内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

名作はやはり紙の書籍の手触りと重みと匂いを感じながら読みたい

2020-04-25 23:59:59 | 読游摘録

 ここ何年とフランスでも日本でも本屋に足を運ぶことがめっきり少なくなった。かつては一時帰国のたびに神田神保町の古書店をひやかして歩くのを楽しみとしていたが、ここ数年酷暑の真夏などは出かけるのが億劫になってしまった。フランスでもパリに住んでいるときは週に一度はカルティエ・ラタンの古書店を梯子していたものだが、ストラスブールに引っ越して六年、本屋に足を運んだのは数えるほどだ。FNAC には月に何度か足を運んでいたものの、それはインターネットを通じて注文した本を取りに行くためで、書籍の階に上ろうとさえしなくなった。
 書籍の購入はもっぱらインターネットを通じてするようになると、書店でのようにふと目に留まり、手に取ってみて、頁をめくってみて何か感じるところがあり買うということがなくなってしまう。最初からお目当ての本を注文するだけのことが圧倒的に多い。オンライン書店からは宣伝メールが毎日のように届くが、そのお薦めをみても食指を動かされるということはほとんどない。ときには、ちょっと気を引かれることもあるが、そういうときは数日間カートに入れておいてそれでも買いたい気持ちに変わりがないときだけ購入する。
 以上は紙の書籍に関してのことである。この二年半、電子書籍を購入するようになった。最初は講義の資料として使うというもっぱら実利目的だったが、こちらでは紙版購入は高くつく日本語の書籍は、楽しみのために読む本もいつしか購入するようになった。特に今年に入って、とりわけ自宅待機令が施行されるようになってからのこの一か月半ほど、電子書籍の購入冊数が異常に増えている。その主な理由は、「近現代日本文学」の課題で学生たちが取り上げる作品の原典と仏訳を一通り揃えるためである。これらの書籍は学科の図書室にはすべてあるのだが、アクセス不可能だからやむなく電子書籍版を購入したというわけである。かなりの出費である。本文分析には検索機能が威力を発揮するので、これはこれで無駄ではないが、たとえ職責上の必要からとはいえ、名作を電子書籍で読むのはやはり何とも味気ない。例えば、谷崎潤一郎の『細雪』などは、持ち重りのする立派な装丁の版で読みたい、と書斎の窓から今日も澄みきった青空を眺めながら溜息をつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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