goo blog サービス終了のお知らせ 

小金沢ライブラリー

ミステリ感想以外はサイトへ移行しました

ミステリ感想-『水の時計』初野晴

2013年11月05日 | ミステリ感想
~あらすじ~
暴走族の幹部・高村昴は傷害事件で逮捕される寸前、老執事めいた男に一千万円の報酬である仕事を依頼される。
月夜の晩にだけ言葉を発することのできる脳死状態の少女・葉月の願いにより、彼女の臓器を必要とする人に分け与えよというのだ。
それができるのは葉月が選んだ同年代の、そして警察の追跡や渋滞を回避し短時間で臓器を届けられる独自のシステムを持つ昴だけだった。

~感想~
横溝正史ミステリ大賞を受賞した作者のデビュー作。一読、惜しい!
導入部は完璧だ。こんなの面白いに決まっている。あらすじからして卑怯ではないか。だが第一章を読み終え、膨らみに膨らんだ期待を上回りはしなかった。
ここからは完全にいちゃもんだが、臓器を必要とする人々の個々のエピソードにしろ、昴と暴走族グループとの決着、昴と葉月の関係、物語の結末にしろ、全てがあと一歩足りない印象を受けた。
後の傑作「1/2の騎士」のように各短編それぞれがミステリとして物語として十全の強度を持っているわけではなく、連作短編(のような形式)として意外な真相も持っておらず、舞台設定の面白さや、あらすじの時点で約束された期待値を超えるには至らなかったのが実に惜しい。
おそらくこれがデビュー作ではなく、数作ものして経験を上積みしてからの作品であれば、「1/2の騎士」のように傑作と成り得ただろう。だがこの時点の作者にはそこまでの力が無かったのだ。勝手な望みだが現在の作者がリメイクしてくれれば、はるかに上回る完成度になるだろうと確信している。

それにしても今作の刊行が、つまりデビューから11年も経過しているとは驚いた。大袈裟に言えば世界はいつまで初野晴を放っているのか。別に一般的な評価を受け、ベストセラーになることだけが作家の名誉ではないが、もっと初野晴という名前が広く知られることを願うばかりである。


13.11.5
評価:★★★☆ 7
コメント