内的自己対話-川の畔のささめごと

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独りになるために手紙を書く ― レヴィ=ストロース両親宛書簡集を読む(4)

2015-11-27 04:56:11 | 読游摘録

 兵役中にストラスブールの兵舎から両親宛に送られた手紙五十三通は、入隊からパリへの配置転換までの約四ヶ月の間に書かれている。日付や冒頭の記述などから、一日の中で何回かに分けて書かれていることがわかる書簡が多い。軍事教練の合間に時間を見つけては、あるいは、休暇中に親族の家を訪ねる合間に、書き継いだのである。手紙を書く直前の出来事の現場レポートのような体裁になっていることもある。
 この軍隊生活の中で、何が一番レヴィ=ストロースを苦しめたか。それは独りになる時間がまったくないということであった。それはトイレでさえそうだと言う。

Ce qui est le plus pénible, c’est l’absence totale de solitude. Jamais on n’est seul, même aux cabinets (op. cit., p. 25).

 独りになること、レヴィ=ストロースはそれを生涯求め続けたとドミニック夫人は言う。

Cette solitude, si nécessaire, Claude l’a recherchée toute sa vie. Non pas qu’il refusât de vivre avec ses contemporains, mais il redoutait tout bruit qui entraverait ses réflexions (ibid., p. 9-10).

 同時代人との付き合いを忌避したのではない。そもそも、人間嫌いだったとしたら、人類学者には到底なれなかったであろう。ただ、騒々しさが思索を妨げることを恐れたのだ。
両親宛にほとんど毎日のように手紙を書き続けたのは、片時も独りになることができない兵舎にあって、人間らしい言葉のやりとりを書簡という形で沈黙の裡に実行することで、親密な対話の時間を作り出そうとしてのことであったのだろう。

D’où le choix du mode épistolaire pour échanger avec les humains. Dès qu’il le pouvait, il s’adonnait au plaisir de correspondre (ibid., p. 10).

 

 

 


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