〔15.4.10.日経新聞:マーケット総合1面〕
9日の日経平均株価は一時、2万円まであと40円強に迫った。月初の株価調整時には「大台回復は決算発表を見極めてから」と慎重論が広がったが、3月の米雇用統計悪化を機に米国の早期利上げへの警戒が後退。根強い日銀の追加緩和観測も手伝い、流動性相場が再点火された格好だ。カネ余り頼みの構図が強まれば、株高の持続が揺らぎかねない。
「強気相場はまだ続く」。大和証券グローバル・エクイティ・セールス第一部の上島英二副部長はこの日、昼食を共にした海外投資家の言葉から一段高の自信を深めたという。その投資家いわく「欧州の投資資金の出し手から、日本株に関する問い合わせが日増しに多くなっている」。
実質新年度相場入りした3月27日以降に足踏みムードが広がったころから空気は一変。「『降りたら負け』という雰囲気」(東海東京証券の太井正人グループリーダー)のなか、出遅れ組が資金配分を急ぐ動きが性急にもみえる2万円トライを支えている。
今の上昇の起点となったのは前週末発表の3月の米雇用統計だ。非農業部門雇用者数の増加幅が市場予想の半分となり、「6月にも」との声もあった早期利上げ観測が後退。これを受けた世界的なリスク資産買いに加え、4月30日の金融政策決定会合で日銀が追加緩和に動くという期待も日本株を押し上げている。
流動性相場の影は物色動向にも色濃く表れている。9日には三井不動産やオリックス、第一生命保険など金融、不動産株が軒並み年初来高値を更新した。
「米経済が堅調を維持し、円安基調と国内景気持ち直しの追い風のなかで日本企業の実力が評価され、日経平均が2万円に乗せる」というのが、3月末までの株高局面の筋書きだったはず。米雇用の減速という、従来シナリオの前提のぐらつきが株高を誘う現状には違和感も漂う。
もっとも、一歩引いてみれば、緩和マネーが相場を支える構図は金融危機以降、見慣れた風景でもある。日銀が追加緩和に踏み切った昨秋以降を振り返っても、カネ余り期待は要所でマネーのリスクテークを後押ししてきた。
投資家の不安心理を表す日経平均ボラティリティー・インデックス(VI)をみてみよう。年初からの株安局面で一時27強まで跳ね上がった日経VIは、1月22日に欧州中央銀行(ECB)が量的緩和を決定すると一気に20程度まで低下した。3月末からの上昇局面も米雇用統計悪化を境に沈静化し、9日は一時18.55と昨年10月以来の水準まで下がる場面があった。
今後の課題はカネ余り依存からの脱却だろう。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘投資情報部長は日米などの経験則から「金融緩和主導の流動性相場は半年程度しかもたず、その後波乱含みとなることが多い」と話す。「2月以降、短期筋の先物買いが膨らんでおり、利益確定売りに転じればインパクトは大きい」(UBS証券の居林通エグゼクティブディレクター)との声もある。
「金融相場から業績相場へ」は、株高持続の条件として繰り返されてきたフレーズだ。もうすぐ始まる3月期企業の決算発表ラッシュを機に、「日本企業の実力を買う」という動きが本格化するか。稼ぎどころの米景気の減速懸念が強まるなか、長期の株高持続のハードルは上がっている。 (酒井隆介)
9日の日経平均株価は一時、2万円まであと40円強に迫った。月初の株価調整時には「大台回復は決算発表を見極めてから」と慎重論が広がったが、3月の米雇用統計悪化を機に米国の早期利上げへの警戒が後退。根強い日銀の追加緩和観測も手伝い、流動性相場が再点火された格好だ。カネ余り頼みの構図が強まれば、株高の持続が揺らぎかねない。
「強気相場はまだ続く」。大和証券グローバル・エクイティ・セールス第一部の上島英二副部長はこの日、昼食を共にした海外投資家の言葉から一段高の自信を深めたという。その投資家いわく「欧州の投資資金の出し手から、日本株に関する問い合わせが日増しに多くなっている」。
実質新年度相場入りした3月27日以降に足踏みムードが広がったころから空気は一変。「『降りたら負け』という雰囲気」(東海東京証券の太井正人グループリーダー)のなか、出遅れ組が資金配分を急ぐ動きが性急にもみえる2万円トライを支えている。
今の上昇の起点となったのは前週末発表の3月の米雇用統計だ。非農業部門雇用者数の増加幅が市場予想の半分となり、「6月にも」との声もあった早期利上げ観測が後退。これを受けた世界的なリスク資産買いに加え、4月30日の金融政策決定会合で日銀が追加緩和に動くという期待も日本株を押し上げている。
流動性相場の影は物色動向にも色濃く表れている。9日には三井不動産やオリックス、第一生命保険など金融、不動産株が軒並み年初来高値を更新した。
「米経済が堅調を維持し、円安基調と国内景気持ち直しの追い風のなかで日本企業の実力が評価され、日経平均が2万円に乗せる」というのが、3月末までの株高局面の筋書きだったはず。米雇用の減速という、従来シナリオの前提のぐらつきが株高を誘う現状には違和感も漂う。
もっとも、一歩引いてみれば、緩和マネーが相場を支える構図は金融危機以降、見慣れた風景でもある。日銀が追加緩和に踏み切った昨秋以降を振り返っても、カネ余り期待は要所でマネーのリスクテークを後押ししてきた。
投資家の不安心理を表す日経平均ボラティリティー・インデックス(VI)をみてみよう。年初からの株安局面で一時27強まで跳ね上がった日経VIは、1月22日に欧州中央銀行(ECB)が量的緩和を決定すると一気に20程度まで低下した。3月末からの上昇局面も米雇用統計悪化を境に沈静化し、9日は一時18.55と昨年10月以来の水準まで下がる場面があった。
今後の課題はカネ余り依存からの脱却だろう。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘投資情報部長は日米などの経験則から「金融緩和主導の流動性相場は半年程度しかもたず、その後波乱含みとなることが多い」と話す。「2月以降、短期筋の先物買いが膨らんでおり、利益確定売りに転じればインパクトは大きい」(UBS証券の居林通エグゼクティブディレクター)との声もある。
「金融相場から業績相場へ」は、株高持続の条件として繰り返されてきたフレーズだ。もうすぐ始まる3月期企業の決算発表ラッシュを機に、「日本企業の実力を買う」という動きが本格化するか。稼ぎどころの米景気の減速懸念が強まるなか、長期の株高持続のハードルは上がっている。 (酒井隆介)