(日経7/18:総合1面)
米ゼネラル・エレクトリック(GE)が新たな構造改革を進めている。今年4月に稼ぎ頭だった金融ビジネスから事実上の撤退を決めた一方、本業の製造業の競争力強化を急ぐ。トップ就任14年目にして一大改革に取り組むジェフ・イメルト会長兼最高経営責任者(CEO)が新時代のGEについて語った。
世界は変わった
――金融事業を大幅縮小するのはなぜですか。
「金融危機後、金融事業を取り巻く環境が劇的に変化し、適切な投下資本利益率(ROI)を上げる能力が急速に衰えた。一方、GEが強みを持つ産業分野で投資機会が際限なく広がってきた。金融から引き揚げ、航空機エンジンや発電機など産業分野に再配分すればGEの競争力を強化できると考えた」
――金融を売却した資金の活用法は。
「金融資産は約3500億ドル(約42兆円)あり、そのうち約2500億ドル(約30兆円)を売却する予定だ。(M&Aを加味しない)売上高を毎年5%成長させたいので、産業分野の研究開発や工場設備などに投資していくことになるだろう。M&A(合併・買収)には30億~50億ドル投資する予定だが、機会があれば大きな案件も狙う。自社株買いなど株主還元も充実させ、(現在約100億株の)発行済み株数を80億株に減らしたい」
――総資産の約4割を一気に売却する過去に例のない大手術。ためらいはありませんでしたか。
「心情的にはつらい決断だった。従業員にとって厳しかったと思う。しかし、世界は変わった。米金融当局は(規制強化の観点から)我々に銀行になってほしかったが、我々は銀行になるつもりはない。それなら、GEではなく外に出て違う親会社と事業を展開するほうが従業員にとっても良いと考えた」
――GEが目指す新たな製造業の姿とは。
「過去20年間、デジタル革命は主に消費者向けインターネットの分野がけん引してきた。企業でいえば、米アマゾン・ドット・コムやグーグルなどだ。しかし、今後10~20年で、産業の世界にデジタル化による変革の波が本格的に訪れる」
「GEはデジタル化により、強みを持つ産業分野の『能力の拡張』を目指している。具体的には生産性の向上だ。我々が提唱している『インダストリアル・インターネット』は産業機器をネットワークで結ぶことで、資産効率を高めることができる」
――ドイツが「インダストリー4.0」を掲げるなどモノのインターネット化(IoT)の競争は激化しています。
「中国では同様の動きを『インターネット・プラス』と名付けるなど、呼称は様々だが、世界同時多発的に新しい産業の時代が始まろうとしている。競合は独シーメンスや日立製作所だけでなく、ソフトウエアやベンチャーなどあらゆる企業に広がる。GEは(産業のデジタル化の)スタート時点でリーダーだが成功は保証されていない。スピードが重要だ」
日本企業と連携
――GEはメーカーなのかIT企業なのか。どう定義しますか。
「接続産業企業(connected industrial company)だ。リアルとデジタルの交差点に立ってデジタル化と同時に製造業をさらに進化させ、新たな時代で勝利する」
――IoT分野で日本企業との連携は。
「ソフトバンクと組むのは重要だ。既に複数の顧客を獲得している。自動販売機の管理などさまざまな業界でビジネス展開を目指す。日本には機器を製造する企業も多くセンサー、ロボット、無人飛行機などインダストリアル・インターネットが普及する素地がある」
――後継者の条件は。
「GEは大きくて複雑な企業だが、持ち株会社のような運営をしてほしくない。すべての社員の人生とGEという会社が結びつくような(社員と一体感を持った)経営をしてもらいたいと思っている。こうした感覚を持つことが必要だ」
(聞き手はニューヨーク=稲井創一、編集委員 西條都夫)
Jeff Immelt ジャック・ウェルチ氏の後任として、2001年9月に45歳の若さで米ゼネラル・エレクトリック(GE)9代目の会長兼CEOに就任。直後に起きた米同時テロや金融危機などの難局を乗り越えてきた。家電事業や放送事業などを売却する一方、仏アルストムの部分買収に執念を見せるなど絶え間ない「選択と集中」を進める。59歳。
