ぼく(5)

2018-01-21 09:56:57 | 童話
『もう一つあるよ。お母さんやお父さんが手を近付けてきたときに、手のひらを握るのではなく、指を一本だけを強く握るんだ。そうすると、みんな喜ぶよ。』
『ふぅ~ん、そうなんだ。』
『わたしも指を一本だけ握ってあげて、みんなに喜んでもらっているわ。』
『僕もやっているよ。そうすると、みんなが「かわいいわねえ。」と言って喜んでいるよ。』

『もう他に無いかなあ。』
『いっぱい有るよ。大人の人が「居ない、居ない、バァ。」と言ったら、声を出して笑ってあげるんだ。これも喜ばれるよ。それからね、足の裏をコチョコチョされた時は、足だけではなく、両手両足を全部バタバタさせるんだ。足だけでは喜ばれないよ。あっ、バタバタさせる時に口を大きく開けることを忘れないようにね。』
『うん、分かった。今日からやってみるよ。』
『わたしもやるわ。』

『僕はもう大きいからハイハイをしているんだけれど、ハイハイしている時にドテッと転んで見せると笑いながら喜ぶよ。テレビのお笑い番組で、時々わざと転んでいるのを見て、わざと転んだのを知っていて笑っているけれど、僕の転ぶのは本当に転んでいると思っているみたいだよ。』
いっぱい有るんだね。

だけれど、お母さんやお父さんもぼくと同じ事をやっていたと思うんだけれど、大人になると全部忘れるのかなあ?
ぼくも大きくなったら忘れると思うので、今の内にお母さんやお父さんを喜ばせてあげようと思うんだ。

おしまい

ぼく(4)

2018-01-20 09:06:10 | 童話
『あっ、また赤ちゃんがお医者さんの診察が終って出て来た。』
『お医者さんは何と言ったの?』
『うん、順調に成長していますねと言ったよ。』
『良かったね。』
『うん、お母さんも喜んでいたよ。ぼくはたくさんオッパイを飲んでいるからね。』
『もうお母さんと帰るからね。みんなバイバイ。また今度ね。』
『うん、バイバ~イ。』
『バイバ~イ。』

『赤ちゃんのお友達がたくさん居てよかったね。』
『・・・』
『さあ、帰ってきたからベビーベッドで寝ててね。』
『・・・』
ぼくはお母さんのお話ししている事は全部分るんだけれど、まだ口でお話しができないので黙っています。
だけれど、目でお話しをしているのがお母さんには分かりません。
お母さんも赤ちゃんの時には目でお話しをしていたのになあ。
ぼくもきっと、大きくなったらみんなと目でお話しができなくなるんだね。

『ねえ、みんな、お母さんやお父さんを喜ばせる方法が有るんだけれど、みんなのお母さんやお父さんはどうかなあ?』
『どうするの?』
『大きく口を開けて、両手と両足をバタバタさせるんだよ。そうすると、みんなが「かわいい、かわいい。」と言って喜ぶよ。お母さんは、ぼくの顔に自分の顔を押しつけて喜ぶよ。』
『わたしもやっているけれど、お母さんもお父さんも喜ぶわよ。』
『僕のお母さんも喜ぶよ。』
『ふぅ~ん、よし、僕も家に帰ったらベッドの上でやってみるよ。』
『すごく喜ぶよ。』

ぼく(3)

2018-01-19 21:27:01 | 童話
それからね、僕達はみんなテレビを見ているから、日本以外の国で起きている戦争や病気のこともお話しするよ。
『あの国とあの国で戦争をしていているから、たくさんの人がケガをしていて、その中には僕達と同じ赤ちゃんもいるんだよ。』
『早く戦争を止めて、みんなで仲良くすればいいのにね。』
『あの国で恐ろしい病気が流行しているから、みんなも気をつけようね。』

そして、楽しいこともお話しするよ。
『お母さんのお腹の中に居る時は、体がフアフアと浮かんでいて気持ちが良かったね。』
『そうだね、特にお母さんが歩いている時が一番フアフアとしていて気持ちが良かったね。』
『そうだね。』
『だけれど、お母さんのお腹から外へ出て来た時は寒くてビックリしたね。』
『そうだね、寒かったね。ぼくは思わず泣いてしまったよ。』
『ぼくも泣いたよ。』
『わたしも泣いたわ。』
『なんだ、みんな泣いたのか。泣いたのはぼくだけかと思っていたよ。』

