内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

法藏館文庫を称えて

2022-10-04 23:59:59 | 読游摘録

 夏休みの一時帰国中、寺田透の『正法眼蔵を読む』を購入したのがきっかけで、法藏館文庫の存在を知った。仏教関係の書籍を中心に重厚な出版物を多数刊行してきた出版社としてかねてより知っていたし、出版物を購入したことも何度かあったが、文庫版を刊行しているとは知らなかった。
 出版社のサイトの文庫の頁を見ると、2019年11月に第一弾として三冊刊行されている。以後、隔月のペースで毎回二、三点出版され、今年九月まででちょうど四十点になっている。同社からかつて出版された単行本の再刊が主になっているようだが、文庫版のための解説が新たに付されている。
 いずれもとても魅力的な内容で全冊欲しくなってしまうが、それはあまりにも無謀な話なので、月に一回、自分の研究や授業の準備にすぐに役立ちそうな書目に限って購入することにした。
 先月は、唐木順三『禅と自然』、久松真一『無神論』を購入した。どちらも先月の新刊だった。同じく新刊だった瀧波貞子『聖武天皇』も購入したかったがこれは後日とした。
 今月は、黒田俊雄『王法と仏法 中世史の構図』(2020年3月刊)と安丸良夫『〈方法〉としての思想史』(2021年5月刊)を購入した。どちらも名著の誉れが高い。
 前者には1970年代に中世史理解の構図を転換させた「顕密体制論」が収録されており、その後半世紀現在に至るまでの中世史研究の展開も視野に入れつつ、「古代日本の歴史と社会」の講義の後期で中世を扱うときに必ずや取り上げなくてはならない論考だ。
 後者は「近代日本の歴史と社会」の講義で民衆思想史を取り上げる際に言及する。授業ですでにその一部を読んだ村上紀夫『歴史学で卒業論文を書くために』(創元社、2019年)の中に同書からの引用がある。歴史研究の方法意識を考える際に必読の一冊と言って差し支えないと思う。