元祖・東京きっぷる堂 (gooブログ版)

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音楽室5号 第24章

2021-07-11 06:54:45 | 音楽室5号

 


第24章
(ゾッとした。ビルが二つに見えた。赤が黒に見えた。女が靴に見えた。)



 今度は白い病室でした。

 白い大きな寝台にシーツをかむって髪を針の様に逆立てた男が大きな目玉をギョロギョロさせて横たわっています。

 キーホーは、やれやれと思いました。


 キーホーは奇妙なその患者を一瞥すると、すぐさま踵を軸にくるんと回わり、板戸を開いて出て行こうとしました。


 しかし背後から、まるで神様をたった今、刺し殺してしまったような悲痛な声が待ったをかけるじゃありませんか。

男
「先生!。先生!。話を聞いて下さい。

 どうして行ってしまうのですか?。僕をちゃんと治療しもせずに。

 む・むごいじゃありませんかぁぁぁ。」


 キーホーは再び、やれやれと思いました。

 もう音楽室は五号と決まったようなものです。

 その安堵感もありましてか、キーホーは壁に吊り下がっている白衣を被ると精神分析医の証明バッチを胸に張り付けて荘重そうな顔つきをして患者の横の回転椅子に腰掛けて、V字型に笑顔を作ってみせました。


