(日経10/10:1面)
日本郵政グループ3社が11月4日、株式を同時上場する。国有企業の民営化案件としては1987年のNTT以来となる「巨鯨」の登場に、金融各社は「貯蓄から投資」の起爆剤にしようと沸き立つ。一方で株の受け皿となる個人投資家は冷静だ。間近に迫ってきた郵政上場の現場を追う。
「もっと株を売らせてほしい」。9月15日、日本証券業協会の定例会合は騒然としていた。日本郵政と子会社のゆうちょ銀行、かんぽ生命保険が売り出す株は、99.5%を61社の引受証券が扱う。地方や中小の証券会社からは「不公平すぎないか」と不満が漏れた。
投資家と温度差
郵政3社の株の売り出し額は合計で1兆4000億円規模になる。昨年1年間の新規上場企業の調達額を上回る金額で、金融業界にとって一大イベントだ。
「郵政株にご興味はありませんか」。三菱東京UFJ銀行は週末返上で営業攻勢をかける。証券の仲介口座を通じ、銀行窓口で個別株として過去最高となる1000億円を販売する計画だ。三菱UFJフィナンシャル・グループの平野信行社長は「郵政株は貯蓄から投資を進めるきっかけになる」と期待を込める。
過熱する金融業界と裏腹に個人投資家は冷静だ。9月18日、「ホテルメルパルク名古屋」で郵政3社の初の個人向け説明会が開かれた。主催者は整理券と第2部の説明会まで準備する熱の入れようだったが、予想したほど人は集まらない。名古屋市在住の女性は「公表されている情報ばかり。物足りない」と話す。
都内の自営業、石綿進さん(59)は「NTT上場で感じたような飢餓感がない」という。NTT株を売り出しで買ったさいたま市の女性(86)は「投資は上場後の値動きを見てから決める」と素っ気ない。
金融業界と投資家にある大きな温度差。原因を突き詰めると、郵政3社が抱える課題が浮かび上がる。
「郵政グループが短期間で成長シナリオを描くのはほとんど不可能だ」と主幹事証券の幹部は声を潜める。将来の株の売り出し計画も含めると、上場で得る資金は4兆円規模になる。しかし、このお金は東日本大震災の復興財源に充てることが決まっており、郵政3社が自らの成長に使えるわけではない。
NTTが上場した87年はバブルで高揚していた時期だ。国内総生産(GDP)の実質成長率は6.1%だった。2015年度の成長率は1%に届くかどうか。国内の人口減少が加速する中で上場する郵政3社の株に、投資家は成長という「夢」を抱けない。
割安・高配当訴え
日本郵政自身も課題を承知する。西室泰三社長は株主である財務省と「株価を高くしすぎて暴落することがないようにとの認識で一致している」という。
9月後半、郵政3社の首脳は海外の投資家を訪問した。帰国した関係者は「2つのキーワードの反応がいい。100億円単位で引き合いがある」と明かす。
郵政3社と幹事団がたどり着いた回答が「割安」と「高配当」だ。メガバンクなど上場しているライバルに比べ、投資指標で割安になる価格をはじいた。株価に対する年間配当の割合を示す配当利回りは2~4%台と、東証1部の平均(約1.8%)を上回る。
抜群の知名度と巨大な事業規模を誇りつつ成長シナリオを描けていない。国策である郵政上場が抱えるジレンマだ。「熱狂なき船出になる」。市場ではこうした見方が広がっている。
日本郵政グループ3社が11月4日、株式を同時上場する。国有企業の民営化案件としては1987年のNTT以来となる「巨鯨」の登場に、金融各社は「貯蓄から投資」の起爆剤にしようと沸き立つ。一方で株の受け皿となる個人投資家は冷静だ。間近に迫ってきた郵政上場の現場を追う。
「もっと株を売らせてほしい」。9月15日、日本証券業協会の定例会合は騒然としていた。日本郵政と子会社のゆうちょ銀行、かんぽ生命保険が売り出す株は、99.5%を61社の引受証券が扱う。地方や中小の証券会社からは「不公平すぎないか」と不満が漏れた。
投資家と温度差
郵政3社の株の売り出し額は合計で1兆4000億円規模になる。昨年1年間の新規上場企業の調達額を上回る金額で、金融業界にとって一大イベントだ。
「郵政株にご興味はありませんか」。三菱東京UFJ銀行は週末返上で営業攻勢をかける。証券の仲介口座を通じ、銀行窓口で個別株として過去最高となる1000億円を販売する計画だ。三菱UFJフィナンシャル・グループの平野信行社長は「郵政株は貯蓄から投資を進めるきっかけになる」と期待を込める。
過熱する金融業界と裏腹に個人投資家は冷静だ。9月18日、「ホテルメルパルク名古屋」で郵政3社の初の個人向け説明会が開かれた。主催者は整理券と第2部の説明会まで準備する熱の入れようだったが、予想したほど人は集まらない。名古屋市在住の女性は「公表されている情報ばかり。物足りない」と話す。
都内の自営業、石綿進さん(59)は「NTT上場で感じたような飢餓感がない」という。NTT株を売り出しで買ったさいたま市の女性(86)は「投資は上場後の値動きを見てから決める」と素っ気ない。
金融業界と投資家にある大きな温度差。原因を突き詰めると、郵政3社が抱える課題が浮かび上がる。
「郵政グループが短期間で成長シナリオを描くのはほとんど不可能だ」と主幹事証券の幹部は声を潜める。将来の株の売り出し計画も含めると、上場で得る資金は4兆円規模になる。しかし、このお金は東日本大震災の復興財源に充てることが決まっており、郵政3社が自らの成長に使えるわけではない。
NTTが上場した87年はバブルで高揚していた時期だ。国内総生産(GDP)の実質成長率は6.1%だった。2015年度の成長率は1%に届くかどうか。国内の人口減少が加速する中で上場する郵政3社の株に、投資家は成長という「夢」を抱けない。
割安・高配当訴え
日本郵政自身も課題を承知する。西室泰三社長は株主である財務省と「株価を高くしすぎて暴落することがないようにとの認識で一致している」という。
9月後半、郵政3社の首脳は海外の投資家を訪問した。帰国した関係者は「2つのキーワードの反応がいい。100億円単位で引き合いがある」と明かす。
郵政3社と幹事団がたどり着いた回答が「割安」と「高配当」だ。メガバンクなど上場しているライバルに比べ、投資指標で割安になる価格をはじいた。株価に対する年間配当の割合を示す配当利回りは2~4%台と、東証1部の平均(約1.8%)を上回る。
抜群の知名度と巨大な事業規模を誇りつつ成長シナリオを描けていない。国策である郵政上場が抱えるジレンマだ。「熱狂なき船出になる」。市場ではこうした見方が広がっている。