「よくぞ言ってくれた」
この本を読んで、そう思う人は多いのではないでしょうか。
「日本人の9割に英語はいらない」 成毛 眞 著 / 祥伝社 刊
この本の著者は、マイクロソフト株式会社の元社長。
教育行政にたずさわる役人や政治家、教育学者などではないところがミソです。
楽天やユニクロが社内の公用語を英語にしたり、
小学校では英語の授業が必修となったりと、世の中の「英語狂想曲」は加熱するばかり。
しかし、著者は自らの経験と独自の試算で、日本人で英語が必要とされるのは、
ほんの1割の人に過ぎないと言い切ります。
「英語が話せるからと言って、仕事ができるわけではない」
「英語が話せても、日本の文化や歴史など何も知らないバカは多い」
「英語は学問ではない。英語よりも学ぶべきことは他にたくさんある」
そして著者は、日本に会社があるのに、
社員全員に英語を強制するのは、経営にとってはマイナス。
本来の業務に邁進しなければならない社員が、
単なる仕事の道具にすぎない英語に汲々としていたのでは、
これらの会社の先は見えている、とまで喝破します。
「英語を社内の公用語にする」と宣言し、
社員食堂のメニューまでもが英語になった某会社では、
英語で会議資料を作成しなければならないため、
従来よりも資料作りに時間がかかるようになったといいます。
(つまり本来の業務に割かれる時間が減った、あるいは長時間労働になり、
社員は次第に疲弊していくということです)
ところで私にも、会社に入ってから英語漬けになった経験があります。
まだ景気の良かった頃ですが、同期入社の全員が研修所に集められ、
始業時間から終業時間まで、3ヶ月間にわたって英語だけを学習するのです。
講師はもちろんネイティブ、就業時間中の日本語は一切禁止でした。
すると、1~2週間で電車の中や街角での話し声が英語に聞こえ始め、
1ヶ月くらいたつと、英語の夢を見るようになります。
妻の話によれば、その頃の私は英語で寝言を言っていたそうです。
しかし、英語研修が終わり、
英語とはまったく無縁の部署に配属され、
今日まで英語を必要としない業務を続けてきたいまでは、
英語なんぞきれいさっぱり忘れ、すっかりヘレン・ケラー状態です。
その後、若手社員の全員に英語を学ばせることは、
費用がかかる割にはメリットが小さいということを悟った会社は、
海外転勤者や海外事業部勤務者など、
英語が必要な社員にだけ、英語研修を行うことにしたのでした。
まさにこの本で書かれていることそのものです。
とは言え、現実には学校受験や就職試験では、
「英語の試験結果」が明暗を分けているのも紛れもない事実です。
親も役人も政治家も、みんな学生の頃に英語で苦労したため、
子供たちには英語を早くから学ばせようとします。
しかし、日本人にとってもっとも大切なのは、
一刻も早く「英語コンプレックス」から脱却し、
フランスのように母国語に誇りと自信をもつことではないでしょうか。