ろくびー

山中清隆 作品日記
Kiyotaka Yamanaka

色塗りで失敗した作品で、お話しを作ってみた劇場 「水色の船のおじさん」1/3

2018-02-15 19:32:04 | ヴェネチア

「黄色い花」スケッチ 2017年作 イタリア・ヴェネチア

人生には失敗がつきものです。

色塗りで失敗して、
お見せできなくなった作品は
お話しでいきましょう~


■「水色の船のおじさん」1/3

イタリア・ヴェネチアのカステッロ地区の北側に
レンガ色のとても大きなサンティ・ジョヴァンニ・エ・パオロ聖堂があり
その左には市立病院の入り口になっているスクオラ・ディ・サン・マルコが
ひときは白く輝いています。

そこには広場があり、いつも賑やかで人々の笑顔であふれ
たくさんの物語が今日もくりひろげられていました。


休日になると
きまってベージュ色の帽子をかぶったおじさんが
水色の船に乗ってここへ一人でやってきます。

彼は何をするでもなく
運河をただ眺めているだけで、
ときおりため息などをついていました。



この日は天気も穏やかで
いい風が吹き、だれもが気持ちよかった。

運河のゆらめきもここちよかった。

どこからか
サラサラとした乾いた笑い声が聞こえ
ベージュ色の帽子をかぶったおじさんは
気になってあたりを見渡した。


周りは笑い声にあふれて賑やかだったが
さっきの声とは違っていた。

どうやら
病院の二階から聞こえてくるようだ

もっと耳を澄まして聞いていると
窓のそばの壁の隙間に生えてる雑草のようである。

サラサラと乾いた笑い声は
いかにも風と楽しんでいるようだった。


おじさんは立ち上がって歩きだし
病院の前まで行って雑草を見上げた。


雑草は可愛らしい黄色い花を咲かせていた。

そして風にそよぐのを止めて
だれかと話し出した。


「おはよう 今朝はいい風が吹いていて気持ちがいいわね~

 今日の私、きれいかしら」

・・・・

「ふふふ ありがとう。

 やっぱり、 あなたの目の前で、一番きれいかしら」

・・・・

「ふふふ よかった。

 私は、本当は土の上でミミズさんと仲良くしながら暮らしたかったけれど、
 あなたが寂しくなるといけないと思ってここでがんばっているのよ」

・・・・


「ふふふ そうでしょ よかった」



おじさんは
耳を疑った
雑草の話し声がわかるのである。

だが、話し相手の声はまったく聞こえなかった。
感じからすると、向かいの聖堂のようである。

雑草の会話はつづいた。

「ミツバチが飛んでくると耳を澄ますの
 そしたら、小さな声で私に向かってこう言ってるの

 かわいいお花さん こんにちは!」

・・・・

「私は小さい花だけど子供じゃないし
 かわいいとかいわれると、ほんとは恥ずかしいのだけれど、

 私の方も笑顔で、ミツバチさんに聞こえるように

 こんにちは! あなたを待ってたわよ
 って返してあげてる。

 そしたらうれしそうに花に止まってくれて
 蜜と花粉をたくさん持って帰ってくれますのよ」

・・・・

「こんにちは!っていいものね~」


この不思議な雑草の会話に
夢中で耳を澄まして聞いていたおじさんは
ふと我に返って思った。


そういえば
俺は

ここ何年も
こんにちはを
言ったことがない。

それに
聞こえたこともない。


なぜだろう・・・・


考えていると急に目の前が暗くなり
胸がドキドキして息苦しくなった。

しぜんと
空に向かって大きな深呼吸をした。

ふーはー
ふーはー

こんどは
吸いすぎて疲れてガクッと首を垂れた。

しばらくすると
視界が明るくなってきて
いつもの広場と、水色の自分の船が見えた。


そしてまた二階の雑草を見上げて
耳を澄ませて、ずっと立っていた。

雑草はもうなにも喋らなかったが、
ときおり風と楽しんでいるようだった。

喋っていたかもしれないが、
おじさんには聞こえなかった。


日が暮れておじさんは家に帰り
食事もろくにとらずに
ベットの上にころがっていた。

深夜になっても
頭の中で雑草の会話が何度も繰り返し聞こえ
ひとときも寝れなかった。

この不思議な体験以来
「こんにちは!」を真面目に考えるようになった。

そして
なにより
言いたくなった。


でもどうやったら
こんにちはを言えるのか
まったく忘れてしまっていた。

そこで、
鏡を買ってきて
部屋にこもって一人で練習をした。

帽子を右手で少し持ち上げて言ってみたり、
録音した自分の「コンニチハ」に合わせて振り向いて返事してみたり、
ありとあらゆる努力をした。

だが、ひと月たっても、ふた月たっても
顔はひきつりガチガチであった。



「コンニチハ」

「コンニチハ・・・・!」



つづく


つづきはこちら■色塗りで失敗した作品で、お話しを作ってみた劇場 「水色の船のおじさん」2/3




天王寺動物園 オウサマペンギンのオスの鳴き声

2018-02-12 18:36:19 | YouTube
天王寺動物園に動物スケッチをしに行きました。
まだまだ寒いのでスケッチはちょっとだけにして、観察して楽しんでいます。

特に面白かった動物の表情を、せっかくなのでご紹介。


オウサマペンギンのオスの鳴き声です。
(小さいのはフンボルトペンギン)

餌をもらう前後に鳴くようで、
くちばしを空に向かってゆっくりと伸ばし
SFチックな声で鳴きます。

鳴き終わると力尽きて
ぐったり首を垂れるような姿がとてもかわいらしい。




オウサマペンギンは寒い地域に住んでいるので、夏は空調の効いた室内舎でしか見れませんが、
冬場だけ野外のフンボルトペンギンと一緒に見ることが出来ます。

ちょこちょこ動くフンボルトペンギンと
大きくてゆっくり動くオウサマペンギンとが一緒に見れるので
そのギャップが面白いですよ。


悲しいニュースなのですが、
今年の1月25日に
天王寺動物園のアジアゾウのラニー博子さんが亡くなりました。
推定で48歳だそうです。

今まで動物園の中で
たくさんの人々に夢をあたえてくれて
ほんとうにどうもありがとう。

ご冥福をお祈りいたします。