日本株と投資信託のお役立ちノート

株や投信の運用に役立つ記事を探します。
(主に日経,ロイター,WSJから引用。賞味期限の短い記事は今後省きます)

変わるか人材派遣(上)(下)

2015年03月06日 | 33.サービス業
〔15.3.5.日経新聞:企業1面〕
▽変わるか人材派遣(上)派遣元「アメとムチ」の法改正 人材育成、問われる体力


 人材派遣業界が変革を迫られている。今秋をメドに労働者派遣法が改正され、最大3年という派遣期間の枠が取り払われる見通しだ。多くの企業は派遣社員が使いやすくなることを歓迎し市場の拡大が期待できる。一方で派遣会社には派遣スタッフのキャリア支援を義務付ける。企業の潤滑油であり人材の使い捨てとの批判も受けてきた人材派遣はどう変わるのか。

企業、使いやすく
 「これで派遣が使いやすくなる」。大手電機の人事担当幹部は法改正を歓迎する。同社は製造ラインや事務で数千人規模の派遣を使っており、増員も検討している。

 現状は一般事務などの業務では3年しか派遣に任せられない。3年たつと次の派遣の採用まで3カ月の空白期間を設けなくてはならない。「派遣の仕事を社内で振り分けるのにひと苦労」と出版社の人事担当者は打ち明ける。改正法では企業は3年ごとに人さえ入れ替えれば同じ業務をずっと派遣に任せられる。

 トヨタ自動車やパナソニックなど大手から中小まで8割の企業が人材派遣を利用する。需要はリーマン・ショック後に工場閉鎖や海外シフトが相次ぎ大きく落ち込んでいる。2008年に8兆円近くあった市場は5兆円台まで落ち込んだ。それだけに人材派遣業界は法改正を好機とみている。

 改正法は派遣会社に「アメ」だけ与えるわけではない。派遣会社は派遣スタッフが将来、希望の仕事に就けるように支援する義務を負う。人材派遣大手首脳は「人をモノ扱いしてきたような負のイメージを変えなければいけない」と話す。

 テンプホールディングスなど派遣大手は自社の社員に派遣スタッフのキャリア形成相談に対応するための国家検定などを取得させている。パソナグループは現在の3倍の300人にする。1人当たり約140時間の講座受講が必要で約30万円の費用は会社持ちが多い。「勤務時間として認めることもあり、負担は軽くない」。蘭ランスタッド幹部は打ち明ける。

収益源を多様化
 経営環境は厳しさを増す。最近の人手不足で派遣会社がスタッフに支払う時給は上昇気味。ある大手企業の事務職の派遣業務の時給は1年間で約1割上がった。企業が派遣会社に支払う報酬は横ばいで利益率は悪化している。「受注競争が厳しく、値上げ交渉を言い出しにくい職種も多い」(営業担当者)。非正規社員の正社員化の流れも人材派遣には逆風となる。

 派遣各社は収益源の多様化を急いでいる。パソナグループは2月、企業の管理職が介護のために離職することを防ぐ支援サービスを始めた。介護セミナーと相談窓口の設置、生活支援サービスをワンセットで提供する。マンパワーグループは新卒採用支援を拡大している。面接や説明会の代行が柱となる。

 事業の多角化や教育訓練の充実にはコストを吸収できる企業体力も問われる。人材派遣業界には約2万社がひしめく。このうち売上高が年10億円以下の企業が9割を占める。「法改正によって業界の再編・淘汰が進む」(大手首脳)との見方が広がっている。

〔15.3.6.日経新聞:企業1面〕
▽変わるか人材派遣(下)シェア拡大へ再編機運 中堅・中小に淘汰の流れ
 

 「500億円出しても買うべきだった」。人材派遣大手の蘭ランスタッド日本法人の首脳は、本社を説得しきれずにM&A(合併・買収)案件を逃したことを今も悔やむ。

 昨夏、パナソニックは人材派遣子会社のパナソニックエクセルスタッフを売りに出した。年商640億円で大手企業系列では最大手。ランスタッドやパソナグループなど人材派遣大手が入札に参加し、約170億円でテンプホールディングス(HD)が競り勝った。

 9月にも施行が見込まれる改正労働者派遣法で人材派遣は制度が簡素になり企業は使いやすくなる。業界には追い風とはいえ企業が直接雇用を増やすなど先行きの不透明感は強い。人材派遣業界は上位10社のシェアが計3割に満たない。「手っ取り早くシェアを取れ」と再編機運が高まる。

大手が受け皿
 派遣大手は2012年ごろから企業系列の人材派遣会社を買収してきた。同年の労働者派遣法の改正がきっかけだ。正社員の雇用機会を増やすため自社グループ向け売上高を8割以下に抑えるよう義務付けた。

 グループ外への拡大には営業力などが足りず大手企業は派遣子会社の整理を進めた。東京電力系や神戸製鋼所系はテンプHD、伊藤忠商事と日本航空の共同出資会社はパソナが事業取得するなど、専業大手が再編の受け皿となっている。

 キヤノンやオムロン、大阪ガスなど依然としてグループに派遣会社を抱える企業は多い。新たな法改正を機に、派遣を非中核事業として売却する企業が出てくるとの見方は強い。

 「慎重かつ大胆に」。首位リクルートホールディングス(HD)の峰岸真澄社長はM&Aに強い意欲を示す。12年までに米人材派遣3社を傘下に入れた。昨年10月、東京証券取引所に上場し1千億円を調達。手元資金を増やした同社はさっそく豪人材派遣2社を計350億円で買収した。

 「会社の将来が見通せずに苦しんだが買収されて楽になった」。14年9月、中堅人材派遣の傘下に入った東海テクノアーム(愛知・刈谷)の類家光義社長は振り返る。売上高は年8億円で100人超の技術者を派遣していた。教育費の負担が増え新規採用も難しくなり身売りを決めたという。

 中小派遣の生き残りはさらに厳しい。日本M&Aセンターによるとリーマン・ショック以降に人材派遣で1千件のM&Aがあった。「法改正で各社の負担が増え、中小を中心に撤退や売却を検討する動きが広がる」(同センター)

国が背中押す
 厚生労働省も業界の健全化のため人材派遣会社の淘汰を促している。2月末、厚労省は法令に違反した人材派遣会社の事業許可取り消しや事業廃止の命令を全国110社に一斉に出した。昨秋にも同様の大規模処分を下したばかりだ。

 労働者派遣法の改正は派遣スタッフの数さえそろえれば成り立った時代に終わりを告げる。人材派遣業界は事業戦略の競争に舞台を移す時が迫っている。

 湯沢維久が担当しました。

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