〔15.1.14.日経新聞:政治面〕
東シナ海の海空域での不測の事態を防ぐため、日中両政府が再び枠組みづくりに動き出した。両国の防衛当局は約2年半ぶりに開いた12日の協議で、自衛隊と中国軍が緊急時に意思疎通を図る連絡メカニズムについて早期の運用開始に努める方針で一致した。双方で共有する行動規範も策定する。日本側は今夏の運用開始を目指す考えだが、具体的な実効性をどう確保するかが課題となる。
安倍晋三首相は13日、首相官邸で中谷元・防衛相から協議の報告を受け「非常に大切なことで良かった。できるだけ早く運用できるよう話を続けてほしい」と指示した。
日中両国は2012年6月に開かれた前回協議でメカニズムの大枠について合意した。だが、日本が同年9月に沖縄県・尖閣諸島を国有化したことに中国が猛反発し、協議は中断。安倍晋三首相と習近平国家主席が昨年11月に開いた会談で改めて協議再開に合意した。
12日の課長級協議では、前回合意した(1)防衛当局による定期会合の開催(2)当局間のホットラインの設置(3)艦艇、航空機の現場レベルの無線による直接通信――の3項目を改めて確認。ホットラインの設置場所など技術的な問題を議論した。
新体制の名称は、従来の「海上連絡メカニズム」から「海空連絡メカニズム」に変更した。日中は東シナ海のガス田開発など海洋権益を巡って対立しており、協議の開始時点では海の衝突防止を想定していた。昨年5、6月に起きた中国軍機による自衛隊機への異常接近などを踏まえ、空域での意思疎通も重視した。
危機回避の実効性を高める手段として行動規範の作成も申し合わせた。両国の艦船や航空機が突発的に遭遇した際の交信手段や言語、手順などを明記した文書をつくる。
日本政府は日中の課長級で連絡手法や行動規範の詳細を詰め、夏にも運用を始めたい考えだ。ただ、両国がメカニズムや規範の内容で合意できた場合も「実際に自衛隊と中国軍が円滑に運用するには通信訓練が欠かせない」(防衛省幹部)。現時点ではこうした環境は整っておらず、どこまで機能するかは未知数だ。
昨年11月の日中首脳会談後も中国公船の領海侵入は繰り返されており、尖閣を巡る対立は続いている。中国は戦後70年の今年は歴史問題を巡る日本へのけん制も強めており、協議に影響を及ぼす恐れもある。
中国外務省の洪磊副報道局長は13日の記者会見でメカニズムについて「必要な調整を進め、一日も早く運用を始める」と述べた。一方、尖閣諸島の領有権を巡っては従来の主張を繰り返し「日本が歴史を正視し、対話と協議を通じてこの問題の管理と解決に努力するよう求める」と語った。
連絡メカニズムとは
公海上での艦船や航空機による偶発的な衝突を防ぐため、防衛当局間で緊急時に連絡を取りあえるようにする体制。現場の当事者間で連絡を取り合う際の通信方法や、防衛当局間のホットライン設置などを定めている。
日本政府は1993年にロシアとの海上事故防止協定を締結し、艦船が十分な距離を保つことや航空機の無線周波数の統一などを取り決めた。東西冷戦下でソ連(現ロシア)の航空機や艦船が日本周辺で活発に活動していたことが背景にある。
日米中など21カ国の海軍高官が参加する西太平洋海軍シンポジウムは昨年4月、無線で行動目的を伝え合うなど一定のルールを定めた「海上衝突回避規範」で合意した。
東シナ海の海空域での不測の事態を防ぐため、日中両政府が再び枠組みづくりに動き出した。両国の防衛当局は約2年半ぶりに開いた12日の協議で、自衛隊と中国軍が緊急時に意思疎通を図る連絡メカニズムについて早期の運用開始に努める方針で一致した。双方で共有する行動規範も策定する。日本側は今夏の運用開始を目指す考えだが、具体的な実効性をどう確保するかが課題となる。
安倍晋三首相は13日、首相官邸で中谷元・防衛相から協議の報告を受け「非常に大切なことで良かった。できるだけ早く運用できるよう話を続けてほしい」と指示した。
日中両国は2012年6月に開かれた前回協議でメカニズムの大枠について合意した。だが、日本が同年9月に沖縄県・尖閣諸島を国有化したことに中国が猛反発し、協議は中断。安倍晋三首相と習近平国家主席が昨年11月に開いた会談で改めて協議再開に合意した。
12日の課長級協議では、前回合意した(1)防衛当局による定期会合の開催(2)当局間のホットラインの設置(3)艦艇、航空機の現場レベルの無線による直接通信――の3項目を改めて確認。ホットラインの設置場所など技術的な問題を議論した。
新体制の名称は、従来の「海上連絡メカニズム」から「海空連絡メカニズム」に変更した。日中は東シナ海のガス田開発など海洋権益を巡って対立しており、協議の開始時点では海の衝突防止を想定していた。昨年5、6月に起きた中国軍機による自衛隊機への異常接近などを踏まえ、空域での意思疎通も重視した。
危機回避の実効性を高める手段として行動規範の作成も申し合わせた。両国の艦船や航空機が突発的に遭遇した際の交信手段や言語、手順などを明記した文書をつくる。
日本政府は日中の課長級で連絡手法や行動規範の詳細を詰め、夏にも運用を始めたい考えだ。ただ、両国がメカニズムや規範の内容で合意できた場合も「実際に自衛隊と中国軍が円滑に運用するには通信訓練が欠かせない」(防衛省幹部)。現時点ではこうした環境は整っておらず、どこまで機能するかは未知数だ。
昨年11月の日中首脳会談後も中国公船の領海侵入は繰り返されており、尖閣を巡る対立は続いている。中国は戦後70年の今年は歴史問題を巡る日本へのけん制も強めており、協議に影響を及ぼす恐れもある。
中国外務省の洪磊副報道局長は13日の記者会見でメカニズムについて「必要な調整を進め、一日も早く運用を始める」と述べた。一方、尖閣諸島の領有権を巡っては従来の主張を繰り返し「日本が歴史を正視し、対話と協議を通じてこの問題の管理と解決に努力するよう求める」と語った。
連絡メカニズムとは
公海上での艦船や航空機による偶発的な衝突を防ぐため、防衛当局間で緊急時に連絡を取りあえるようにする体制。現場の当事者間で連絡を取り合う際の通信方法や、防衛当局間のホットライン設置などを定めている。
日本政府は1993年にロシアとの海上事故防止協定を締結し、艦船が十分な距離を保つことや航空機の無線周波数の統一などを取り決めた。東西冷戦下でソ連(現ロシア)の航空機や艦船が日本周辺で活発に活動していたことが背景にある。
日米中など21カ国の海軍高官が参加する西太平洋海軍シンポジウムは昨年4月、無線で行動目的を伝え合うなど一定のルールを定めた「海上衝突回避規範」で合意した。