元祖・東京きっぷる堂 (gooブログ版)

あっしは、kippleってぇケチな野郎っす! 基本、自作小説と、Twitterまとめ投稿っす!

シナリオ的な、あまりに、シナリオ的な、「幼年期の共有・日活編」

2021-04-02 08:43:35 | 夢洪水(散文・詩・等)
 
シナリオ的な、あまりに、シナリオ的な、
「幼年期の共有・日活編」
 


 
(Ⅰ) 

 丸鏡にサングラスをかけた青年の顔が映っている。彼が、しゃべり出す。

「私は、私は、少年時代、人をさげすむ事が自己の進歩につながると信じていました。私は愚かにも正義とは、普遍的な唯一の真理なのだと信じていました。」

「違いました。この社会は、一人一人が狂った正義を持ったまま共存している恐ろしいところだったのです。」

「私は扉の向こうには、きっと何か素晴らしいものが、私を優しく包み込んでくれる何かがあると思っていました。」

 
★暗闇。

「そんなものありゃしねぇ。私は扉を開いた。そして・・・ドアの向こうには、ドアの向こうには、何でもいいから私をひっぺがそうというサディスティックな生き物がうようよしていた。」

★ドアが、ゆっくりと倒れる、大勢の人々。人々が笑い出す。

 
(効果音:ド~ンという重低音)

 
●夕陽。田舎道。妖精。都会。人々。

声「子供の頃、今となっては、決して見る事も触れる事もできない、何か非常に優しい、とても暖かいものに出会ったような気がする。それは私だけでしょうか。それは、いったい何だったのでしょうか。不思議にも、私は思い出す事ができません。でも、涙が私の頬を湿らせます。」

 
★暗闇。

 
■新宿。

 大きなバックを横抱きにした青年が歩く。信号待ち。渡る。男にぶつかる。

男「おい、おめぇ、待てよ。待てったら。」

 男に呼び止められるが青年は足早に行こうとする。男は追いかけて来る。

男「待てったら。俺は別に、お前にからもうってんじゃねぇんだ。ちょっとな、・・・ちょっと・・・」

 と、男は青年の顔を、まじまじと見る。

青年「何ですか。僕は急ぐんです・・・あ、あっ?」

 男は、ニヤリと笑う。

男「よう。わかったかい良ちゃん!」

青年「あ、あ、あきらちゃん。ど、どうしたんだよ。東京に出て来たのか。」

 男は再び、ニヤリとする。

■ビル。びる。ビル。びる。ビルびる。

 
■電車の中。

良「いつ出てきたんだ。」

明「1年前だ。」

良「今、何してる?」

明「いろいろね。」

良「わからなかったよ。てっきりヤクザ者かなんかだと思ったよ、ははは。」

明「まあな、ははは。いつもそう見られるんだよね。ははは。」

良「どこに住んでいる?ははは。」

明「ははは、今、住むとこ無し!はははははは。」

良「はははは、俺のとこへ来いよ。」

明「ははははははは、い・いいのか?」

良「ははははっははぁ。かまうもんか、他ならぬ明ちゃん。はははは、は」

■街を歩く2人。

明「良、お前、何してるんだぁ?」

良「俺は、今、大学4年だよ。」

明「何だ?そ、その包みは。」

良「あ、ああ、これは、小説。へへへ。」

明「へへへ、小説?ああ、お前、東大の文学部だったなぁ。へぇ~小説家かぁ。へへ。」

■ふみきり。

良「そのバックは、何だ?」

明「ウン。これは・・な・・・・」

 踏み切りの遮断機が上がり、向こうから2人組の黒い背広姿の男が突進してくる。

明「お、おい良!お前んとこ(家)の電話番号を教えてくれ!早く!」

 明は、じりじりと後方に離れてゆく。

良「どうした!(早く!:明の声)231-0816だ!」

 明は、弾けたように飛び上がり、手を叩く。

明「わかったぁあ!」  パチン!

