紙の辞書は、調べ物のために引くのも、ただ愉しみのために読むのも好きだが、嵩張る辞書が多いから、何冊も同時に広げると机の上がそれだけでいっぱいになってしまう。それに求めている情報を見つけるのにそれなりに時間もかかるし、それをノートしたり、コンピュータに入力したりする手間もある。授業の準備や研究発表のために複数の辞書を同時に使わなければならないとき、特に時間が限られているときは、この作業は煩わしい。時間を節約したい。
そこで、少し躊躇った後、三週間ほど前に、ジャパンナレッジに入会した。すべてのコンテンツが利用できる年間契約を選んだ。以来、毎日利用しているが、思っていた以上に重宝で、満足している。複数の辞書類の見出しだけではなく、すべてのコンテンツの全文に検索をかけることができ、たちどころに探している情報やデータが複数のソースから網羅的に引き出せる。
古典文学の授業の準備で特に便利なのは、 『日本古典文学全集』全巻全文に検索をかけることができることだ。例えば、修士の演習で読んでいる唐木順三の『無常』には、古典文学からの引用がいたるところに出てくるが、出典箇所が明記されていない。原典でその箇所を確認したいとき、短い作品や有名な一節なら、記憶を頼りに原典に直接あたって調べてもそう時間はかからないが、それにしてもいちいち当該の文献を紐解くか、その電子版で検索しなくてはならない。ところが、ジャパンナレッジを使えば、引用されている文の一部を検索エンジンに入力するだけでたちどころに特定できる。
今回の準備でこんなことがあった。「宇治十帖」の節に『かげろうの日記』からの引用として、「はかなきたはぶれごとも言ふ人あまたありしかば、あやしきさまにぞ言ふべかめる」という一文が出てくる。「はかなきたはぶれごと」と検索エンジンに入力してヒットした箇所は、『かげろうの日記』ではなく『和泉式部日記』にあった。つまり、唐木が間違えているのである。この検索のおかげで、『蜻蛉日記』のテキストの中を無駄に探し回らずにすんだ。ちなみに『蜻蛉日記』には、「はかなきたはぶれごと」という表現はない。
これは、ほんの一例に過ぎない。これからも大いにこのデータベースを活用していくだろう。
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