内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

陰翳をめぐる随想(四)― 陰翳、影の多様で複雑なグラデーション

2020-01-22 23:59:59 | 哲学

 レオナルド・ダ・ヴィンチは、その未完の絵画論の中で、絵画にとって最も重要なのは陰翳と輪郭だと言っている。特に陰翳の重要さを強調する。陰翳の裡にはより多くの知が隠されている。と同時に、その把握には困難が伴う。例えば、物の輪郭をそれとして捉えてなぞるには、その物に覆いを掛け、その前に平滑で透明なガラス板を置けば、そのガラス板上の薄紙に輪郭を写し取ることができる。ところが、同じ方法では陰翳は捉えられない。というよりも、それではそもそも陰翳が消えてしまう。
 陰翳は対象物の属性ではない。その物が置かれた場所の諸条件によって変化する。陰翳という複雑な現象を捉えるには、三つのタイプの影を区別することが重要だとダ・ヴィンチは考える。まず、「影そのもの」、つまり、対象物の光の当たっていない部分。次に、「派生的な影」、つまりある面に光が当たっている対象物の陰に隠れた別の対象物上の影、そして、「投射された影」、つまり、対象物の形が正確に投射された平面上の影である。
 陰翳の問題を考えるには、さらに光源の違いも考慮しなくてはならない。ある一点から直接対象物に光が投射されるとき、光の当たる部分とそうでない部分とにはっきりとした区別ができる。派生的な影についても同様である。しかし、光源にもっと広がりがある場合、そして複数の光線が入ってくる角度に異なりがある場合、対象物の影の部分も派生的な影も、光源の広がりと角度によって様々に変化する。この変化は、光源の強さが関与するとき、さらに複雑化する。これは対象物の投射された影についても同様である。
 これら無限に多様で複雑な影のグラデーションが陰翳という「存在の織地」を成している。


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