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素形材産業とは何か

2006-09-18 23:14:31 | ものづくり・素形材

前回説明した「素形材」を生産する産業が「素形材産業」になるわけですが、そもそも「素形材」の定義が一般の方には難しいと思います。そこで、改めて違う視点から「素形材」について説明してみます。

工業製品に用いられる素材としては、鉄や非鉄金属、プラスチックなどがあります。作っているのが、鉄鋼、非鉄、化学などの素材メーカーです。
しかし、素材メーカーが生産する素材を工業製品の生産に使うには、そのままの状態では大きすぎたり、必要とされる形状になっていなかったり、性質も強さや粘り強さに欠けたりします。このため、たとえばいきなり自動車の組立ラインで素材メーカーから納入された鉄鋼が部品として組みつけられることはありません。鉄鋼に対して前に説明した「素形材加工」を施し、目的とする形状や性能を有する「素形材」として作り出す、というプロセスを経て、ようやく自動車の組み立てに使われる部品になるわけです。ただし、実際には部品メーカーで素形材に様々な機能を付与すべく加工が加えられ、さらに組み立てが行われた上で、自動車メーカーに供給される例が多いです。
このように、素形材は素材と自動車などの機械製品の中間に位置するものであり、素形材産業は素材メーカーと機械製品メーカーを結びつける産業、といえます。素材メーカーは新日本製鐵をはじめ、誰もが知っているような有名企業が多いですし、機械製品メーカーもトヨタ自動車など、これもまた誰もが知っている有名企業が多いですね。しかし、双方を結びつける役割を果たす素形材メーカーはというと、あまり名前が知られた企業は見当たりません。
そもそも企業規模でみると、素形材産業は中小企業が多い業界です。しかしながら、「素形材加工」は高温や高圧などを伴うことが多いため、設備は大きいものが一般的で、資本集約型産業の性格が濃厚です。じゃあ、生産は設備に大きく頼っているかというと、「経験」や「カン」といった人の熟練に頼る部分も大きいのです。産業調査を行う私のような立場の人間にとっては、こうした素形材産業の特徴は非常に面白く魅力的です。しかし、当の業界関係者の方々にとっては特に現代のような時代では、こうした素形材産業の特徴により、苦労が絶えないものとなっています。具体的には、後日おいおい説明します。


しかし、行政は素形材産業をやや広めに捉えています。所管官庁である経済産業省製造産業局素形材産業室が2006年5月に策定した「素形材産業ビジョン」
を見ると、素形材産業は「素材を加熱や加圧など何らかの方法で変形・加工する技術を用いて、目的とする形状や性能を有する製品を作り出す産業及びこれらの工法に必要な機械・装置を生産する産業並びに製品に熱処理などを施して特定の性能を付与する産業」と定義されています。素形材を生産する産業だけでなく、関連産業も素形材産業として捉えているわけです。
では、具体的にはどんな産業が該当するのか、経済産業省公益法人一覧を見ると、素形材産業室が所管する公益法人は、以下の14団体となっています。

(社)日本鋳造協会
(社)日本ダイカスト協会
(財)素形材センター
(社)日本非鉄金属鋳物協会
(社)日本金属プレス工業協会
(社)日本バルブ工業会
(財)谷川熱技術振興基金
(財)次世代金属・複合材料研究開発協会
(社)日本鍛圧機械工業会
(財)天田金属加工機械技術振興財団
(社)日本工業炉協会
(財)金型技術振興財団
(社)日本金型工業会
(社)日本鍛造協会

いずれも金属に関連する団体に限られており、前述の書籍「ものづくりの原点 素形材技術」では素形材に含まれていた、プラスチック、ファインセラミックスは素形材産業室の所管ではなく、前者は化学課、後者はファインセラミック室の所管となっています。このようになったいきさつには、いろいろな「大人の事情」があったのかもしれません。しかし、そもそもの「素形材」の定義を考えると、プラスチック、ファインセラミックスも素形材産業の1つとして捉えることが必要であると思います。



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