〔15.3.13.日経新聞:1面〕
東京電力は携帯電話会社と提携し、通信と電気をセットにした割引販売に乗り出す。月内にNTTドコモなど大手3社と交渉を始め、2016年度から開始する。買い物に使える共通ポイントの導入も検討する。16年4月からの家庭向けの電力小売り自由化(総合2面きょうのことば)で、新規事業者との競合が激しくなる。管内の契約維持だけでなく全国で「越境供給」するためにも、異業種との連携で割安感を打ち出す。(関連記事企業1面に)
東電は近くKDDI(au)とソフトバンクを含めた3社からセット販売の事業提案を募り、4月中にも提携先を1社決める。携帯電話会社との提携によって「携帯電話の契約を他社から乗り換えた客には電気料金を1年間10%下げる」といった料金プランが可能になる。
東電は携帯各社の窓口で電気の契約を受け付けることも検討する。16年の自由化後、東電は首都圏など管内だけでなく全国の家庭への電気供給も検討している。豊富な営業拠点を持つ携帯電話会社と組むことで、新規客を取り込めるとみている。東電の新事業がきっかけとなって、関西電力なども携帯大手との提携に動き出す可能性もある。
携帯各社も電力会社と組むメリットが大きい。KDDIやNTTドコモは携帯電話と光回線のセット割引に乗り出している。同じ月払いの電気も商品に加われば、消費者にとって「まとめ買い」の利便性が高まる。
1999年から電力自由化を始めた英国では、電気と携帯、固定回線、ガスなどの契約を組み合わせた多くの料金のプランがある。消費者の6割が電力会社を乗り換えた経験があるとされる。
東電はコンビニエンスストアなどで使える「共通ポイント」の導入も検討する。三菱商事系のロイヤリティマーケティング(東京・渋谷)が運営する「Ponta(ポンタ)」、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)系の「Tポイント」、楽天の「楽天スーパーポイント」の3陣営に月内に提携を打診する。それぞれ数千万人の顧客基盤を抱えている。
例えば消費者がほかの電力会社から乗り換えて東電と契約すれば、ポイントがもらえるサービスなどを展開する。東電の既存客向けにポイントを付与することも検討する。東日本大震災以降、原子力発電所の稼働停止などで電気料金が上昇しており、特典ポイントの導入で家計の負担感を和らげる狙いもある。
16年に家庭向けの電力小売りが完全自由化すると、首都圏など東電管内は異業種からの電力小売り参入で競争が激しくなるとみられる。異業種との提携で顧客を囲い込むことで、家庭や商店など東電が抱える約2700万件の小口契約を維持する狙いがある。東電はほかの電力会社の管内で電気を販売する「越境供給」にも乗り出す考えで、割安なサービスを提供して顧客を獲得する。
▽きょうのことば 「電力小売り自由化」 500社超が新規参入
▽…2016年4月から誰でも家庭に電気を売れるようになる。従来は東京電力など10社が地域別に販売を独占してきた。00年以降、大工場などへの販売は段階的に自由化してきたが、政府は東日本大震災後に家庭向けも自由化する方針を決めた。電気料金の高騰を抑制する狙いだ。
▽…自由化をにらんで「新電力」として経済産業省に届け出た企業は500社超に達する。丸紅やJX日鉱日石エネルギーなどが家庭向け小売りに参入する見通しだ。政府は17年に家庭向けの都市ガス販売も自由化する。自由化で先行する欧米では、消費者がインターネットで電気料金を比較して契約するのが一般的。料金プランを差別化するため、電気やガス、通信などのセット販売も盛んだ。
▽…政府は自由化を進めるため、9電力会社の送配電部門を分社する「発送電分離」を20年に実施することも決めた。電気を売るために電力会社の送電線を利用する新電力が不利にならないためだ。電気料金の仕組みも20年以降に変える。今は電力会社が積み上げた費用に利益を上乗せして決める「総括原価方式」だが、撤廃する。
