(日経7/21:グローバルBiz面)
かつて日本企業が席巻したビデオカメラ市場で、快進撃を続ける米企業がある。身につけて撮影する「アクションカメラ」と呼ぶ新分野を開拓したGoPro(ゴープロ)だ。急成長の秘密は自分を格好良く撮りたいという「自撮り」需要に特化したユニークな製品開発と、撮影した動画をインターネットを介して共有するという消費者行動をいち早くマーケティングに活用した点にある。
左:動画制作の専門部隊を抱え、メディア企業としても存在感を高める(カリフォルニア州のゴープロ本社)
右:米ゴープロの新製品「HERO4セッション」
今月6日、ゴープロはアイスキューブ大の超小型カメラ「HERO4セッション」を発表した。従来の製品に比べて5割小さく、4割軽い。防水ケースなしで深さ10メートルまでの水中で使える。「当社が培ってきた技術力と使い勝手に関するノウハウを結集した」。創業者で最高経営責任者(CEO)のニコラス・ウッドマン氏(40)は胸を張る。
米調査会社IDCによると、2014年の世界のビデオカメラ市場でのゴープロのシェアは42.2%と、前年の30.4%から10ポイント以上拡大。2位のソニーに2倍以上の差をつけた。市場全体の出荷台数が13年の1350万台から1240万台に縮小する中、アクションカメラは860万台から920万台に拡大。新規参入も相次ぐ。
ゴープロのカメラには手ぶれ防止機能もなければ、ズームもない。一部の機種を除けば、映像を確認する液晶モニターすら省いている。にもかかわらず、世界中で「指名買い」される強力なブランドを確立したのは、「撮る楽しみ」と「共有する楽しみ」を最大化する巧みな仕掛けにある。
ゴープロの創業は04年。「サーフィンをしている自分の姿を格好良く撮りたい」という発想から生まれた製品にサーファーだけでなくスキーやバイクなどあらゆるスポーツ愛好家が飛びついた。サーフボードやヘルメットなどにカメラを装着する多種多様なアクセサリーは斬新なアングルの撮影を可能にし、利用者の創作意欲を刺激した。
くしくも初代ゴープロが発売された05年は動画サイトの「ユーチューブ」が登場した年でもあった。彼らはゴープロで撮った動画を競うように投稿。見る者を興奮させる迫力のある映像がソーシャルメディアを通じて広がり、ゴープロへの興味をかきたてる好循環を生んだ。ウッドマン氏は「顧客が生み出すコンテンツこそ、我々の競争力の源泉だ」と言い切る。
カメラメーカーの枠を超えたゴープロの一面を示すのが世界中の利用者がネットに投稿する動画を発掘する約50人の専門部隊の存在だ。投稿される動画の数はユーチューブだけで1日1万5000本と、この1年で倍増。質の高い作品があれば、投稿者の了解を得た上で編集を加え、公式サイトなどで紹介する。ユーチューブ上に開設したゴープロの公式チャンネルの登録視聴者は300万人以上。最近は自前のコンテンツ制作にも力を入れており、メディア企業としても存在感を高める。
今後の成長のカギを握るのが、開発中のクラウドサービスだ。ゴープロ利用者の最大の不満は、撮影した動画の管理と編集に手間がかかること。「撮りっぱなしでメモリーカードの中に埋もれている動画は多い」(ウッドマン氏)。そこで撮影を終えたカメラの充電を始めると、撮りためた動画を自動的にクラウドに保存できるようにする。映像の管理や編集が簡単になり、共有する人が増えれば、成功の方程式ともいえるコンテンツとハードの好循環に拍車がかかるというわけだ。
16年前半には空撮が可能な自社開発の小型無人機(ドローン)を発売する。成長期待の高い仮想現実(VR)分野では仏ベンチャーを4月に買収。360度のVR映像が撮影できる機材の開発では米グーグルと手を組んだ。ハードウエアのトレンドやイノベーションも積極的に取り込む。
中国勢が仕掛ける価格競争を懸念する声もあるが、ハードとコンテンツが強固に結びつくエコシステム(生態系)を築いたゴープロの優位性は簡単には揺らぎそうにない。 (シリコンバレー=小川義也)
▼GoPro(ゴープロ)の概要
最高経営責任者(CEO)のニコラス・ウッドマン氏が2004年に創業。本社はカリフォルニア州サンマテオで、従業員数は1076人(15年3月末時点)。昨年6月に米ナスダックに上場した。14年12月期の売上高は前期比41%増の13億9400万ドル(約1730億円)、純利益は2.1倍の1億2800万ドル。
▼創業者兼CEOに聞く 「モノ」でなく「体験」売る
米ゴープロのニコラス・ウッドマン創業者兼最高経営責任者(CEO)に競争環境や成長戦略を聞いた。
――競争相手としてソニーやパナソニックをどう見ていますか。
「ソニーもパナソニックも尊敬しているが、ビジネスモデルが違う。彼らはハードを売っているだけだが、我々は撮影した動画を編集し、共有して楽しむソフトやサービスも一体として提供している」
