〔14.12.14.日経新聞:国際面〕
【ニューヨーク=稲井創一、山下晃】原油価格の低下を背景に、米国のシェール企業に金融市場からの圧力が高まっている。業績が悪化する懸念で株が値下がりしているほか、社債の価格も下落(利回りは上昇)し、資金力に乏しい中小シェール企業の先行きには不透明感が増している。資産の売却や投資計画の見直しなどで財務強化を急ぐ動きが出てきた。
12日のニューヨーク市場では原油先物が一段安となった。指標となるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の期近物が約5年7カ月ぶりに1バレル58ドルを割り込んだ。WTIは今年の最高値をつけた6月20日から12月12日までに4割以上も下落した計算だ。
原油価格の低下はエネルギー企業の株価にとって重荷だ。米調査会社ファクトセットによると、過去半年で世界のエネルギー株の時価総額は約1.5兆ドル(約180兆円)吹き飛んだ。4割超の下落となったアパッチや8割超下げたグッドリッチなど米シェール企業の急落が目立つ。
業績悪化を懸念
株価急落の背景にあるのが業績の鈍化懸念だ。米主要500社のうちエネルギー企業の10~12月期1株利益に関するアナリスト予想(今月12月8日時点)は、9月末時点に比べ足元では20%も急減した。生産に特化しているシェール企業は、精製や販売など原油安がコスト減につながる部門を持つ大手に比べ原油相場下落の影響を受けやすい。
業績懸念は財務の信用力の低下につながる。中小企業の多いシェール企業は資本力が限られるため、社債や借り入れへの依存が大きい。「いくつかのシェール企業が負債の問題を抱えている」とクレディ・スイスのヤン・スチュワート氏はいう。
信用力が低下すると新規の借り入れが難しくなり、投資が滞る懸念がある。財務悪化による投資の停滞が業績の悪化をもたらし、一段の財務悪化につながる悪循環に陥るリスクも意識されている。
シェール企業が資金を調達するために発行する債券は低い格付けが多く、シェール企業の信用力の低下が低格付け債全体の値下がりにつながっている。12日には低格付け債の代表的な指標の一つである「SPDRバークレイズ・ハイ・イールド債券ETF」が一時、2年半ぶりの安値水準に下落した。JPモルガン・チェースのタレク・ハミド氏は「WTIが65ドル以下の水準が3年続けば(シェール企業のデフォルトが増え)、低格付け債のデフォルト率は2割を超える」と指摘する。
シェール企業の変調の余波は金融業界にも広がっている。融資先のシェール企業の財務悪化が金融機関の経営にとってマイナス要因として意識されている。テキサス州に本拠を置き、エネルギー関連企業向けの融資が多い米地銀ミッドサウス・バンコープの株価は、7月の高値と比べ2割近く安くなっている。
日本企業も権益
米シェールの大半の井戸は採算割れの目安とし1バレル50ドルが意識される。価格急落で収支が悪化するなか財務強化を急ぐシェール企業も出てきた。既存の設備では利益を生んでいるため増産姿勢を続ける企業が多いが、新しい投資は抑制する動きが本格化してきた。
グッドリッチは10日、2015年の投資規模を1億5000万~2億ドルと14年見込み(3億2500万~3億7500万ドル)の半分以下に減らすと発表した。オアシス・ペトロリアムも来年の投資を7億5000万~8億5000万ドルと今年(14億3000万ドル)から大幅に削る。
手元資金を厚くするため、資産の売却に踏み切る企業も相次いでいる。エクスコ・リソースは傘下の企業の持ち分を投資会社に売却し、約1億1800万ドルの現金を確保する。大手でもシェブロンがカナダのシェール層権益の一部をクウェート海外石油探鉱会社に15億ドルで売却することを決めた。
北米でのシェール開発を巡っては、三井物産や東京ガスなど日本勢が参画している権益もある。シェール関連ビジネスの環境悪化が日本企業の業績に影響する可能性もある。一方、ある日系商社からは「優良とみられる権益も売りに出ており、絶好の買い場がきている」との声も聞かれた。