〔企業1面〕
▽東電、電力自由化に備え 提携交渉 顧客をつなぎ留め
東京電力が携帯電話とのセット販売など電力小売り分野で提携を急ぐのは、2016年4月の家庭向けを含む電力販売の全面自由化に備え競争力を高めるためだ。自由化後は新規参入が相次ぎ、東電の「庭」だった首都圏市場は草刈り場になりかねない。携帯電話会社以外にも住宅会社や保険会社といった家庭と接点を持つ業種との連携を探り、顧客のつなぎ留めを図る。(1面参照)
工場やビルなど大口向けの電力販売は00年から段階的に自由化されている。東日本大震災後の燃料費増大を受け、東電が12年4月に大口向け料金の値上げに踏み切ると、東電と契約を打ち切り、数%割安な新電力からの購入に切り替える顧客が急増した。流出した顧客の契約規模は約720万キロワットと原子力発電所7基分にのぼる。
家庭や中小企業・商店など小口向け電力販売での独占も全面自由化で終止符が打たれる。大口向けで首都圏に進出している関西電力など他電力のほか、東京ガス、JX日鉱日石エネルギー、ソフトバンクなど独自の顧客基盤を持つ異業種が参入する構えだ。手をこまぬいていれば、小口向け市場でも相当数の顧客を失う可能性がある。
携帯電話会社や買い物ポイントサービスは全国に数千万件単位の顧客を抱える。住宅会社や保険会社も家庭に入り込み、長年の取引関係を築いているケースが多い。
東電には「(別のサービスで)顧客を持つ企業と相互補完関係をつくる」(広瀬直己社長)ことで多様なサービス提供を可能にし、顧客に選ばれる魅力を備える狙いがある。
有力なパートナー探しは首都圏市場を狙う新規参入事業者にも共通の課題。東電はここでも機先を制したい考えだ。
「守り」だけでなく、首都圏以外の地域に打って出る場合でも、セット割引などの特典は顧客開拓の大きな武器になるが急拡大は難しいとみられ、当面は首都圏の顧客基盤をどれだけ維持できるかがカギになる。
東京電力は携帯電話会社と提携し、通信と電気をセットにした割引販売に乗り出す。月内にNTTドコモなど大手3社と交渉を始め、2016年度から開始する。買い物に使える共通ポイントの導入も検討する。16年4月からの家庭向けの電力小売り自由化(総合2面きょうのことば)で、新規事業者との競合が激しくなる。管内の契約維持だけでなく全国で「越境供給」するためにも、異業種との連携で割安感を打ち出す。(関連記事企業1面に)
東電は近くKDDI(au)とソフトバンクを含めた3社からセット販売の事業提案を募り、4月中にも提携先を1社決める。携帯電話会社との提携によって「携帯電話の契約を他社から乗り換えた客には電気料金を1年間10%下げる」といった料金プランが可能になる。
東電は携帯各社の窓口で電気の契約を受け付けることも検討する。16年の自由化後、東電は首都圏など管内だけでなく全国の家庭への電気供給も検討している。豊富な営業拠点を持つ携帯電話会社と組むことで、新規客を取り込めるとみている。東電の新事業がきっかけとなって、関西電力なども携帯大手との提携に動き出す可能性もある。
携帯各社も電力会社と組むメリットが大きい。KDDIやNTTドコモは携帯電話と光回線のセット割引に乗り出している。同じ月払いの電気も商品に加われば、消費者にとって「まとめ買い」の利便性が高まる。
1999年から電力自由化を始めた英国では、電気と携帯、固定回線、ガスなどの契約を組み合わせた多くの料金のプランがある。消費者の6割が電力会社を乗り換えた経験があるとされる。
東電はコンビニエンスストアなどで使える「共通ポイント」の導入も検討する。三菱商事系のロイヤリティマーケティング(東京・渋谷)が運営する「Ponta(ポンタ)」、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)系の「Tポイント」、楽天の「楽天スーパーポイント」の3陣営に月内に提携を打診する。それぞれ数千万人の顧客基盤を抱えている。
