君の脳から次から次へと引き剥がしてゆきたまえ! 笑うな! 自分を客観視する人間こそ最高の役者なのだ 一つの表情もたくさん寄り集まる事によって 無表情という恐ろしい怪物となって躍動し始める 群集は僕にとっては耐えられない怪物なんだ!
僕は東京という都会で、二十年間暮らしていた。しかし二十年間、僕の夢は一度も実現できなかった。誰かが、いつも実現を許さないのだ。いつも僕の近くには、誰かが音もなく忍び寄っているのだ。そして耐えず監視し邪魔をする。 そう、僕の夢とは、僕自身の空間を作りたい、唯、それだけのことなのだ。一人でいることによって僕は、それだけの自分自身の存在感を持てるのだ。 お前だ!そこのお前!お前だよ!邪魔するな!僕の空間を汚すな!あっ・・・・・突然、僕は気がついた。顔の筋肉がひとりでに、もこもこと動いて僕に笑い顔を作らせようとしているのだ。目じりが、ぴくぴくと震え、肉体の諸機関が無意識に近い潜伏的な意識内の命令意志と、今、この部屋の中にある、ピリピリした皮膚が切れてしまいそうな焦燥と隠匿意識から来る緊迫感によって、急にぎこちなく活動しはじめた。 ・・・・・ああ・・・・・こんな狭苦しい、ちっちゃな・・・・・それでも僕の空間を・・・・・お前は、又、汚しに来た。そう、僕は確かに感じた。ドアを開け、お前は、今、僕を見ている。 僕とお前の約1mくらいの空間に僕は、どうしたら敷居を作れるだろうか。又、壁でもいい。遮断するものなら何でもいい。僕は、さっそく考えた。高さは2m30cm、横幅3m50cm、材質・・・ベニヤ板で良い。ベニヤ・・・・・ポスターを貼る。ああ、これで又、僕の空間は狭くなってしまうのか・・・・・プツン・・・・・ああ・・・又だ、又、心のスイッチが切れた。切れた。又、切れた。早く治らないか! 僕の心の悶絶を、よそに顔はいかにも親しげな形相を作っていた。お前も少しは僕の顔の下の顔を感じとったらしく、お茶を置くと、そそくさと逃げるように、それでも善意のホホエミを忘れずに、この病室を出て行った。ここは病院だよ。精神病院。 分かってくれたかね。僕は、この病院の一室を与えられたことにより少しは、夢を実現させたのだよ。壁一枚でさえぎられた薄く霞んだ現実だが、とにかく空間はある。・・・・・だが、これは僕の見落としによって失敗になったのだ。僕は知覚における重大な見落としをしてしまった。僕は一方向の偏った考えでしか、隔絶された空間をこの部屋に照らしてみなかったのだ。 要するに視覚的効果でしか、この部屋は役だってくれなかったのだ。僕は今、聴覚的恐怖におびえながら毎日を送ることになってしまった。それは微かな音であり、ヒソヒソ話の声であったりするんだ。音もなく音声が忍び寄ってきて僕を監視し邪魔をする。あるいは僕のことを中傷したりバカにしたり、こそこそこそこそ悪意を向けている。幻聴じゃないんだ!本当に隣の部屋かドアの向こうか、どっかで誰かがしゃべっているんだ! まあ、いい、さて、今、僕の過ごしている時間は後にして、まず、僕の20年間の生活の波の上で、キラキラと白く光って飛び跳ねる記憶の魚を一匹づつ拾っていくことにしよう。 僕は青森の金木という町で産まれ、なんとなく育って来た。物心つくまでの記憶は非常に断片的であって確実に語れるものがない。何だか昔、ドロドロのじゅるじゅるの真っ赤な夕陽の日に何かあったような気がするけど確実じゃない。問題は、僕が上京してから数ヶ月間に受けた非常に大きな衝撃と屈辱から始まるのだ。 その女とは歌舞伎町のキャバクラで知り合った。どちらからともなく一緒に暮らし始め、僕は毎日、彼女のアパートでTVゲームをやっていた。やがて、どちらからともなく「死のうか」ということになった。そして二人で「死ぬなら鎌倉だろ、どう?」ということになって、鎌倉の海に行き、ケータイの赤いストラップで御互いの小指を結び合って、入水しました。
なーんちゃってぇ!なーんちゃってぇ~! あは、あは、アハ、アハ、アハ
あれれれれぇなぁんにもわかりゃにゃくなって、なぁんにもわかんないや。 なんのはなししてたっけぇ~?うそで~す、ほんとうで~す。 おやすみなさーい。
|