内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

「夏休みに避暑地で夏を楽しみつつ、研究をもあわせ楽しみ ……」― 詮無き夢想に耽る夏の終わりの一夜

2022-08-25 17:07:17 | 読游摘録

 岡潔『数学する人生』(新潮文庫 森田真生編 2019年 原本 新潮社 2016年)の「特別講義」と題された節は、もと『一葉舟』(角川ソフィア文庫 2016年 初版 読売新聞社 1968年)に収録されていた文章「ラテン文化とともに」の中の一節である。
 岡潔がフランス留学時代(1929年から1932年)のソルボンヌの教授たちの想い出を語っている以下の箇所をこれで何度目かに読み直し、天を仰いで長大息するとともに、ああもしその時代のフランスの大学教授であったらなあと詮無き夢想に一頻り耽った夏の終わりの一夜でありました。

 一般講義をする教授たちはごく少なくて、大抵の教授はみな特別講義だけをしていたような印象を、私はいま持っている。ところで、その特別講義はせいぜい三月くらい、日本の第三学期に相当するところでするだけである。夏休みは非常にながく、四か月くらいあったと思う。この国にとってはすばらしい季節である夏を、充分楽しむためである。その両側に第一学期と第二学期とある。さて特別講義であるが、各教授は、第一学期にそのプランを立てて文献を用意し、それを携えて、夏休みに避暑地で夏を楽しみつつ、研究をもあわせ楽しみ、第二学期にそのごく一部分を論文にまとめ、研究の全貌を第三学期に講義することによってまとめるのである。詳しくいえば、その先生の講義を先生のお弟子が速記し、先生はこれに手を加えて叢書の一冊にして出版するのであって、もちろん毎年変わる。この種の教科書(本のことをそういう)の特別な面白さは、実にここからきているのである。(『数学する人生』86‐87頁)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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