「我々は製造業というよりコンテンツ産業に身を置いていると考えている。ハードウエアは大事だが、あくまでコンテンツを生み出す過程の入り口にすぎない。ゴープロの顧客はカメラという『モノ』ではなく、この製品を使うことで素晴らしい作品が作れるという『体験』に対してお金を払っている。この違いをソニーやパナソニックは必ずしも理解していない」
――スマートフォン(スマホ)は脅威ですか。
「伝統的なカメラがスマホに取って代わられたのは用途が同じだからだ。ゴープロは使われ方が違う。サーフボードの先端やドローンにスマホを取り付けて動画や写真を撮るのはいいアイデアとはいえない」
「むしろ、スマホは我々の競争相手になるはずだったカメラメーカーを弱らせてくれた。人々が普通のカメラを買う必要がなくなった結果、ゴープロにお金をかける余裕ができたのも幸運だった」
――日本市場はどう攻略しますか。
「最近、初めてのオフィスを開設し、数人の社員を雇った。これまでは主に販売代理店に依存していたが、来年にかけて体制を強化していく」
【ご参考:15.3.4.日経記事】
▼(売れ筋分析)アクションカメラ 米社の「4K」対応型首位
ヘルメットなどに装着して撮影を楽しむ小型のビデオカメラは「アクションカメラ」といわれ、ウインタースポーツの季節にも出番が増える。
BCN(東京・千代田)によると、1月のアクションカメラの販売台数トップは米ウッドマンラボの「GoPro(ゴープロ) HERO4」。高精細映像「4K」の撮影と本体でタッチパネル操作ができる。防水ケースなどの周辺アクセサリーは従来機のものを活用できる。買い替えの顧客も多い。
2、4、5位にはソニーの製品がランクインした。2位の「HDR―AS100VR」は、手ぶれ補正機能などが充実した主力モデルで、液晶画面のあるリモコン付きだ。リモコンは腕時計のように装着でき、録画している映像を確認できる。
マイナス10度でも動作し、スキーやスノーボードの撮影向けとしても人気。リモコンなしの「HDR―AS100V」も5位に入った。一方、4位の「HDR―AZ1VR」は小型で軽量。防水性能も備える。
3位のパナソニックの「HX―A500」も「4K」で撮れるカメラ。「ゴープロ」はアクセサリー類も多く、世界的に人気だが、メーカー別のシェアでソニーが上回るのは日本市場の特徴といえる。
かつて日本企業が席巻したビデオカメラ市場で、快進撃を続ける米企業がある。身につけて撮影する「アクションカメラ」と呼ぶ新分野を開拓したGoPro(ゴープロ)だ。急成長の秘密は自分を格好良く撮りたいという「自撮り」需要に特化したユニークな製品開発と、撮影した動画をインターネットを介して共有するという消費者行動をいち早くマーケティングに活用した点にある。
左:動画制作の専門部隊を抱え、メディア企業としても存在感を高める(カリフォルニア州のゴープロ本社)
右:米ゴープロの新製品「HERO4セッション」
今月6日、ゴープロはアイスキューブ大の超小型カメラ「HERO4セッション」を発表した。従来の製品に比べて5割小さく、4割軽い。防水ケースなしで深さ10メートルまでの水中で使える。「当社が培ってきた技術力と使い勝手に関するノウハウを結集した」。創業者で最高経営責任者(CEO)のニコラス・ウッドマン氏(40)は胸を張る。
米調査会社IDCによると、2014年の世界のビデオカメラ市場でのゴープロのシェアは42.2%と、前年の30.4%から10ポイント以上拡大。2位のソニーに2倍以上の差をつけた。市場全体の出荷台数が13年の1350万台から1240万台に縮小する中、アクションカメラは860万台から920万台に拡大。新規参入も相次ぐ。
ゴープロのカメラには手ぶれ防止機能もなければ、ズームもない。一部の機種を除けば、映像を確認する液晶モニターすら省いている。にもかかわらず、世界中で「指名買い」される強力なブランドを確立したのは、「撮る楽しみ」と「共有する楽しみ」を最大化する巧みな仕掛けにある。
ゴープロの創業は04年。「サーフィンをしている自分の姿を格好良く撮りたい」という発想から生まれた製品にサーファーだけでなくスキーやバイクなどあらゆるスポーツ愛好家が飛びついた。サーフボードやヘルメットなどにカメラを装着する多種多様なアクセサリーは斬新なアングルの撮影を可能にし、利用者の創作意欲を刺激した。
くしくも初代ゴープロが発売された05年は動画サイトの「ユーチューブ」が登場した年でもあった。彼らはゴープロで撮った動画を競うように投稿。見る者を興奮させる迫力のある映像がソーシャルメディアを通じて広がり、ゴープロへの興味をかきたてる好循環を生んだ。ウッドマン氏は「顧客が生み出すコンテンツこそ、我々の競争力の源泉だ」と言い切る。
