元祖・東京きっぷる堂 (gooブログ版)

あっしは、kippleってぇケチな野郎っす! 基本、自作小説と、Twitterまとめ投稿っす!

さすらい少女2004夏 2

2021-07-29 06:38:33 | 夢洪水(散文・詩・等)
さすらい少女 2004

-2-


 そして、とうとう、こんな根性無しの私も、2004年のばっかみたいに暑い夏に、ついに!ついに!颯爽と!親も親戚も社会も捨てて格好良くバイクにまたがり、子分のキモイだちこうを連れて荒野に旅だったの!なんて、わけないじゃん。でもね、ついにやったんだよ。夜に、こそこそお父さんとお母さんが寝たのを見計らい、小学生の弟がTVゲームやってんのを尻目に、抜け出して、とにかく東京駅に行っちゃおうと思ってケータイで情報検索しようとして、あっとしまった!ケータイ持ってきてるよ。

 というわけで、そうとうお間抜けな感じで、すごすごと家に戻ってそっと部屋に戻ってベッドにケータイ置いて、再び、そっと家を出て、今度こそはと思うと急に不安になり、何故だか足が戻ろうとするので、もう何も考えずに何だか無我夢中になってまるで夢の中のようで、気づいたら夜明けの名古屋駅で独りぼっち。うぇっ、ひょっとして、あったし、ピンチ?バカだったかなぁ?心臓バコバコで、あちゃーTシャツにジーンズにスニーカーのまんまだし、ハートマークの肩かけバックにタオル地ハンカチと100円ショップの財布一個、が~ん!メイクはどーしよー!生理は、あ、終わったばっかだ、ラッキー神様、って感じで、まあ私も、とわ言っても抜け目無く何万円か持ってるし、カードもいっぱいあるし、ま、大丈夫でしょ。

 って思ったものの、一人なのよ。一人なのね。ケータイも無いし、今頃誰か書き込んでるか?あー止め。メールや掲示板の事考えて独りぼっちな自分にゾーっとしてきた。どこへ行こうか?ええい!こうなれば!さあ殺せ!さあ殺せ!腹が減っては戦はできぬ、ので、まず食事ね。私は思ったよ。けっこう、私、開き直り、得意かも。と、いかにも変な娘まるだしで駅周辺をうろつくが、お洒落なのがない。ダセー駅だ。イイカゲン頭がくらくらしてきたので、もーうまだ朝なのにって思ってたら、もう11時で相当暑くて、お手頃なトコで手をうちますかと、けっこう歩いたトコにデパートがあったんで入って5Fでカツ丼食べたよ。カツ丼だよ、うら若き乙女の喰いものかね。食べながら、帰ろうかと思ったけど、これで一人旅終りじゃキャプテンに申し訳がたたないやと思い、根性だと自分に言い聞かせ腹に力を入れ思いっきり、

「よっっしゃーーーーーーー!」って叫んでみた、もちろん心の中でだよ。

 デパートの横にコンビニがあったので時刻表を買って喫茶店に入った。しかし、この名古屋というところは、やたらと喫茶店が多いねー。ダッセー。1人で喫茶店に入るのも初めてだったもんでバコバコしたけど、まあゆっくり涼んで次に奈良に行って、あとは野となれ山となれって感じで3日位したら帰ろうって思うと、帰った時の親の顔なんかが浮かんできて、あーうざったいなーって気分が沈んできたので、出発だ。ってアイスコーヒー一杯で1800円だってー?ダッセー!ダッセー!と思って駅に戻っていくと、げっ、マックもスタバもあるじゃん!がーん。ショックのあまり名古屋駅から飛び乗った電車は鈍行で、アナウンスが「松坂は後方の3両だけであとは切り離します」だのなんとか言ってんの!で、これ奈良行かないの?って思って聞いてみようかと、隣を見ると私と同じ位の年の女の子がひたすらケータイ打ってるんで額に縦線入ったよ。思ったわよ。適当に座ったまま運にまかせようってね。さすらいの一人旅なんだし、別に奈良にこだわる必要無いじゃん、ねぇキャプテン。

 そう思うと俄然、何だか隣の娘より自分の方がものすごーカッコイイみたいな気持ちになってきて夏の輝く窓の外を眺めているうちにウッキウッキと楽しくなって来たから不思議なもんね。そしたらさ、急に何だか畑とか見えるんで身体が興奮っていうか感動って言うかムズムズしてたまらなくなって、次に止まった全然知らない駅で降りちゃった!

