寡黙なる巨人 多田 富雄
著者 多田 富雄 さんの紹介。 1934年生まれ。世界的免疫学者。 内外の多くの賞を受賞、1984年には文化功労者。 能学にも造詣が深く、新作能の作者としても知られ、大蔵流小鼓を打つ。 2001年、脳梗塞に倒れ、言葉を失い右半身不随になった。しかし、重度の障害を背負いながら、現在も著作活動を続けている。障害者の先頭に立ち介護制度の改悪に抗議し続ける著者は、自分の中に生まれつつある新しい人を 巨人 と呼ぶようになった。
脳梗塞を患った時の様々な症状が、患者の表現で書かれている。 例えば麻痺した手足は驚くほど重い。鉛のように重く感じるし、腕は突っ張ったまま動かない。私は自分の腕を無用の長物で、邪魔になるばかりだと思った。麻痺は動かないといった生易しい苦しみではないのだ。 麻痺が起こると、筋肉の力が入らないのかといえば、そうではない。体はだらりとしているわけではなくていつも緊張している。力を抜く事の方が難しい。
次にリハビリについて。 優秀な療法士は、合理的な指導や科学的な裏づけの元に、あらゆるトリックを駆使して、不可能だった運動を可能にする。目的を知悉した、熱意ある訓練が必要なのだ。 リハビリとは人間の尊厳の回復という意味だそうだが、私は生命力の回復、生きる実感の回復だと思う。
リハビリをしながら若い人たちの間を車椅子で回っている。すると、あのころは希望に満ちていた。しかし未来は茫漠として、何一つ確かなものは見出せなかった.。 今、重度の障害者となり、同じ不安の対面している。
私は新しい人間が私の中に生まれつつあるのを感じている。のろまで醜い巨人だけれど、彼は確かにこの世に生を受けた。この様子ではなかなか育たないだろう。それでもいいのだ。私は私の中に生まれたこの巨人をと、今後一生付き合い続け、対話し、互いに育てあうほかはない。私は自分の中の他者に、こうつぶやく。何をやっても思い通りには動かない鈍重な巨人、言葉もしゃべれないでいつも片隅に孤独にいる寡黙なきょじん、さぁ君と一緒に生きてゆこう。
まさに これらを読んでいると 多田さんの 生への励ましの書であるように思える。 人生 生ある限り 頑張り続けるのだと。
最後に こうやって、些細なことに泣き笑いしていると、昔健康なころ無意識に暮らしていたころと比べて、今のほうがもっと生きているという実感を持っていることに気付く。 日々、生きていることに感謝。 些細なことにも眼を向けよう!