内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

心が落ち着かないときに読む薬としての文法書

2020-07-19 20:10:09 | 読游摘録

 世間の空気には、コロナウイルスの感染状況が国全体としては小康状態を保っていることもあり、夏休み気分が広がりつつあります。私自身はまだ仕事の上の心配事から解放されておらず、しかも現時点では積極的に行動することでそれらに解決をもたらすことができず、ただ待たなければならない状態があと数日は続くので、夏休み気分に浸ることはできないでいます。こういうときは、何か一つのことに気持ちを集中させるのが難しいですね。
 読書も上の空になりがちで、長時間読み続けられません。それでも、一日に何か少しでも読まないと気がすまないというのは、もう病気と言ってもいいのかもしれませんね。こんな状態に陥ったことはもちろん過去にもありました。そんなときには、できるだけ感情が動かされることのない文章を読むようにしています。
 といってもいろいろあるわけですが、今読んでいるのは、Grammaire méthodique du français (PUF, 7e édition mise à jour 2018) というフランス語の文法書です。初版は1994年で、1996年にフランスに来てすぐ買った本の一つでした。もうその初版は手放してしまいましたが、中身はまったく同じ Quadrige 版(3e édition 2004, 5e tirage : 2008)は手元にあります。今読んでいるのは、その最新の増補改定版です。
 その増補改訂の仕方が凄まじくて、頁数だけをとってみても、646頁から1109頁に増えており、章立ても修訂され、より細かくなっています。同じ書名のままで、全体の記述の基本方針は変わっていませんが、初版刊行後20年の研究成果が存分に盛り込まれています。
 それでも、旧版の利用者が今なお多数いることに鑑みて、旧版と新版との章立ての対応表が21頁に渡る目次の後に付されています。これは、旧版と対応している Questions de syntaxe française (PUF, 1999) の利用者が新版と組み合わせて使うための配慮でもあります。
 適当に頁を開いて、言語の様態の微細な差異についてのあたうかぎり厳密であり且つ実用的であろうとしているその記述を読んでいると、次第に心が落ち着いてきます。普段何気なく使っている表現の機能について、まるで顕微鏡を覗いて観察しているような姿勢で貫かれた記述を注意深く追っていくうちに、心のざわめきが静まっていきます。
 ここ数日間、煉瓦のように分厚い本書を文字通り座右に置き、あたかも常備薬を服用するかのように、一日数頁ずつ読んでいます。