例えば消費者がほかの電力会社から乗り換えて東電と契約すれば、ポイントがもらえるサービスなどを展開する。東電の既存客向けにポイントを付与することも検討する。東日本大震災以降、原子力発電所の稼働停止などで電気料金が上昇しており、特典ポイントの導入で家計の負担感を和らげる狙いもある。
16年に家庭向けの電力小売りが完全自由化すると、首都圏など東電管内は異業種からの電力小売り参入で競争が激しくなるとみられる。異業種との提携で顧客を囲い込むことで、家庭や商店など東電が抱える約2700万件の小口契約を維持する狙いがある。東電はほかの電力会社の管内で電気を販売する「越境供給」にも乗り出す考えで、割安なサービスを提供して顧客を獲得する。
▽きょうのことば 「電力小売り自由化」 500社超が新規参入
▽…2016年4月から誰でも家庭に電気を売れるようになる。従来は東京電力など10社が地域別に販売を独占してきた。00年以降、大工場などへの販売は段階的に自由化してきたが、政府は東日本大震災後に家庭向けも自由化する方針を決めた。電気料金の高騰を抑制する狙いだ。
▽…自由化をにらんで「新電力」として経済産業省に届け出た企業は500社超に達する。丸紅やJX日鉱日石エネルギーなどが家庭向け小売りに参入する見通しだ。政府は17年に家庭向けの都市ガス販売も自由化する。自由化で先行する欧米では、消費者がインターネットで電気料金を比較して契約するのが一般的。料金プランを差別化するため、電気やガス、通信などのセット販売も盛んだ。
▽…政府は自由化を進めるため、9電力会社の送配電部門を分社する「発送電分離」を20年に実施することも決めた。電気を売るために電力会社の送電線を利用する新電力が不利にならないためだ。電気料金の仕組みも20年以降に変える。今は電力会社が積み上げた費用に利益を上乗せして決める「総括原価方式」だが、撤廃する。
〔企業1面〕
▽東電、電力自由化に備え 提携交渉 顧客をつなぎ留め
東京電力が携帯電話とのセット販売など電力小売り分野で提携を急ぐのは、2016年4月の家庭向けを含む電力販売の全面自由化に備え競争力を高めるためだ。自由化後は新規参入が相次ぎ、東電の「庭」だった首都圏市場は草刈り場になりかねない。携帯電話会社以外にも住宅会社や保険会社といった家庭と接点を持つ業種との連携を探り、顧客のつなぎ留めを図る。(1面参照)
工場やビルなど大口向けの電力販売は00年から段階的に自由化されている。東日本大震災後の燃料費増大を受け、東電が12年4月に大口向け料金の値上げに踏み切ると、東電と契約を打ち切り、数%割安な新電力からの購入に切り替える顧客が急増した。流出した顧客の契約規模は約720万キロワットと原子力発電所7基分にのぼる。
家庭や中小企業・商店など小口向け電力販売での独占も全面自由化で終止符が打たれる。大口向けで首都圏に進出している関西電力など他電力のほか、東京ガス、JX日鉱日石エネルギー、ソフトバンクなど独自の顧客基盤を持つ異業種が参入する構えだ。手をこまぬいていれば、小口向け市場でも相当数の顧客を失う可能性がある。
携帯電話会社や買い物ポイントサービスは全国に数千万件単位の顧客を抱える。住宅会社や保険会社も家庭に入り込み、長年の取引関係を築いているケースが多い。
東電には「(別のサービスで)顧客を持つ企業と相互補完関係をつくる」(広瀬直己社長)ことで多様なサービス提供を可能にし、顧客に選ばれる魅力を備える狙いがある。
有力なパートナー探しは首都圏市場を狙う新規参入事業者にも共通の課題。東電はここでも機先を制したい考えだ。
「守り」だけでなく、首都圏以外の地域に打って出る場合でも、セット割引などの特典は顧客開拓の大きな武器になるが急拡大は難しいとみられ、当面は首都圏の顧客基盤をどれだけ維持できるかがカギになる。