UFO襲来 |
ある晴れた秋の午後でした。一台のUFOらしきものが地球に近づいて来たのです。それはTVやインターネットで全世界に中継されました。 私はヤホイという者で、UFOの権威でした。それで、幸いな事に、UFOは日本に着陸しそうなので、私もかり出され、現場を見に出掛けたのです。 私と仲間のUFO学会の人たちが着くと、ちょうどUFOが地面に着地したところでした。取材陣や研究家や高名な学者や野次馬が大きな輪になって取り囲んでいました。 パニックを抑えるためか機動隊が人々をUFOに近づかないように最前列で囲みを作っていました。背後には自衛隊がしかるべき場所に配置されているようでした。 私たち、いやおそらく様々なメディアを通して見ている全人類が、相当な緊迫感で凝視していました。現場にいる私たちは、なおさらでした。 着地すると、すぐに私たちの目の前にある小さな黒い点が、大きくなり、そこからスルスルと白く輝く階段状のものが伸びてきて、中から人間にそっくりな宇宙人たちが出てきました。人々は喝采の雄叫びを上げました。 宇宙人が私たちとただ一つ違っていたのは、彼らは後ろ向きに歩いて来たのです。UFO学の権威である私は親善大使として選ばれ、一人で近づいて行きました。そして彼らの一人が後ろ向きのまま近寄ってきて、私に一冊の本を渡しました。が、渡すときは、くるっと前向きになりました。 その本には何やら私たちへのメッセージみたいなものが書いてありました。私は、さっそく解読するよう言語学者に手渡しました。宇宙人たちは大歓迎を受け、地球上のあらゆる要人たちにもてなされる事になりました。 その後、宇宙人たちは要人たちのもてなしを全て無視して、何やら訳の分からないことを、やっていました。誰が、どんなやり方でコミュニケートしようと一向に通じないので、取りあえず無害なようなのでメディアの監視の元で、彼らのやりたいようにやらせておかれました。地球はお祭り騒ぎでした。 じきに彼らは、今度は前を向いたまま後ろに歩いていってUFOの中へ戻り、飛び去って行ってしまいました。人々の熱狂は、彼らが去った後も、まだ続いていました。 地球全体が熱狂の渦に包まれている間、私たちのグループや一部の学者たちは、冷静に研究を続けていました。 そのうちに本を手渡しておいた言語学者が私のところに来て言いました。 「おかしいんだ。途中まで解読できたが、どうしたわけか文字が後ろからどんどん消えてゆき、コピーやコンピュータに入力した文字データも全て消え失せて、しまいには本まで消滅してしまったんだ。私の目の前で。」 私が、じゃあ消えるまでに解読した分の内容は?と聞くと、これまたおかしなもので、彼らは地球を超コバルト反重力装置で一瞬のうちに消したが、どういうわけだか消滅した後にまた現れたという内容だと言うのだ。 そして宇宙全体の法則が狂い始めているんじゃないか?それも、この地球を中心に、と考え、その前代未聞の現象を調査しに地球に降りてきたところあることが、分かったそうだ、“それは・・・”で後は消えてしまったのだそうだ。 しかし私には、もう分かった。奇怪だが信じぬわけにもいかない。彼らは私たちと逆元の世界にいるのだ。 私たちが未来へ向かって生きているとすれば、彼らは私たちの過去(つまり彼らの未来)へ向かって生きているのだ。だから彼らは後ろ向きの姿で歩いていたのだ。 すると彼らの過去で消滅した地球は私たちの未来で消滅する訳だ。じゃあ、もうすぐじゃないか。 しかし彼らが、地球を壊す前に見た地球は何か?それは私たちにとって未来の地球である。となると彼らは私たちにとっての未来の地球を消滅させると共に、自分たちにあってはならぬ過去を目撃した。彼らは地球を消滅させると共に自分たちの過去をも壊してしまったのだ。彼らの時間軸を自らの手で狂わせてしまったのだ。 それで地球は消されても、消えていなかったのだ。彼らは私たちの過去に向かって進んでいたのだから。となると消す以前に彼らが目撃した地球が無くなるということは、彼らにとっては過去が無くなるという事だ。 ということは彼らが超コバルト反重力装置を使用して消し去る前に見た地球は、存在してないはず、ということになる。だとすれば彼らの過去もなくなるんだ。壊れた過去は彼らの存在を許すはずがない。要するに、彼らも消滅するんだ。 本の内容による分析がこういう結果になると、その後あらゆるメディアによって全世界の人は信じ込んだ。しかし情報は一人歩きし始め、様々な誤解とデマにより、もうすぐ地球の最後がやって来るというものに変わって行った。地球は消えないはずだったのだが・・・ 世界中の人間は奥底にハルマゲドン願望を持っていた。これがいけなかった。人々は、どうにでもなれと、暴れ狂ったのだ。私自身も集団暗示に掛かり思考停止状態に落ち入った。どうせ死ぬのなら、何でもしてやれ。人々を殺しまくり、女を強姦し、暴れ狂った。
そのうち本当に巨大な閃光と共に地球は滅んだ。 * 「どうも、我々と友好を結べる惑星は無さそうだな。」 「ああ、あんなに苦心惨憺たる芝居をして確かめているが、その結果、合格した星は一つもないとは・・・消えてしまう本のトリックにも気づかないみたいだ。」 「ああ、この宇宙中の知的生命体の住む惑星全部が、あんなに凶悪な本心を持った連中だらけだとしたら本当に恐ろしいことだ。我々は全部の星を消しちまわにゃならないや・・・」 「次の惑星の住人たちの平均的知能指数は?」 「250くらいだ。」 「よし、では空から、その惑星の金や金銀財宝でも、ぶちまけてやるか・・・・・もう下手くそな芝居は面倒だからやめにしよう・・・」
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kipple