 降りた駅は小奇麗な小さい「柘植(つげ)」という駅で、看板に“切符の切れる駅”って書いてあんだけど、なんのこっちゃ?小さな構内にハンコ台があって駅のスタンプが押せるようになってるの、さ・さすが田舎だわ。それで、そのハンコ台の上を見ると時刻表が電光掲示されてて、げっ!次の電車は4時だってぇー!今、まだ2時だよ。客らしき人はいなくて夏の光がピカピカに飛び込んできてて、暇だし、窓口に行くと感じの良い駅員さんがいて、ニカッと笑って私を見たので何だか恥ずかしくなって駅を飛び出ちゃった。何してんだろう、私。ひやひや。

 しゃーないなぁーって、今夜はここで1泊するか、なぁんて考えて駅前のカンバンやらを見まわして今宵の宿を探したんだけど、全然。ここ何も無いんじゃない?ただの田舎の町。だーれも見かけないしぃ。参ったなぁ。駅の中に一応“切符の切れる駅”なんて観光客寄せみたいな事書いてあったのにぃ、全然だ。客なんて来ないよ、こんなとこフツー。だって何もないわよぅ。

 カンカン照り、カンカン照り。どっちにしろ4時まで電車は来ないわけだし、駅で待つのも、さっき駅員さん見て飛び出してしまった手前恥ずかしいし、よし!ま、せっかくの、さすらいの1人旅さ、ぶらついてみるのもいいさ。

 ってな訳で、ま、暇なわけで、田んぼの畦道を歩いた。暑い暑い、ぶーらぶら、ぶーらぶら、暑い暑い。げ!自分の影が見えないって思ったら小さくあったよ。それほどカンカン照りなわけで、いつのまにか汗びっしょり。臭いかなぁ。くんくん、そうでもないや、えへへ、まだ1日目じゃーん。そんな小さな事で何だかすぐに元気が出てきて、お?っと見ると田んぼの中にミステリアスな掘建て小屋があるじゃないの!何だか頭パーになってきたかなぁ、こんな事が楽しいんだ。覗くぞ!覗くのよ、私。そろそろとジリジリ焼けつく日差しの中を畦道づたいに小屋に近づいていって覗いたのです。・・・薪と藁。マキとワラ。蜘蛛の巣。うぅ、ロクなものは無い。でもワクワクするのは何故?

 それから、どこもかしこも田んぼだらけで、なるべく駅を見失わないようにウロウロ歩いて行くと国道に出たよ。あたた、急に足が痛いのに気が付いて、しゃがみこんだ私です。しかし、影がないねー!世界が全部、光ってるよ。こんな事を感じたことってあったっけ?よしよしと、って遠くから聞こえてくる綺麗な風鈴の音を聞きながら無風状態の灼熱道路でしゃがみながら、私は計画をねったのさ。

 よし!今日は、やっぱり奈良に行こう!と、簡単な計画だけど、気づいたよ。私は、一人で決めてるんだよ。考えてみれば、いつも回りには誰かがいて何もかも決めてくれて自分もそれが当然のように思っていたし、メールで相談してもいいし、結局、みんなと同じ方向に行けばいいんだと当たり前のように思ってた。でも、今、誰にも相談してないし、みんななんて見本はないし、あっそうか!これが1人さすらいの旅ってやつだな。全て、自分が決めて行動するのよね!ずぅーん!ちょっとしんどい感じもするけど、何、この開放感!自由じゃん!何もしなければ、ここで野たれて死ぬ事も自由だし、決めれば、どこだって行けるんだ、なんだ当たり前のことじゃん!ふぁー世界は、あったしの自由って感じぃ~♪

 そりから炎天下にいたせいか立ち上がるのがちょっと億劫だったけど、結局、駅に戻ってジュース飲んで汗乾かして、奈良行きの切符を買おうと販売機の前で、もぞもぞしてると、さっきの駅員さんが来て、

「奈良までですね、ちょっと待っててね」

 と言って窓口の方に行って切符を持ってきてくれて、ニカッと笑ったんだよ。つられて私もニカッと笑っちゃった。

「気をつけていってらっしゃい」

 ってさらにニカッと追撃を食らった私は、ゴキゲンな気分になって、私もニカッて笑って「有難うー!」って手を振ってホームに入るとラッキーっていうか、もう4時ギリギリだったか、電車がきたよ、すぐ乗った。
 





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