【ニューヨーク=稲井創一、山下晃】原油価格の低下を背景に、米国のシェール企業に金融市場からの圧力が高まっている。業績が悪化する懸念で株が値下がりしているほか、社債の価格も下落(利回りは上昇)し、資金力に乏しい中小シェール企業の先行きには不透明感が増している。資産の売却や投資計画の見直しなどで財務強化を急ぐ動きが出てきた。
12日のニューヨーク市場では原油先物が一段安となった。指標となるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の期近物が約5年7カ月ぶりに1バレル58ドルを割り込んだ。WTIは今年の最高値をつけた6月20日から12月12日までに4割以上も下落した計算だ。
原油価格の低下はエネルギー企業の株価にとって重荷だ。米調査会社ファクトセットによると、過去半年で世界のエネルギー株の時価総額は約1.5兆ドル(約180兆円)吹き飛んだ。4割超の下落となったアパッチや8割超下げたグッドリッチなど米シェール企業の急落が目立つ。
業績悪化を懸念
株価急落の背景にあるのが業績の鈍化懸念だ。米主要500社のうちエネルギー企業の10~12月期1株利益に関するアナリスト予想(今月12月8日時点)は、9月末時点に比べ足元では20%も急減した。生産に特化しているシェール企業は、精製や販売など原油安がコスト減につながる部門を持つ大手に比べ原油相場下落の影響を受けやすい。
業績懸念は財務の信用力の低下につながる。中小企業の多いシェール企業は資本力が限られるため、社債や借り入れへの依存が大きい。「いくつかのシェール企業が負債の問題を抱えている」とクレディ・スイスのヤン・スチュワート氏はいう。
信用力が低下すると新規の借り入れが難しくなり、投資が滞る懸念がある。財務悪化による投資の停滞が業績の悪化をもたらし、一段の財務悪化につながる悪循環に陥るリスクも意識されている。
シェール企業が資金を調達するために発行する債券は低い格付けが多く、シェール企業の信用力の低下が低格付け債全体の値下がりにつながっている。12日には低格付け債の代表的な指標の一つである「SPDRバークレイズ・ハイ・イールド債券ETF」が一時、2年半ぶりの安値水準に下落した。JPモルガン・チェースのタレク・ハミド氏は「WTIが65ドル以下の水準が3年続けば(シェール企業のデフォルトが増え)、低格付け債のデフォルト率は2割を超える」と指摘する。
シェール企業の変調の余波は金融業界にも広がっている。融資先のシェール企業の財務悪化が金融機関の経営にとってマイナス要因として意識されている。テキサス州に本拠を置き、エネルギー関連企業向けの融資が多い米地銀ミッドサウス・バンコープの株価は、7月の高値と比べ2割近く安くなっている。
日本企業も権益
米シェールの大半の井戸は採算割れの目安とし1バレル50ドルが意識される。価格急落で収支が悪化するなか財務強化を急ぐシェール企業も出てきた。既存の設備では利益を生んでいるため増産姿勢を続ける企業が多いが、新しい投資は抑制する動きが本格化してきた。
グッドリッチは10日、2015年の投資規模を1億5000万~2億ドルと14年見込み(3億2500万~3億7500万ドル)の半分以下に減らすと発表した。オアシス・ペトロリアムも来年の投資を7億5000万~8億5000万ドルと今年(14億3000万ドル)から大幅に削る。
手元資金を厚くするため、資産の売却に踏み切る企業も相次いでいる。エクスコ・リソースは傘下の企業の持ち分を投資会社に売却し、約1億1800万ドルの現金を確保する。大手でもシェブロンがカナダのシェール層権益の一部をクウェート海外石油探鉱会社に15億ドルで売却することを決めた。
北米でのシェール開発を巡っては、三井物産や東京ガスなど日本勢が参画している権益もある。シェール関連ビジネスの環境悪化が日本企業の業績に影響する可能性もある。一方、ある日系商社からは「優良とみられる権益も売りに出ており、絶好の買い場がきている」との声も聞かれた。