カメラメーカーの枠を超えたゴープロの一面を示すのが世界中の利用者がネットに投稿する動画を発掘する約50人の専門部隊の存在だ。投稿される動画の数はユーチューブだけで1日1万5000本と、この1年で倍増。質の高い作品があれば、投稿者の了解を得た上で編集を加え、公式サイトなどで紹介する。ユーチューブ上に開設したゴープロの公式チャンネルの登録視聴者は300万人以上。最近は自前のコンテンツ制作にも力を入れており、メディア企業としても存在感を高める。
今後の成長のカギを握るのが、開発中のクラウドサービスだ。ゴープロ利用者の最大の不満は、撮影した動画の管理と編集に手間がかかること。「撮りっぱなしでメモリーカードの中に埋もれている動画は多い」(ウッドマン氏)。そこで撮影を終えたカメラの充電を始めると、撮りためた動画を自動的にクラウドに保存できるようにする。映像の管理や編集が簡単になり、共有する人が増えれば、成功の方程式ともいえるコンテンツとハードの好循環に拍車がかかるというわけだ。
16年前半には空撮が可能な自社開発の小型無人機(ドローン)を発売する。成長期待の高い仮想現実(VR)分野では仏ベンチャーを4月に買収。360度のVR映像が撮影できる機材の開発では米グーグルと手を組んだ。ハードウエアのトレンドやイノベーションも積極的に取り込む。
中国勢が仕掛ける価格競争を懸念する声もあるが、ハードとコンテンツが強固に結びつくエコシステム(生態系)を築いたゴープロの優位性は簡単には揺らぎそうにない。 (シリコンバレー=小川義也)
▼GoPro(ゴープロ)の概要
最高経営責任者(CEO)のニコラス・ウッドマン氏が2004年に創業。本社はカリフォルニア州サンマテオで、従業員数は1076人(15年3月末時点)。昨年6月に米ナスダックに上場した。14年12月期の売上高は前期比41%増の13億9400万ドル(約1730億円)、純利益は2.1倍の1億2800万ドル。
▼創業者兼CEOに聞く 「モノ」でなく「体験」売る
米ゴープロのニコラス・ウッドマン創業者兼最高経営責任者(CEO)に競争環境や成長戦略を聞いた。
――競争相手としてソニーやパナソニックをどう見ていますか。
「ソニーもパナソニックも尊敬しているが、ビジネスモデルが違う。彼らはハードを売っているだけだが、我々は撮影した動画を編集し、共有して楽しむソフトやサービスも一体として提供している」
「我々は製造業というよりコンテンツ産業に身を置いていると考えている。ハードウエアは大事だが、あくまでコンテンツを生み出す過程の入り口にすぎない。ゴープロの顧客はカメラという『モノ』ではなく、この製品を使うことで素晴らしい作品が作れるという『体験』に対してお金を払っている。この違いをソニーやパナソニックは必ずしも理解していない」
――スマートフォン(スマホ)は脅威ですか。
「伝統的なカメラがスマホに取って代わられたのは用途が同じだからだ。ゴープロは使われ方が違う。サーフボードの先端やドローンにスマホを取り付けて動画や写真を撮るのはいいアイデアとはいえない」
「むしろ、スマホは我々の競争相手になるはずだったカメラメーカーを弱らせてくれた。人々が普通のカメラを買う必要がなくなった結果、ゴープロにお金をかける余裕ができたのも幸運だった」
――日本市場はどう攻略しますか。
「最近、初めてのオフィスを開設し、数人の社員を雇った。これまでは主に販売代理店に依存していたが、来年にかけて体制を強化していく」
【ご参考:15.3.4.日経記事】
▼(売れ筋分析)アクションカメラ 米社の「4K」対応型首位
ヘルメットなどに装着して撮影を楽しむ小型のビデオカメラは「アクションカメラ」といわれ、ウインタースポーツの季節にも出番が増える。
BCN(東京・千代田)によると、1月のアクションカメラの販売台数トップは米ウッドマンラボの「GoPro(ゴープロ) HERO4」。高精細映像「4K」の撮影と本体でタッチパネル操作ができる。防水ケースなどの周辺アクセサリーは従来機のものを活用できる。買い替えの顧客も多い。
2、4、5位にはソニーの製品がランクインした。2位の「HDR―AS100VR」は、手ぶれ補正機能などが充実した主力モデルで、液晶画面のあるリモコン付きだ。リモコンは腕時計のように装着でき、録画している映像を確認できる。
マイナス10度でも動作し、スキーやスノーボードの撮影向けとしても人気。リモコンなしの「HDR―AS100V」も5位に入った。一方、4位の「HDR―AZ1VR」は小型で軽量。防水性能も備える。
3位のパナソニックの「HX―A500」も「4K」で撮れるカメラ。「ゴープロ」はアクセサリー類も多く、世界的に人気だが、メーカー別のシェアでソニーが上回るのは日本市場の特徴といえる。