〔14.12.31.日経新聞:企業面〕
石油価格が急落し、総合商社の資源・エネルギー事業の採算悪化が懸念されるなか、各社は「非資源」の拡充を急ぐ。なかでも三菱商事は食料や流通、ヘルスケアなど生活産業分野で新興国に寄与し、経済成長の恩恵を自社に取り込む戦略を描く。小林健社長に2015年に力を入れる分野や投資戦略を聞いた。
――この2~3年、生活産業分野が伸びています。
「生活産業の投資はアジア向けが多い。国の発展に伴い、生活必需品の質は向上する。今後も需要増に応える。日本のサプライチェーン(供給網)をそのまま海外に持っていくのは難しい。当社が現地パートナーを探し、日本企業と組み合わせてサプライチェーンをつくる。代表例がインドネシアの食品流通大手アルファグループとの提携だ」
「食料は資源のひとつと考える必要がある。ノルウェーのサケ養殖大手セルマックを買収したのは、サケをたんぱく資源と捉えているからだ。捕獲に頼らず、水産資源を育てる。それを加工して新興国に供給する仕組みもつくりたい」
――注力する分野を決め、組織横断的な事業開発に取り組んでいます。
「ヘルスケア、農業、環境、シェールガス、電力の5分野で担当役員を決め、私が責任を持って進めている。ヘルスケアは裾野が広い。高齢化した日本で起きていることは中国でも起きる。海外でも治療の周辺事業や介護分野を開拓する」
――国内外で電力インフラの新設や老朽火力の建て替えが進みます。
「国内でも発電所の建設に加え、発電事業を積極的に進めたい。海外ではインドネシアで地熱発電に参画するなど、手掛ける電源の種類が増えてきた」
――2020年ごろに非資源事業の純利益を12年度の2倍の3600億円とする目標を掲げています。
「13年度実績は2400億円で、今年度も同じくらいだろう。目標まで6年間で1200億円。年200億円を非資源の5グループで分担すれば1グループで年40億円の成長だ。これは絵に描いた餅ではない」
――市況の急落で資源・エネルギー分野の先行きが厳しくなってきました。
「原油価格が5割下がり、円安は2割進んだ。当社は1バレル1ドル下がると10億円の減益となり、対ドル1円の円安で25億円の増益効果が出る。現状では相殺してゼロだろう。あと半年か15年度末まで、原油安を前提に経営する必要がある」
――対策は何ですか。
「衣食住関連は多少の買い控えがあっても需要は伸び続ける。非資源で稼ぎ、ポートフォリオ分散の強みを発揮する」
(おわり)
1971年東大法卒、三菱商事入社。機械部門を歩み、船舶事業が長い。不動産向けの投資などを手掛ける新産業金融事業グループを率いた経験もある。10年から現職。65歳
<聞き手から一言>非資源分野の事業観連携を
三菱商事の連結純利益の非資源比率は約6割。小林社長は非資源の利益倍増を悲願とするが、個別の事業は小ぶりだ。事業を有機的につなぎ、収益を最大化する工夫が欠かせない。
モデルケースはインドネシアの食料事業だ。アルファグループと組んで山崎製パンなどの現地工場に出資し、小麦調達から製粉、小売店への供給まで関与する。アジアなどに成功例を応用すれば経営効率は上がる。他の商社も非資源分野を強化している。サケ養殖大手の買収のように資金力を生かし、一番乗りで新領域を攻める気概を示すことが求められる。 (鷺森弘)
石油価格が急落し、総合商社の資源・エネルギー事業の採算悪化が懸念されるなか、各社は「非資源」の拡充を急ぐ。なかでも三菱商事は食料や流通、ヘルスケアなど生活産業分野で新興国に寄与し、経済成長の恩恵を自社に取り込む戦略を描く。小林健社長に2015年に力を入れる分野や投資戦略を聞いた。
――この2~3年、生活産業分野が伸びています。
「生活産業の投資はアジア向けが多い。国の発展に伴い、生活必需品の質は向上する。今後も需要増に応える。日本のサプライチェーン(供給網)をそのまま海外に持っていくのは難しい。当社が現地パートナーを探し、日本企業と組み合わせてサプライチェーンをつくる。代表例がインドネシアの食品流通大手アルファグループとの提携だ」
「食料は資源のひとつと考える必要がある。ノルウェーのサケ養殖大手セルマックを買収したのは、サケをたんぱく資源と捉えているからだ。捕獲に頼らず、水産資源を育てる。それを加工して新興国に供給する仕組みもつくりたい」
――注力する分野を決め、組織横断的な事業開発に取り組んでいます。
「ヘルスケア、農業、環境、シェールガス、電力の5分野で担当役員を決め、私が責任を持って進めている。ヘルスケアは裾野が広い。高齢化した日本で起きていることは中国でも起きる。海外でも治療の周辺事業や介護分野を開拓する」
――国内外で電力インフラの新設や老朽火力の建て替えが進みます。
「国内でも発電所の建設に加え、発電事業を積極的に進めたい。海外ではインドネシアで地熱発電に参画するなど、手掛ける電源の種類が増えてきた」
――2020年ごろに非資源事業の純利益を12年度の2倍の3600億円とする目標を掲げています。
「13年度実績は2400億円で、今年度も同じくらいだろう。目標まで6年間で1200億円。年200億円を非資源の5グループで分担すれば1グループで年40億円の成長だ。これは絵に描いた餅ではない」
――市況の急落で資源・エネルギー分野の先行きが厳しくなってきました。
「原油価格が5割下がり、円安は2割進んだ。当社は1バレル1ドル下がると10億円の減益となり、対ドル1円の円安で25億円の増益効果が出る。現状では相殺してゼロだろう。あと半年か15年度末まで、原油安を前提に経営する必要がある」
――対策は何ですか。
「衣食住関連は多少の買い控えがあっても需要は伸び続ける。非資源で稼ぎ、ポートフォリオ分散の強みを発揮する」
(おわり)
1971年東大法卒、三菱商事入社。機械部門を歩み、船舶事業が長い。不動産向けの投資などを手掛ける新産業金融事業グループを率いた経験もある。10年から現職。65歳
<聞き手から一言>非資源分野の事業観連携を
三菱商事の連結純利益の非資源比率は約6割。小林社長は非資源の利益倍増を悲願とするが、個別の事業は小ぶりだ。事業を有機的につなぎ、収益を最大化する工夫が欠かせない。
モデルケースはインドネシアの食料事業だ。アルファグループと組んで山崎製パンなどの現地工場に出資し、小麦調達から製粉、小売店への供給まで関与する。アジアなどに成功例を応用すれば経営効率は上がる。他の商社も非資源分野を強化している。サケ養殖大手の買収のように資金力を生かし、一番乗りで新領域を攻める気概を示すことが求められる。 (鷺森弘)