山の上のロックの永~い旅(5)

2017-01-31 21:22:58 | 童話
何年か経った時に台風が来た。
山に沢山の雨が降り、小川の水量が増えて、僕はまた動き出した。
そして、もっと広い川まで滑って来た時、急に水の流れが激しくなってきた。
あっちこっちぶつけながらすこしずつ進んだ。

その時、前の方の川岸や木が見えなくなり、空が見えてきて、急に体がふぁっと浮かんだ。
次の一瞬、下へ下へと体が落ちて行った。
それは、お父さんやお母さんから聞いていた滝だ。
初めて見たし、初めて下へ落ちて行った。

ドボーン、ドスン。
僕は滝壺に落ちてお尻をぶつけた。
その衝撃で体が半分くらいになってしまい、滝壺から飛び出した。
そして、僕の体の仲間が沢山できたのだ。

『みんな大丈夫かい?』
『大丈夫だよ。』
『大丈夫。』
『元気だよ。』
『一緒に居るよ。』
『僕も元気だよ。』
『良かった、良かった。みんな無事でよかった。』
『この滝壺から出るのに何年かかるかわからないけれど、みんなで海に向かっていこうね。』

今度は広い川の中なので、僕は転がりだして、大きな岩にぶつかった。
『痛いっ。岩にぶつかったので、頭とお尻の角が取れちゃった。』
僕は次々と岩にぶつかりながら転がって行った。

山の上のロックの永~い旅(4)

2017-01-30 21:58:45 | 童話
『いっぱい来たね。すごい、すごい。』
『この飛んでいる中にお父さんとお母さんも居るよ。』
『こうしてお父さんやお母さんとお話しをしているの?』
『そうだよ、他のトンボともお話しをしているんだよ。』
『それなら寂しくないよね。』
『うん。』
『ここには、ヤゴ君以外は居ないの?』
『沢山居るよ。アメンボやタガメ、そしてゲンゴロウも居るよ。今はみんな出かけているのかな。』
『帰って来たら教えてよ。』
『いいよ。』

『あっ、小鳥が来た。』
すぐ近くでウグイスが鳴き始めた。
『僕の名前はロック、いい声だね。』
『褒めてくれてありがとう。』
『いつも、こんなにいい声で鳴いているの。』
『違うよ、お嫁さんを探す時だけこうして鳴くんだよ。』
『今、君は鳴いているからお嫁さんはまだなんだね。』
『うん、まだ鳴き方が上手くないから仕方ないんだ。』
『僕は上手いと思うけれどね。』
『みんな、もっと上手いよ。』
『頑張ってね。そしてお嫁さんが見つかったら教えてよ。』
『少し時間がかかるよ。』
『暫くここに居るからいいよ。』
『素敵なお嫁さんが見つかるといいね。』
『もっともっと頑張るよ。』
『応援しているからね。お嫁さんが見つかったらプレゼントは何がいい?』
『そうだね、玄関に飾る花輪の飾りがいいかなぁ。』
『いいよ、僕は作れないけれど、リス君に作って貰おう。』
『リス君は手が器用だから、きっと素晴らしい花飾りができると思うね。』
『うん、楽しみにしているね。』

山の上のロックの永~い旅(3)

2017-01-29 10:53:46 | 童話
何年か経った後の大雨で僕は少し動き出したのを感じた。
ズズッ、ズズッと松の木のおじさんの根元が少しずつ遠くなってきだした。
『松の木のおじさん、僕は海に向って進み始めたみたいだ。おじさん、また今度ね。』
『あいょ、元気でなぁ。』
『兎さんや友達のみんなも元気でね。』
『バイバ~イ。』
『みんな、みんな、楽しく遊んでくれてありがとう。バイバ~イ。』
『みんな見えなくなってしまった。』

僕はズズッ、ズズッと森の中を滑って行った。
今度は転がらないので楽だったが、ゆっくりと時間をかけて移動して行った。
ズズッ、ズズッとゆっくりと滑っているので、蛇やネズミやリスたちにも追い越されたが、ず~と動いて行った。
暫くすると水の流れる音が聞こえ始めた。

『あっ、冷たい。』
僕のお尻と背中が水の中入った。
『ここは小川だ。』
僕はきれいな水が流れている小川の中で止った。
山の上からの雪溶け水が流れ込んでいる場所なので水が少なく、魚は居なかった。
『あっ、トンボの子供のヤゴが居る。僕の名前はロック、ヤゴ君は冷たくないの?』
『ずっと水の中に居るから冷たくないよ。』
『ここは水も空気も綺麗で気持ちがいいね?』
『そうだね、山の上のように寒くもないしね。』
『僕は山の頂上から転がって来たんだけれど、ヤゴ君はどうして山の頂上の事を知っているの?』
『僕は行った事は無いけれど、僕のお父さんとお母さんが言っていたよ。』
『お父さんとお母さんは一緒じゃないの。』
『僕たちトンボは、お母さんが水の中に卵を産んだら飛んで行くから、ヤゴの兄弟だけで暮らすんだよ。』
『寂しくないの?』
『兄弟がいっぱい居るから寂しくないよ。』
『ヤゴ君はいつトンボになるの?』
『来年かな。』
『それまで僕とここに居られるね。』
『トンボになって飛んで行ったみんなも、呼べば遊びに来てくれるよ。』
『では、ヤゴ君、トンボのみんなを呼んで、一緒に遊ぼうよ。』
『じゃ、これからみんなを呼ぶね。』

