(日経10/18:企業面)
三井不動産グループが横浜市で販売したマンションが傾いた問題で、建物と地盤を固定する杭(くい)打ち工事のデータ改ざんが明らかになった。なぜ虚偽データの使用が見過ごされたのか。下請けへ段階的に仕事を発注し、業務が細分化された業界特有の多層構造が、チェック体制を甘くした可能性がある。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1d/71/e7fb29d62819f200ada3275bd78bfc91.jpg)
「最近は玄関のドアできしむ音が聞こえた。(騒動によって)目減りする資産価値をどう補償してもらえるのか気がかりだ」。傾いた棟に住む男性は不安を隠さない。
2007年12月に完成した問題のマンションは4棟で構成し、計705戸ある。このうち傾いたのは1棟。建物の両端を比べると最大2.4センチメートルの差がある。昨年11月、住民らが廊下の手すりの高さに差があることに気付いた。
問題は杭の工事にあったとされる。マンションを販売した三井不動産レジデンシャルなどによると、一部の杭は地下十数メートルの「支持層」と呼ばれる固い地盤に届いていなかった。なぜこうした事態が起きたのか。
杭の工事はまず、敷地の複数箇所を掘削調査して地盤を調べる。今回は全体の工事をとりまとめる「元請け」の三井住友建設が専門業者に頼んだ。この結果を基に、三井住友建設が打ち込む場所・数・長さ・太さを決めて473本の杭を手配した。そして下請けの旭化成建材(東京・千代田)が杭打ち工事をした。
杭を打つ全ての場所で掘削調査をするわけではないため、実際に工事を始めてみると想定より支持層が深くにある場所もある。「掘ってみなければわからない」(三井住友建設)のが実態だ。準備した杭の長さが足りない事態は十分あり得る。
旭化成建材の担当者がその事実に気がついたとみられるのは、杭を打ち込むために、ドリルで地面に穴を開けた際だった。このドリルにかかる土の抵抗値を見ると、実際に支持層に届いているかどうかが分かる。抵抗値は波形のデータで記録する。
杭が短すぎるとわかったのに、長い杭を手当てするのではなく別の杭のデータを転用したり、加筆したりしてしのいだもよう。38本について虚偽データを使い、支持層に届かない杭が発生した。
さらに16日、新たなデータの不正利用が発覚した。ドリルで開けた穴には杭の先端と地盤を固定するため、セメントを流し込む。このセメント量のデータも改ざんしていた。つじつまを合わせるため偽装の連鎖が広がった可能性がある。セメントが足りなければ、本来の強度を得られない。
一連の杭打ちは2人1組で作業する。一人は杭を打ち込む建機を操縦し、もう一人はデータを管理する。この管理者がデータを改ざんしたもよう。16日夜に会見した旭化成建材の前田富弘社長は「断定はできないが改ざんはミスではなく悪意を持って施工不良を隠そうとした」と説明した。
マンションの工事は大まかに、杭を打ち込むなどの基礎工事、柱やはりなど骨組みを造るく体工事、内外装を造る仕上げ工事に分けられる。関連する会社は数十社にのぼることも珍しくない。
今回の杭打ち工事は、1次下請けが半導体製造装置を主力とする日立ハイテクノロジーズ。2次下請けが旭化成建材だった。三井住友建設は、日立ハイテクノロジーズに工事の進捗状況の確認や、安全の確保を任せていた。同社が間に入ったことも、三井住友建設の旭化成建材に対するチェックの目を甘くした可能性がある。
同じような問題は繰り返されてきた。14年1月、鹿島が元請けとなり完成直前まで工事が進んでいた東京都港区のマンションで、下請けが工事を手掛けた配管や配線用の壁の穴が設計通りに開いていなかったことが発覚。建て直しになった。
20年の東京五輪を前にマンションやビルの建設は活発だ。人手が不足し、下請け工事の品質や元請けの管理機能の低下を懸念する声もある。不正やミスをチェックする体制を構築し直せるのか。再び信頼を失えば、厳しい選別にさらされるだろう。 (藤野逸郎)