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米ゼネラル・エレクトリック(GE)が新たな構造改革を進めている。今年4月に稼ぎ頭だった金融ビジネスから事実上の撤退を決めた一方、本業の製造業の競争力強化を急ぐ。トップ就任14年目にして一大改革に取り組むジェフ・イメルト会長兼最高経営責任者(CEO)が新時代のGEについて語った。
世界は変わった
――金融事業を大幅縮小するのはなぜですか。
「金融危機後、金融事業を取り巻く環境が劇的に変化し、適切な投下資本利益率(ROI)を上げる能力が急速に衰えた。一方、GEが強みを持つ産業分野で投資機会が際限なく広がってきた。金融から引き揚げ、航空機エンジンや発電機など産業分野に再配分すればGEの競争力を強化できると考えた」
――金融を売却した資金の活用法は。
「金融資産は約3500億ドル(約42兆円)あり、そのうち約2500億ドル(約30兆円)を売却する予定だ。(M&Aを加味しない)売上高を毎年5%成長させたいので、産業分野の研究開発や工場設備などに投資していくことになるだろう。M&A(合併・買収)には30億~50億ドル投資する予定だが、機会があれば大きな案件も狙う。自社株買いなど株主還元も充実させ、(現在約100億株の)発行済み株数を80億株に減らしたい」
――総資産の約4割を一気に売却する過去に例のない大手術。ためらいはありませんでしたか。
「心情的にはつらい決断だった。従業員にとって厳しかったと思う。しかし、世界は変わった。米金融当局は(規制強化の観点から)我々に銀行になってほしかったが、我々は銀行になるつもりはない。それなら、GEではなく外に出て違う親会社と事業を展開するほうが従業員にとっても良いと考えた」
――GEが目指す新たな製造業の姿とは。
「過去20年間、デジタル革命は主に消費者向けインターネットの分野がけん引してきた。企業でいえば、米アマゾン・ドット・コムやグーグルなどだ。しかし、今後10~20年で、産業の世界にデジタル化による変革の波が本格的に訪れる」
「GEはデジタル化により、強みを持つ産業分野の『能力の拡張』を目指している。具体的には生産性の向上だ。我々が提唱している『インダストリアル・インターネット』は産業機器をネットワークで結ぶことで、資産効率を高めることができる」
――ドイツが「インダストリー4.0」を掲げるなどモノのインターネット化(IoT)の競争は激化しています。
「中国では同様の動きを『インターネット・プラス』と名付けるなど、呼称は様々だが、世界同時多発的に新しい産業の時代が始まろうとしている。競合は独シーメンスや日立製作所だけでなく、ソフトウエアやベンチャーなどあらゆる企業に広がる。GEは(産業のデジタル化の)スタート時点でリーダーだが成功は保証されていない。スピードが重要だ」
日本企業と連携
――GEはメーカーなのかIT企業なのか。どう定義しますか。
「接続産業企業(connected industrial company)だ。リアルとデジタルの交差点に立ってデジタル化と同時に製造業をさらに進化させ、新たな時代で勝利する」
――IoT分野で日本企業との連携は。
「ソフトバンクと組むのは重要だ。既に複数の顧客を獲得している。自動販売機の管理などさまざまな業界でビジネス展開を目指す。日本には機器を製造する企業も多くセンサー、ロボット、無人飛行機などインダストリアル・インターネットが普及する素地がある」
――後継者の条件は。
「GEは大きくて複雑な企業だが、持ち株会社のような運営をしてほしくない。すべての社員の人生とGEという会社が結びつくような(社員と一体感を持った)経営をしてもらいたいと思っている。こうした感覚を持つことが必要だ」
(聞き手はニューヨーク=稲井創一、編集委員 西條都夫)
Jeff Immelt ジャック・ウェルチ氏の後任として、2001年9月に45歳の若さで米ゼネラル・エレクトリック(GE)9代目の会長兼CEOに就任。直後に起きた米同時テロや金融危機などの難局を乗り越えてきた。家電事業や放送事業などを売却する一方、仏アルストムの部分買収に執念を見せるなど絶え間ない「選択と集中」を進める。59歳。
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