 明は、すばしっこく人混みの中にまぎれていく。その後を2人組の黒い背広男が追っていく。人混みに、2人組の男も消えてゆく。

 ぼんやり突っ立っている良。




 
(Ⅱ) 

▼夕陽が沈んでゆく。

 良はアパートに戻る。机の上に原稿用紙が散らばっている。

「奴は、もう25才だな。俺はまだ23才。幼なじみの出会い。奴は何故追われているのだ?あんなに優しかった明ちゃんが。2人でいっつも日が暮れるまで遊んでいたっけ。2人の影が長く長く伸びて、影が家まで届いてしまう。2人で長い帰り道を競争したっけ。何かが後ろから追ってくるみたいで、怖くて、怖くて、涙が、夕陽に染まった赤い涙が、流れたっけ。」

 
   +++・・・その頃・・・+++

 明が夕陽に染まって必死に逃げている。後ろからさっきの2人組の黒い背広姿男が追っている。

   +++・・・そして・・・+++

 暗闇、小屋の中だ。ドアがパタンと倒れる。「光」。光の中に銃を持った明が立っている。続けざまに彼は小屋の中へ弾をぶちこむ。明は、しばらくたたずんで、去って行く。

 小屋の中から3~4人の人間が、血まみれでヨロヨロと出てきて次々に倒れてゆく。風が吹く。小屋の入り口に下がった風鈴が鳴る。

   +++・・・その後・・・+++

 
▼電話。シリーン、ピロピロピロ~。

明「もしもし、良か、俺だ。明だ。妹も、一緒なんだが。いいか?これから行っても。」

良「ああ、明。お前に妹いたっけなぁ。まぁいいや、この間の踏み切りで待っててくれ。」

明「じゃ2時に行く。」

良「わかった。」

 
■踏み切り。

 良が待っている。明は、やって来ない。突然、知らない女が声をかけてくる。

女「あなた、良さん?」

良「はぁ、あなた・・あっ明の妹さんですか。」

女「冬美です。よろしく。あのぅ兄は遅れて来るそうです。何やら用事ができたとの事で・・・」

良「はぁ、そうですかぁ・・・・」

 
◆良のアパート。

良「なぁ、君、本当に奴の妹かい?信じられないなぁ。何才?」

冬美「あと2日で20才よ。」

良「20才か。ところで今まで、どこに泊まってたんだい?君たちは。」

冬美「そこいらに、たくさん、あるでしょ。安いホテルが。」

良「フーン。明は何やってかせいでるんだ?」

冬美「さぁ、わからない。あの人は分からないわ。さっぱり分からない。」

良「あの人と言ったな。やっぱりそうか、妹じゃないな。妹がいたなんて記憶にないものなぁ。」

冬美「いいじゃん。どうでも。とにかく、あの人は凄く可哀相なんだから。友達なら助けてあげて。」

良「刑事に追われるくらいなら、俺もつき合ってやってもいい。奴とは信じあえた、たった一人の友人なんだ。だから、つき合ってやってもいい。・・・でも・・・もう何でも無い事かも知れない・・・・・」

 良は煙草を、ゆっくりとくゆらす。

冬美「私が、あの人に出会ったのは・・・3ヶ月前のハイウェイ・・・・・・・・・・・

 

+++・・・3ヶ月前のハイウェイ・・・+++

 

 明は広いハイウェイの上を歩いてゆく。背中に血。ポケットに銃。向こうからヘルメットに数珠に木刀という新興宗教の連中がやって来る。

「若者よぉ~♪!身体を鍛えておけぇ~!♪原子力発電所建設絶対阻止ぃ~!♪教祖の説法を聞けぇ~!♪神は原発を望んでいないぃ~!♪原発阻止ぃ~!♪」
 とポップに歌っている。

 すれ違いざまに、その中の一人が明に向かって話しかけてくる。

「君!信者にならんか!同志だ!共に歌おう!」

明「なに?チェッ。原発大賛成!神のばかぁ!」

信者「なんだとう、貴様。地元の人間の立場になってみろ!認識が足りん!地獄に落ちるぞ!自己批判しろい!」

 明は大勢に取り囲まれる。

「自己批判しろ!自己批判しろ!」

「自己批判しろ!自己批判しろ!」「自己批判しろ!自己批判しろ!」「自己批判しろ!自己批判しろ!」「自己批判しろ!」

「自己批判しろ!自己批判しろ!」「自己批判しろ!自己批判しろ!」「自己批判しろ!自己批判しろ!」「自己批判しろ!自己批判しろ!」「自己批判しろ!自己批判しろ!」「自己批判しろ!自己批判しろ!」「自己批判しろ!自己批判しろ!」「自己批判しろ!」