三井不動産グループが横浜市で販売したマンションが傾いた問題で、建物と地盤を固定する杭(くい)打ち工事のデータ改ざんが明らかになった。なぜ虚偽データの使用が見過ごされたのか。下請けへ段階的に仕事を発注し、業務が細分化された業界特有の多層構造が、チェック体制を甘くした可能性がある。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1d/71/e7fb29d62819f200ada3275bd78bfc91.jpg)
「最近は玄関のドアできしむ音が聞こえた。(騒動によって)目減りする資産価値をどう補償してもらえるのか気がかりだ」。傾いた棟に住む男性は不安を隠さない。
2007年12月に完成した問題のマンションは4棟で構成し、計705戸ある。このうち傾いたのは1棟。建物の両端を比べると最大2.4センチメートルの差がある。昨年11月、住民らが廊下の手すりの高さに差があることに気付いた。
問題は杭の工事にあったとされる。マンションを販売した三井不動産レジデンシャルなどによると、一部の杭は地下十数メートルの「支持層」と呼ばれる固い地盤に届いていなかった。なぜこうした事態が起きたのか。
杭の工事はまず、敷地の複数箇所を掘削調査して地盤を調べる。今回は全体の工事をとりまとめる「元請け」の三井住友建設が専門業者に頼んだ。この結果を基に、三井住友建設が打ち込む場所・数・長さ・太さを決めて473本の杭を手配した。そして下請けの旭化成建材(東京・千代田)が杭打ち工事をした。
杭を打つ全ての場所で掘削調査をするわけではないため、実際に工事を始めてみると想定より支持層が深くにある場所もある。「掘ってみなければわからない」(三井住友建設)のが実態だ。準備した杭の長さが足りない事態は十分あり得る。
旭化成建材の担当者がその事実に気がついたとみられるのは、杭を打ち込むために、ドリルで地面に穴を開けた際だった。このドリルにかかる土の抵抗値を見ると、実際に支持層に届いているかどうかが分かる。抵抗値は波形のデータで記録する。
杭が短すぎるとわかったのに、長い杭を手当てするのではなく別の杭のデータを転用したり、加筆したりしてしのいだもよう。38本について虚偽データを使い、支持層に届かない杭が発生した。
さらに16日、新たなデータの不正利用が発覚した。ドリルで開けた穴には杭の先端と地盤を固定するため、セメントを流し込む。このセメント量のデータも改ざんしていた。つじつまを合わせるため偽装の連鎖が広がった可能性がある。セメントが足りなければ、本来の強度を得られない。
一連の杭打ちは2人1組で作業する。一人は杭を打ち込む建機を操縦し、もう一人はデータを管理する。この管理者がデータを改ざんしたもよう。16日夜に会見した旭化成建材の前田富弘社長は「断定はできないが改ざんはミスではなく悪意を持って施工不良を隠そうとした」と説明した。
マンションの工事は大まかに、杭を打ち込むなどの基礎工事、柱やはりなど骨組みを造るく体工事、内外装を造る仕上げ工事に分けられる。関連する会社は数十社にのぼることも珍しくない。
今回の杭打ち工事は、1次下請けが半導体製造装置を主力とする日立ハイテクノロジーズ。2次下請けが旭化成建材だった。三井住友建設は、日立ハイテクノロジーズに工事の進捗状況の確認や、安全の確保を任せていた。同社が間に入ったことも、三井住友建設の旭化成建材に対するチェックの目を甘くした可能性がある。
同じような問題は繰り返されてきた。14年1月、鹿島が元請けとなり完成直前まで工事が進んでいた東京都港区のマンションで、下請けが工事を手掛けた配管や配線用の壁の穴が設計通りに開いていなかったことが発覚。建て直しになった。
20年の東京五輪を前にマンションやビルの建設は活発だ。人手が不足し、下請け工事の品質や元請けの管理機能の低下を懸念する声もある。不正やミスをチェックする体制を構築し直せるのか。再び信頼を失えば、厳しい選別にさらされるだろう。 (藤野逸郎)