術
 スマートグリッドでは一般住宅や事務所、工場といった需要家の電力消費をセンサネットワーク技術と遠隔制御技術を活用して監視し負荷制御することによって、電力消費量の平準化と電圧・周波数の安定化を図る。例えば真夏の昼間に電力需要がピークとなれば、家庭のスマートメーターを経由した無線や有線による遠隔操作によってクーラーの設定温度を短時間だけ2度ほど上げる。

 充電技術
 太陽光発電や風力発電のような発電電力が変動し制御できない発電装置では、個別の蓄電池に発電した電気を蓄えることによって外部に送出する電力量を一定にする、または、必要なだけ放電するといった使用法が従来から用いられてきたが、スマートグリッドではこの考え方をさらに進めて、蓄電池の設置位置に関係なくグリッド内ですべてを共通化すれば発電した電気の実質的な蓄電可能量を増やすことができるとするものである。

太陽光発電所や風力発電所ごと、配電網ごとや家庭・事業所ごと、充電のためにコンセントに接続された電気自動車等の蓄電池といったすべてを連携して用いるためには、どこの電池に充電可能な空きがあるのかや、どの電池から放電すべきかなどを細かく制御する必要があり、センサ・遠隔制御技術も必要となる。

 米国のスマートグリッド
 アメリカ合衆国ではカリフォルニア州の電力危機やニューヨークの大停電をきっかけに、送配電網の整備を求める声が大きくなった。2003年の大停電事故の1ヵ月前に、米エネルギー省は「Grid2030」という送配電網の近代化に関するレポートを発表していた。2007年12月には「スマートグリッド」関連の投資資金補助や試験プロジャクトの予算に1億米ドルを拠出することを法律で決めた。

 バラク・オバマ大統領の就任1ヵ月後の2009年2月には、景気刺激策である「米国再生・再投資法」(American Recovery and Reinvestment Act, ARRA)の一部として、「スマートグリッド」関連分野に110億米ドル(日本円で1兆1000億円相当)を拠出することを決めた。これが今日、米国の通信とIT機器メーカーの間まで広がったスマートグリッド・ブームのきっかけとなった。

 ニューメキシコ州では州政府と日本の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が中心となり、スマートグリッド構想に基づく実証研究プロジェクト「Green Grid」を企画している。5MWの配電線(フィーダー線)1本を対象にして、1,200軒の家庭、1つの学校、複数の事業所を含む地域の電力網に2MWの電力貯蔵施設と1MWの太陽光発電施設を加えた。

 オバマ大統領は、アメリカ連邦議会 に対して、代替エネルギーの生産を2009年からの3年間で2倍にし、新しい「スマートグリッド」を建設するための法案を通過させるために遅滞なく行動するように要請した。

 化石燃料と温暖化ガスの排出削減はエネルギー安全保障や地球温暖化問題の対策の1つとして、多くの政府が推進しているが、米国の電力消費量を5%削減できれば、5,300万台分の自動車に相当する化石燃料の節約と温暖化ガス排出量の削減が実現するといわれており、その実現手段の1つにスマートグリッドが有効ではないかと期待されている。

 スマートメーターの導入
 スマートグリッドによる米国国内の電力網の変化は、概ね3段階の過程を経ると考えられる。最初は2009年現在からすでに始まっているスマートメーターの導入であり、すでに全米では8州を除く42の州政府が政策でスマートメーターへの取り組みを示しており、一部は取付け段階にある。スマートメーターでは、電気使用料の検針作業を人が行なわず、通信機能を持った電気メーターが自動的に電力事業者へ遠隔報告する。

 第2段階は2011年から2020年頃までの期間で、無線や有線通信によって家庭内の電気を使用する機器類の電力使用を遠隔操作することが想定されている。

 スマートメーターをこの電力遠隔制御ネットワークのノードとする計画もあり、多様な家電製品に無線LANや電力線通信のような機能を持たせることで電力制御だけにとどまらない新たな付加価値を製品に与えられる。このため、従来は映像・音響機器といったデジタル機器だけが家庭内ネットワークの対象だと見られていたのが、冷蔵庫や洗濯機まで加わる状況となり、多くの家電メーカーが将来の大きなビジネスチャンスに興味を示している。

 また電気自動車やプラグインハイブリッド車も充放電を行う家庭内での大きな蓄電池としてこれらの機器に加わる。第3段階では2030年頃までに、あらゆる機器類が自律的な負荷制御を行うような状況が想定されており、配電網内に大規模な蓄電施設が設けられると考えられている。

 米国でのこういった動きに対応して、米国内の企業だけでなく日本を含む世界中の企業が将来の大きな市場を目指して自社の持てる技術を宣伝している段階である。

 日本版スマートグリッド
 日本では類似したアイディアが住友電気工業や住友精密工業などにより提案されており、太陽を起源とする再生可能な新エネルギーと、今日技術的に適用可能となった高温超電導直流電力ケーブルの組み合わせによる地球規模の電力網敷設を段階的に推進すること、そのために、「PPLPソリッドDC・超長距離・大容量・国際連系・海底ケーブル」が必要であること、それらによって最終的には人類の必要とする全エネルギーを再生可能な手段によって得られることが期待されている。

 経済産業省の望月晴文事務次官は、2009年2月19日の記者会見で、アメリカでスマートグリッドが提唱されているのは送電網がつぎはぎだらけでよく大停電を起こすのが理由で、日本は送電網がしっかりしているから追従する必要はないのではないかという見方を示した。

 東京工業大学、東京電力、東芝、日立製作所などが共同で「日本版スマートグリッド」実証実験を東工大キャンパスで2010年度からおこなうことが報道された。実験には、東芝や日立製作所の他にも、東芝三菱電機産業システム、富士電機システムズ、明電舎、伊藤忠商事、関電工の参加が決まっており、さらに増える可能性もあるという。実験期間は3年間の予定である。

 実証実験では実際の家庭生活を想定し、家庭用の太陽光パネルを設置して冷蔵庫などの一般的な家電製品や電気自動車、ヒートポンプ式給湯器に利用する一方、余った電力については蓄電池にためたり、電力会社に実際に売ったりするという。電力の売買状況をコンピューターで把握し、コンピューター内にシミュレートした送電線網への影響を分析。送電線網に影響を与えずに太陽光発電を有効利用できる売電の時間帯や電気自動車への充電時間帯などを検証する。

 日本と米国での状況を比べれば、米国が多種多様な企業がスマートグリッドのビジネスに参入の意向や興味を示しているが、日本国内では家庭内通信まで踏み込んだ改革を目指す計画ではなく、新築住宅などで、新エネルギーとして太陽光発電と小型コジェネレーション装置といった家庭内発電での取り組みがまず進められている状況である。

 日本国内は米国と異なり電力網でも電力監視センサのネットワークが充実してきており、各電力会社は需要家の負荷変動を予測しながら細かな変動は電力監視のネットワークで随時捕まえてきめ細かな対応を行うことが可能である。米国のように一般家庭の家電製品を電力需要に応じて遠隔制御する取り組みにはそれほど積極的ではない。

 

参考HP Wikipedia「スマートグリッド」・サイエンスポータル「産学28法人でスマートグリッド基礎技術開発へ 

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横山明彦
日本電気協会新聞部

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