『お母さんとお医者さんがお話しをして、ぼくはもう少し経ったら離乳食も食べるんだよ。』
『離乳食って、おいしいのかなあ?』
『食べたことが無いから分らないよ。』
『ぼくは食べたことがあるよ。オッパイに比べておいしくなかったので、ベェと出しちゃったよ。だけれど、今はちゃんと食べているよ。』
『ふぅ~ん、えらいね。』

『ぼくは君達より五ヵ月早く産まれたお兄ちゃんだから偉いんだよ。』
『何が偉いの?』
『う~んとね、離乳食を食べているからエライんだよ。』
『ふぅ~ん。』
『ぼくも五ヵ月くらいすると離乳食を食べるから偉くなるのかなあ。』
『そうだね、僕達赤ちゃんは生まれてから五ヵ月くらいになると離乳食を食べ始めるので、みんな偉くなるんだね。』
『そうだね。』

ぼく(2)

2018-01-18 21:07:06 | 童話
ぼくは生まれる前からいろいろな事を知っていたし、妖精とお話しをしていたんだよ。
今も妖精が見えるけれど、大人の人には見えないんだって。
お姉ちゃんやお兄ちゃんも大きくなったので、妖精は見えないと思うよ。
お父さんもお母さんもお姉ちゃんもお兄ちゃんも、小さい頃にはみんな見えていたんだけれど、見えていた事を忘れてしまっているんだ。
ぼくもみんなと同じように、大きくなると忘れてしまうのかな?
きっとそうだよね。

だからいろんなものが見えている今が一番忙しいんだ。
大人の人は、ぼくが忙しくしている事を知らないだけなんだ。
昨日は家で飼っている犬とお話しをしていたし、今日は、さっきまで遠い外国の赤ちゃんと楽しくお話しをしていたんだ。
遠い所と何も使わないでお話をする事を、大人の人はテレパシーと言っているみたいだね。

お母さんがお父さんに、新生児健診でぼくを病院へ連れて行くと言っていたけれど、他の赤ちゃんとお話しができるから楽しみだなぁ。
大人の人は僕達がお話しをしていることが分からないけれど、病院に居る時みんなとたくさんお話しをしているんだよ。

何のお話しかって?
みんな、自分のお母さんの自慢をするんだ。
『ぼくのお母さんが一番美人だよ。』
『ぼくのお母さんの方が優しいよ。』
『ぼくんちの方が、兄弟が多いよ。』

僕達は、まだしゃべることができないけれど、みんなとは目と目でお話しをしているんだ。だからたくさんの赤ちゃんでお話しをしている時は、あっちを見たり、こっちを見たり、忙しいんだ。

ぼく(1)

2018-01-17 21:22:54 | 童話
今、産まれて十日目のぼくは、お母さんに抱っこをしてもらって幸せです。
あれっ、お父さんとお姉ちゃんとお兄ちゃんが居ないよ。そうか、今日は、お休みの日ではないんだ。

お父さんは電車に乗って会社へ行ったのかな?
ぼくは、生まれてから外へ出たことが無いので電車に乗ったことがありません。
だけれど、お母さんのお腹の中に居る時にお母さんと一緒に電車に乗ったことは覚えているんだ。電車はゴトンゴトンと楽しかったよ。

お姉ちゃんは自転車に乗って中学校へ行ったのかな?
ぼくがお母さんのお腹の中に居る時は転ぶと危ないので、お母さんは自転車に乗らなかったんだ。
だから、ぼくは自転車は知りません。

お兄ちゃんは歩いて小学校へ行ったのかな?
ぼくもお母さんのお腹の中に居る時に、お母さんといっぱい歩いたよ。歩くのも楽しいよね。
だけれど、お母さんが歩いていない時に、お腹の中のぼくだけが歩いて、お母さんのお腹を中からギュ~と押したことが有ったんだ。その時、お母さんは『あらあらっ。』と言っていたんだ。

ぼくがドンドン大きくなっていくと、お母さんのお腹の右側や左側がニュー、ニューと膨らんで、そのたびにお母さんが
『あらあらっ。』、
『あらあらっ。』
と言っているのを、ぼくはお腹の中で聞いていたんだけれど、楽しかったよ。