(Ⅲ) ■良のアパート。
朝だ。良と冬実が寝ている。部屋の窓から、鳥が飛んでいるのが見える。
冬美「今7時ね。あと17時間で20才だわ。」
良「20才になりたいのか?そんなに。」
冬美「違うの。私は20才にはなれないのよ。絶対に私は20才にはならないわ。」
良「どういう事だよ。」
冬美「何となくね。そんな気がするのよ。明と出会った頃からね。」
良「それでも、あと17時間たてば自然になっちゃうんだからね。へへへ。」
その時、ガチャン!と窓に石の当たる音。
良「うん?誰?明か?」
良は窓を開けて下を見る。(ここは2階だ)下には明がいる。彼は片手を額に当てて、挨拶をする。
冬美「明なの?」
冬美も窓から、顔を出す。明は下で手を振っている。
明「今、行くから。カギを開けてくれ!」
と言い、姿を消す。
良「あいつ、よくここが分かったな。」
冬美「あたしが昨夜、電話したのよ。部屋の位置まで正確に教えたのよ。」
と、冬実はドアに駆け寄る。ドカドカと靴音がして明が入ってくる。明は座り込み、そばにあったギターを抱えて「人間なんて」を歌う。
明「もう、すっかり明るくなったなぁ・・・」
良「今日は天気がいい。」
冬美「3人そろったし、これから3人の共同生活のお祝いとして、どこか遊びに行きましょうよ。」
明「冬美、お前は明日で20才だったな。凄いプレゼントをするぞ。」
良「よし、俺も凄いのをするぞ。」
冬美「ほんと!うれしい!やっぱり20才になれるわねぇ、ねぇ。良ちゃん。」
明「良、どうだ、いい女だろ冬実は。俺の女神様だ。」
良「そうさ、俺の女神でもあるさ。」
突然、明は顔色を変えて、窓により、ガラスを少し開け、外を見る。外には数人の私服刑事がうろうろしていた。
明「くそう。囲まれた。良!俺のカバンを取ってくれ!」
良は、明にカバンを渡す。
良「ほら!明、お前の気持ちが分かるよ。大人になれば人間は2通りに分かれる。順応する奴と、できぬ奴。俺たちは、できぬ方のトップを走ってる訳さ。」
明は拳銃に弾をこめている。トカレフだ。
明「そうだ、良。小さい頃を覚えているか?俺たちは何もかも信じていた。そして俺は、お前を、今もまだ信じていた。フフ不思議なものだ。俺とお前は幼少の記憶を共有したために、同じような惨めな人間になっちまった。」
ドアで見張っていた冬美が、窓のほうへ走ってくる。
冬美「来たわ!2人、刑事が来たわ!」
チャイムの音。
良「外に3人、ドアの前に2人。」
明「冬美、ドアを開けてやれ。」
言うとおりに冬実は、ドアを開ける。
冬美「はい。どなたですか?」
刑事「警察です。令状があります。中川良さん。家宅捜索を行います。」
と、言うやいなや、いきなり刑事は銃を抜いて、ドアを蹴飛ばし、なだれ込んできた。
明がすかさず、刑事を撃った。命中!もう片方の刑事もすかさず撃ってくる。明の左腕に命中する。良が背後から包丁を刑事に突き刺す。
3人は逃げる。アパートから飛び降り、走る。明と良は幼い頃、2人で走って帰った田舎道を思い出して、走る!走る!走る!
川沿いの丘の上、3人が走って逃げている。その後ろから物凄い形相の2人の刑事が追いかけてくる。
弾が良に命中する。良は倒れ、冬美が良を抱きしめる。明は怒声を上げる。
「うぉおおおおおぉぉおお。糞野郎!」
と叫んで、一人の刑事を撃ち殺し、喚きながらもう一人の刑事に向かって行く。驚いた刑事は明に向かって続けざまに撃つが、全てそれてしまい、通行人にあたってしまう。通行人がバタバタと倒れてゆく。明は撃ち続ける。はずれる。刑事は蒼白になり、逃げ出して行く。明は喚きながら追って行く。
子供が道路にチョークで落書きをしている。そこへ刑事が走ってくる。
「どけどけ!どけどけどけどけどけどけ~ぇ!!!!」
と警察手帳を、ひらひらと見せつけて逃げてゆく。刑事は阿波踊りをするように手帳をちらつかせながら、人混みの中に逃げてゆく。
★夕陽の丘の上を2つのシルエットが追いかけっこをしている。
●海辺で良が寝そべって、砂に絵を描いている。ろうそくの絵。冬美が、しゃがんでそれを見ている。
冬美「なに?それ。」
良「ロウソクだ。」
冬美「良、原子の火って知ってる?」
良「ああ、小さい頃の思い出の空みたいな青い火。」
あ・お・ぞ・ら
冬美「ろうそくってのは消える寸前に燃え上がるのよ。」
ゆ・う・や・け
良「うん。」
冬美「石油ランプだってそうよ。ひと揺れして、パッと明るくなって・・・白い煙になっちゃうわ。」
良「ああ」
冬美「原子の火は、どうかしらね。最後に大きく燃えるわ。」
良「・・・・・・・・・」
冬美「終わりよ。人類よ、さようなら。最後のおっきな花火・・・」
冬美の顔と夕陽が重なる。良は、うめいて目を閉じる。
●広い道。
道の真ん中で、明はついに疲れて立ち止まってしまう。遠くで刑事が叫ぶ。
「バカヤロー!!」
明の顔は、疲労に歪んでいる。左腕は血に染まっている。明は弾の無くなった銃を捨て、ふらふらと道を歩く・・・
明「何を、すればよかったんだ?何がしたかったんだ俺は?俺は?俺は、こんな俺イヤだ。」
明は、空を見る。
明「鳥になりたいなぁ。ああ、良、死ぬなよ。冬美20才になるんだぞ。死ぬなぁよ。」
明は、空をポカンと見ながら、そうつぶやき、後ろから来た自動車にはねられる。自動車は何事もなかったように去っていく。明は、吹っ飛ばされ、草むらに寝転がる。
明「ク・ク・ク・俺は・いい・・・いい子だよ、ゴホッ。みんな、いい子だよ。」
そして、明は絶命する。
●夕焼け空。カラスが飛ぶ。
海辺に良が横たわっている。
良「冬美、俺はな、俺は他人に会うといつも、こう思った。奴は俺を軽蔑していないか?奴は俺を嫌ってないか?とな。それで俺は奴に聞く{お前、俺を軽蔑してないか}ってね、すると{お前こそ俺を軽蔑してるんじゃないか}ってね。フフッ、それじゃぁ俺は奴を軽蔑してるんだから、奴も当然、俺を軽蔑してるんだろう。フフッ。ハッハッハッ、くだらないよ。どうでも、いいんだよ。ハッハッ。お笑いだ。」
良は冬美の膝の上で静かに息をひきとる。陽が落ち、あたりは暗くなる。
冬美「私、私だけが残った。でも、私は絶対イヤ。絶対20才にはならないわ。もういい。もう、いい。良も明も惨めだわ。死になさい。あんたらは生きられないわ。やっぱり私、20才になるのね。あと6時間生きていれば・・・」
終
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