ヤゴは水の中で短い羽根を震わせた。そうして水面が震えるのを見たトンボが集まって来た。

山の上のロックの永~い旅(2)

2017-01-28 09:39:15 | 童話
目が回ったのが直ったので、僕は何にぶつかって止ったのか確かめた。
松だ、やっと大きな松の木の根元に居るのが分かった。

『僕はロックという名前です。松の木のおじさん、大丈夫ですか?』
『ああっ、大丈夫だよ。お前のスビードが遅くなっていたので、わしでも止められたよ。もっと速いとダメだったけれどね。』
『ありがとう、助かった。目がグルグル回って大変だった。』
『わしは三百年ここに居るけれど、お前のように転がって来る石を何度か見たよ。』
『そうなの、みんな転がるのが上手だった?』
『ああっ、みんな上手いもんだ。ところで、お前はどこへ行くのだい?』
『僕はね、これから海へ行くんだ。』
『海は遠いよ。』
『海は遠いと聞いていたけれど、そんなに遠いの?』
『ああっ、遠いよ。何年かかるかなぁ。いやいや、何百年かなぁ。』
『そうか、頑張らないといけないなぁ。』
『松の木のおじさん、少しここで休憩させてね。』
『ああっいいよ、好きなだけ居なさい。』
『あっ、何か居る。やぁ、さっきのウサギさんだ。僕の名前はロック、さっきは驚かせてゴメンね。』

ウサギが
『お腹の上に乗っていい?』
と言ってピョンと飛び乗りました。
『ああっ、いいよ。僕は暫くここに居るからお話しをしようよ。』
『転がって来たばかりだからお腹にも苔がまだ付いていないね。』
『うん、転がっている時に苔が全部取れてしまったんだ。』
『そんなに転がって来たの?』
『うん、あの高い山の頂上から転がって来たんだ。』
『目が回ったでしょ。』
『うん、ぐるんぐるん回って、上か下か、右か左か分かんなかった。』
『大丈夫?』
『もう直ったから大丈夫だよ。』
『ウサギさんは近くに住んでるの?』
『ここから少し上に行った所の穴に住んでいるの。』
『僕が転がって、君の住んでる穴は大丈夫だった?』
『ええ、大丈夫だったわ。これから何処へ行くの?』
『海へ行くんだよ。』
『海って遠いの?』
『僕も知らないけれど、お父さんが遠いって言っていたよ。』
『私も行ってみたいけれど、そんなに遠いのなら一緒に行けないわね。』
『そうだね。僕だけで行ってくるよ。』

僕は松の木のおじさんの根元で暫く過ごした。その間、ウサギがキツネやムササビ達の友達を沢山連れて来て、毎日楽しく過ごしていた。

山の上のロックの永~い旅(1)

2017-01-27 21:31:39 | 童話
僕の名前はロック、今お姉ちゃんや弟とお父さんとお母さんにくっついて、山の上に居る。
ここは見晴らしが良くて気に入っている。
雪が溶け、チョウチョやミツバチがお花の蜜を探して飛び、小さな植物が実を付け、そして、次の年また雪が降る。
この自然の繰り返しが心地よいのだ。

雪の時はブルブルッと震え、春風にホンワカ、ホンワカ。
雷にはビックリするけれど、夕立のシャワーは気持ちいい。
秋になると小さな木の実が一杯で、動物たちは満腹満腹。

僕達兄弟は、お父さんお母さんにくっ付いて暮らしていたが、永い年月が経って、雨と雪で少しずつ隙間が広がってきた。
お父さんが、僕たち兄弟に
『いつでも自分で行動できるようにしていなさい。』
と言った。

しばらくして、兄弟の中で僕が一番に離れる事になった。
雨が強くなってきたが、僕はみんなと離れるのがイヤで、しっかりとくっ付いていた。
そして雨が止んで虹が出た。
『お兄ちゃん、虹が綺麗だね。』
『そうだね。』

その時、僕はふあっと身体が浮かんだ。
そして、今度はドスンと何かにぶつかった。
その後は目が回る位ゴロゴロと転がり始めた。
うわっ、う~わっ、止らないよ。

大きな杉の木が
『お~いっ、どこまで行くんだい。』
『分かんないよ。』

大きな熊が
『駆けっこなら負けないよ。』
『今はダメだよ、今度ね。』

小さなウサギが飛び跳ねて
『危ないなぁ。』
『ゴメン、ゴメン、大丈夫かい?』

僕は回転するスビードが遅くなってきたのが分かった。
その時、何にぶつかって止った。』
『ここはどこなんだろう?』
僕は周りを見渡した。
『森だ、森の中だ。』