 シュプレヒコールがおこる。

 明は耳をふさぎ、地面にヘナヘナとしゃがみ込む。

明「ハ・ハイ。すみなせんでした。ごめんなさい。」

 と土下座して弱々しく謝る。

 信者たちが去っていく。しかし1人の女を残して・・・。それが冬実だった。

冬美「あんた血だらけよ。かわいそう。」

明「ぢぐじょう。なめんなよ。俺は奴らより、もっと自律的に生きてるんだ。」

冬美「わかるわ。私も、何だか馬鹿馬鹿しくなって・・・。もう、いいのよ。あんなの。」

明はニヤリと笑う。冬美もニヤリと笑う。

 

◆◆◆◆◆・・・闇・・・◆◆◆◆◆

 ライトッ!スポットライトに明が照らし出される。椅子に座っている。

明「こんな世の中、滅んじまえと思った。」

声「君は、いったい何が必要だと思うのだ?」

明「革命ですよ。人間を変えてゆくのです。精神革命です。」

 
◆◆◆◆・・・道の真ん中・・・◆◆◆◆

声「それじゃ、どうしたら良いと思う?」

明「人間的感情のいっさいが罪悪なのです。人間は、人形になるべきです。」

声「どうして?」

明「共存のためです。自ら滅亡せんがためです。」

声「お前は、弱い!」

 
★★★◆◆・・・屋上・・・★★★◆◆

明「僕には生きるためのエゴが欠けているのですよ。」

声「ちぇっ。ひかれ者の小唄か。」

明「僕を救って下さい。この社会は僕に死ねと言ってます。」

声「バ~カヤロウ!強いものにまかれろ!!!」

 明はうつ伏せる。ライト、消える。再び闇。




 
(Ⅲ) 

■良のアパート。

 朝だ。良と冬実が寝ている。部屋の窓から、鳥が飛んでいるのが見える。

冬美「今7時ね。あと17時間で20才だわ。」

良「20才になりたいのか?そんなに。」

冬美「違うの。私は20才にはなれないのよ。絶対に私は20才にはならないわ。」

良「どういう事だよ。」

冬美「何となくね。そんな気がするのよ。明と出会った頃からね。」

良「それでも、あと17時間たてば自然になっちゃうんだからね。へへへ。」

 その時、ガチャン!と窓に石の当たる音。

良「うん?誰?明か?」

 良は窓を開けて下を見る。(ここは2階だ)下には明がいる。彼は片手を額に当てて、挨拶をする。

冬美「明なの?」

 冬美も窓から、顔を出す。明は下で手を振っている。

明「今、行くから。カギを開けてくれ!」

 と言い、姿を消す。

良「あいつ、よくここが分かったな。」

冬美「あたしが昨夜、電話したのよ。部屋の位置まで正確に教えたのよ。」

 と、冬実はドアに駆け寄る。ドカドカと靴音がして明が入ってくる。明は座り込み、そばにあったギターを抱えて「人間なんて」を歌う。

明「もう、すっかり明るくなったなぁ・・・」

良「今日は天気がいい。」

冬美「3人そろったし、これから3人の共同生活のお祝いとして、どこか遊びに行きましょうよ。」

明「冬美、お前は明日で20才だったな。凄いプレゼントをするぞ。」

良「よし、俺も凄いのをするぞ。」

冬美「ほんと!うれしい!やっぱり20才になれるわねぇ、ねぇ。良ちゃん。」

明「良、どうだ、いい女だろ冬実は。俺の女神様だ。」

良「そうさ、俺の女神でもあるさ。」

 突然、明は顔色を変えて、窓により、ガラスを少し開け、外を見る。外には数人の私服刑事がうろうろしていた。

明「くそう。囲まれた。良!俺のカバンを取ってくれ!」

 良は、明にカバンを渡す。

良「ほら!明、お前の気持ちが分かるよ。大人になれば人間は2通りに分かれる。順応する奴と、できぬ奴。俺たちは、できぬ方のトップを走ってる訳さ。」

 明は拳銃に弾をこめている。トカレフだ。

明「そうだ、良。小さい頃を覚えているか?俺たちは何もかも信じていた。そして俺は、お前を、今もまだ信じていた。フフ不思議なものだ。俺とお前は幼少の記憶を共有したために、同じような惨めな人間になっちまった。」

 ドアで見張っていた冬美が、窓のほうへ走ってくる。

冬美「来たわ!2人、刑事が来たわ!」

 チャイムの音。

良「外に3人、ドアの前に2人。」

明「冬美、ドアを開けてやれ。」

 言うとおりに冬実は、ドアを開ける。

冬美「はい。どなたですか?」

刑事「警察です。令状があります。中川良さん。家宅捜索を行います。」

 と、言うやいなや、いきなり刑事は銃を抜いて、ドアを蹴飛ばし、なだれ込んできた。

 明がすかさず、刑事を撃った。命中!もう片方の刑事もすかさず撃ってくる。明の左腕に命中する。良が背後から包丁を刑事に突き刺す。

 3人は逃げる。アパートから飛び降り、走る。明と良は幼い頃、2人で走って帰った田舎道を思い出して、走る!走る!走る!

