内的自己対話-川の畔のささめごと

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価値と規範との存在論的差異 ― ジルベール・シモンドンを読む(139)

2016-10-28 08:42:50 | 哲学

 価値と規範との区別と両者の関係について、今日もテキストを読んでいく。まず、原文を数行引用する。

C’est la normativité elle-même qui, dépassant le système sous sa forme donnée, peut être considérée comme valeur, c’est-à-dire comme ce qui passe d’un état à un autre. Les normes d’un système, prises une par une, sont fonctionnelles, et paraissent épuiser leur sens dans cette fonctionnalité ; mais leur système est plus que fonctionnel, et c’est en cela qu’il est valeur. On pourrait dire que la valeur est la relativité du système des normes, connue et définie dans le système même des normes (p. 331).

規範性そのものが、その中で機能していた所与の形の下のシステムを超えることで、価値として、つまり、ある状態から別のある状態へと移行するものとして考えられうるようになる。ある一つのシステムの諸規範は、そのそれぞれを一つ一つ取り上げれば、機能的なものであり、それらの意味はその機能性に尽きるように見える。しかし、それらの規範のシステムは、機能的なもの以上のものであり、それゆえにこそ価値がある。価値とは、諸規範のシステムの相対性であり、その相対性は、その諸規範のシステムそのものの中で知られ、そして定義される、と言うことができるであろう。

 あるシステム内で守られている或いは守られるべき諸規範は、そのシステム内で機能するための特異性・相対的制約を有している。そのかぎりでは、それらの規範がそのままでは他のシステムに適用できない場合も当然ある。それに、そもそも完全無欠で最初から普遍的に適用可能であるような規範は定義上ありえないのだから、それらの規範のいずれかに、あるいはそれらの規範の間に未解決の問題あるいは葛藤が必ず内包されている。しかし、まさにそれゆえにこそ、或る規範のシステムは、ちょうど二つの網膜上の視像差が一つの奥行ある視像を与えるときのように、より高次な次元での問題の解決を図ろうとする。
 それらの相対的規範が、その最初に与えられたシステム内での機能を超えて、必要な変更・修正・拡張・増幅等が加えられることで、他のシステムにも適用され機能するようになり、その結果として、最初のシステムがその後に生まれた別の新しいシステムに取って代わられるとき、それらの規範は、すでに特定の領域に限定されてその範囲を超え出ることのできない特異性をもった限定的規範として機能の超えて、普遍性を志向する。
 この普遍性志向は、しかし、最初から個々のシステムの中に可能性として孕まれており、そのシステムの相対性とともにシステム自体によって自覚されるとき、価値になる。ある特定の規範群が機能しているシステムを通じて(à travers)、そしてそのシステムを超えて(au-delà de)行こうとする、この意味で接頭辞 « trans- » の二重の意味を具えた普遍性志向が自覚されるとき、それが価値にほかならない。したがって、価値は、もはや言うまでもないが、歴史を超えた永遠不変の実体ではないし、ある特定のシステム内の相対的な規約に還元されるものでもない。
 ある規範のシステムの規範性は、それがまさに特定のシステムの規範性であるからこそ、そのシステムを超え出て行こうとする。規範性がこの超越的な方向に向かってより完全なものであるためには、その特定のシステム内部そのものにおいてすでにシステムとしての自己解体が余描されていなくてはならない。しかし、この自己解体は、自己を抹消する破壊ではなく、別のあるシステムへと自己が翻訳されることである。この自己解体的翻訳は、転導的秩序にしたがって、つまり、ある原理を当初の適用範囲を超えて段階的に拡張的に適用するという仕方で実行される。
 以上に見てきた価値と規範とのいわば存在論的差異がシモンドンの倫理学説の基底であると思われる。












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