 川沿いの丘の上、3人が走って逃げている。その後ろから物凄い形相の2人の刑事が追いかけてくる。

 弾が良に命中する。良は倒れ、冬美が良を抱きしめる。明は怒声を上げる。

「うぉおおおおおぉぉおお。糞野郎!」

 と叫んで、一人の刑事を撃ち殺し、喚きながらもう一人の刑事に向かって行く。驚いた刑事は明に向かって続けざまに撃つが、全てそれてしまい、通行人にあたってしまう。通行人がバタバタと倒れてゆく。明は撃ち続ける。はずれる。刑事は蒼白になり、逃げ出して行く。明は喚きながら追って行く。

 
 子供が道路にチョークで落書きをしている。そこへ刑事が走ってくる。

「どけどけ!どけどけどけどけどけどけ~ぇ!!!!」

 と警察手帳を、ひらひらと見せつけて逃げてゆく。刑事は阿波踊りをするように手帳をちらつかせながら、人混みの中に逃げてゆく。

 
★夕陽の丘の上を2つのシルエットが追いかけっこをしている。

 
●海辺で良が寝そべって、砂に絵を描いている。ろうそくの絵。冬美が、しゃがんでそれを見ている。

冬美「なに?それ。」

良「ロウソクだ。」

冬美「良、原子の火って知ってる?」

良「ああ、小さい頃の思い出の空みたいな青い火。」

 
あ・お・ぞ・ら

冬美「ろうそくってのは消える寸前に燃え上がるのよ。」

 
ゆ・う・や・け

良「うん。」

冬美「石油ランプだってそうよ。ひと揺れして、パッと明るくなって・・・白い煙になっちゃうわ。」

良「ああ」

冬美「原子の火は、どうかしらね。最後に大きく燃えるわ。」

良「・・・・・・・・・」

冬美「終わりよ。人類よ、さようなら。最後のおっきな花火・・・」

 冬美の顔と夕陽が重なる。良は、うめいて目を閉じる。

 
●広い道。

 道の真ん中で、明はついに疲れて立ち止まってしまう。遠くで刑事が叫ぶ。

「バカヤロー!!」

 明の顔は、疲労に歪んでいる。左腕は血に染まっている。明は弾の無くなった銃を捨て、ふらふらと道を歩く・・・

明「何を、すればよかったんだ?何がしたかったんだ俺は?俺は?俺は、こんな俺イヤだ。」

 明は、空を見る。

明「鳥になりたいなぁ。ああ、良、死ぬなよ。冬美20才になるんだぞ。死ぬなぁよ。」

 明は、空をポカンと見ながら、そうつぶやき、後ろから来た自動車にはねられる。自動車は何事もなかったように去っていく。明は、吹っ飛ばされ、草むらに寝転がる。

明「ク・ク・ク・俺は・いい・・・いい子だよ、ゴホッ。みんな、いい子だよ。」

 そして、明は絶命する。

 
●夕焼け空。カラスが飛ぶ。

 海辺に良が横たわっている。

良「冬美、俺はな、俺は他人に会うといつも、こう思った。奴は俺を軽蔑していないか?奴は俺を嫌ってないか?とな。それで俺は奴に聞く{お前、俺を軽蔑してないか}ってね、すると{お前こそ俺を軽蔑してるんじゃないか}ってね。フフッ、それじゃぁ俺は奴を軽蔑してるんだから、奴も当然、俺を軽蔑してるんだろう。フフッ。ハッハッハッ、くだらないよ。どうでも、いいんだよ。ハッハッ。お笑いだ。」

 良は冬美の膝の上で静かに息をひきとる。陽が落ち、あたりは暗くなる。

冬美「私、私だけが残った。でも、私は絶対イヤ。絶対20才にはならないわ。もういい。もう、いい。良も明も惨めだわ。死になさい。あんたらは生きられないわ。やっぱり私、20才になるのね。あと6時間生きていれば・・・」


 


kipple