「はい。聞きましょう。どうぞ。」


 キーホーは、キョトキョトしている針千本(ハリフグ)みたいな患者の両耳をダンボのように摘んで広げました。

 すると患者のおしゃべりスウィッチが症状告白モードでONに入ったようです。


 カチリ。・・・


 患者は舌を羽ばたかせながら話し始めました。


「僕、毛が多いんです。

 特にチンゲの多さったら人の三倍はあると思います。

 それで僕、困るんです。痛いんです。

 あの時、チンコと一緒に固くて縮れた沢山のチンゲが先っちょに絡まったまま付いてくるんです。

 チンコの先はカミソリでやられたみたいに切り傷だらけです。

 目玉を抉られ喉から手づかみで心臓を抜かれる痛さです。

 気絶した事もあります。

 そ、それで・・・・・・・・・・。」


 キーホーは想像すると身の毛がよだち、アーチ形に反り返って唇をすぼめました。


「それで?。」


「それで、あの僕、毎朝、よーく臍のあたりから肛門のまわりまで、みっちり一時間以上かけて剃るんです。

 つるつるに剃ります。

 僕は、そうしないと又、痛い目に遭うんです。

 だからどうしても、つるつるにしないと駄目なんです。

 一日でも放っておくと、短い針の様な毛が、今度は袋に何百本、いや何千本も突き刺さる事になります。

 だから、よぉく剃るんです。

 僕、とっても恥ずかしい。

 洗面所の三面鏡に向かって下半身をガバと開らき、唯ひたすらに剃ります。

 なんて惨めな事でしょう。

 せ・先生。わかります?。この惨めさが。

 そ・それで、まず十ヶ所はカミソリ敗けしてしまうんです。

 時には何か得体の知れぬ前人未踏の不気味な体験かと思います。

 そう、男のくせにメンスがあるんです。

 くっ。くっ・く。

 男のくせに。」


「えー。剃るのを始めたのは、いつ頃です?」


「中学に入った頃からです。」


「その時以前に、もう女性と性交渉をもっていたんですね。

 それで、陰毛が邪魔になり、剃るようになったと・・・・・。」


「い・いえ。先生。

 ダ・ダッチ・・ワイ・・・

 いえ、僕はまだ性交渉してないです。

 一度も。」


「えー。それでは、あの時、チンコの先に絡まると言った、あの時とはどんな時の事ですか?。」


「はっ。はっ。

 う・嘘でした。すみません。

 また嘘をついてしまいました。

 いかにも僕はS・SEXの時の様に話をしましたけど。

 事実はそうなんです。しくしく。

 僕も自分の心理がよくわかるんです。

 僕、四十になっても童貞なんです。

 そ・それで、それが劣等感で、ずっと二十歳頃から、すぐに嘘を言いました。

 いかにも、とっくに体験したかのように。

 で・でも直接、SEXしたかって友人に聞かれると震えちゃうんですよね。

 僕、身体は正直にできているんです。」


「それじゃ中学生の時から陰毛を剃り始めたというのも嘘なのですか?。」


「いいえ!。こ・これぁ本当です。

 本当でっす!いっつも、つるつるにしてました。」


「では、剃り始めた時の原因は何ですか?。

 もう嘘はいけませんよ。」


「分かるんです。今、わかりました。

 僕は十二才まで脱糞癖がありまして、いつも尻やチンコをウンチだらけにしていました。

 あの頃の僕にとって、それはとても恐ろしい事でした。

 一日に何十回もウンチが平べったく尻から下へ回って臍までベットリと付いてしまうもんですから。

 父や母は、その度に僕の事を(うんちょっ子。うんちょっ子。)ってからかい、(自分で拭け!)と殴る蹴る始末でした。

 十三才の頃、そんな癖も治りましたけど、何か尻やチンコのあたりが気になるんです。

 それで前にウンチをキレイ・キレイに拭ってたように僕はチンゲと尻毛をつるつるに剃らずにはいられません。

 きっと、そうだと思います。

 先生、そうなんです。

 僕はウンチを拭いたいから毛を剃るんです。

 でしょう?。」


「そうですか。そうとは言いきれません。

 他に何か、その頃とても恥ずかしいとか屈辱的な出来事は、ありませんでしたか?。」


「え・え・え・。う~ん、無いですねぇ。」


「それ以前は?。」


「その前っ!。そ・その前には・・・・・。

 実は僕、十才の時、宇宙人の女の人とお父さんがSEXしてるのを見てしまったんです。」


「そうですか。

 あなたの性的発達は、その時の衝撃的な光景に留まってしまったのでしょう。

 性の対象は歪められ代償を求め、欲動は彷徨います。

 都合の良い事に、あなたは脱糞症で肛門部や性器に日常的に大便が付着していた。

 それによって歪んだ性欲動の代理行為として肛門や性器周辺の便を取る事で充足させていたのです。」


「・・・じつを言うと、その頃、僕、その拭った便を必ず唇に塗って口をタコの様にすぼめて口に付いたウンチの臭いを嗅いで楽しんでいました。

 とても恥ずかしい事です。」


「そ・そうでしょう。リビドーの退行です。

 口愛期です。

 その癖は外的な制圧によって十三才の頃には周囲に対しても自分に対しても限界に来てしまったのです。

 ここで自我が働き、なんとか、周囲の力も手伝い、脱糞癖は治りました。

 しかし、そうすると今度は、また抑圧を受ける事になります。

 せっかく十才で歪んだ性欲動、固着したリビドーも、その代替行為を奪われてしまったのです。

 欲動ベクトルは自然に大便拭いから陰毛剃りへと向きを変えました。

 そして大便拭いの記憶と状況からの対自己印象は、とても強くリビドー発達を、これまた歪めたのでしょう。」


「じゃ、どうしたら、この恥ずかしい事、止められます?。

 止められないと又、自我と劣等感の闘争のため、又々、その対象行為を間違えて自分のチンコを街中で尻の穴に突っ込んでみたり高級レストランで人々の目前でウンチして、それを食べ始めたり、喫茶店でチンコの穴にストローを巧みに突っ込んで・・・僕、あれプロ級にうまいんだから!・・・小便をエメリューム光線みたいに飛ばして他の客にひっかけたり・・・。

 それを、も・もう、せずにはいられなくなります。

 あぁ、なんて重い苦悩なんだ。ラ・ラ。

 何で、あんな楽しい事しちゃぁいけないんだ。

 そうだ、後で死ぬ程、恥ずかしくなるからだ!。

 でも、止められない。

 チンゲ剃りを止めれば、止められるんですね。」


「いや、待て。

 チンゲ剃りを止めても駄目だろう。

 失礼、陰毛剃りを。

 無理して止めたら今度、代わりに君は、どんな事をするか、わからんぞ。

 まず陰毛剃りの原因となった無意識の中の歪みを消さねば全ての異常行為は治らない。」


「わかった!。

 僕は宇宙人と父の産んだお前を殺したいんだ!!!。」


 そうか、僕はハーフだったのかとキーホーは納得すると、ザラ味のカルテを患者の首から外して、サラサラと記入を済ますと、


「はい。終わりました。」


 と言って、すっくと立ち上がり、白衣を破き、そそくさと病室を後にしました。


 患者はしばらく、こせこせと蜘蛛の様に部屋中を這いずりまわっていましたが、キーホーの記入したカルテをひょいと見てしまいました。


(症例。1999年・坂本良介。病名『バカ』。)


 患者は顔を一万光年の速度でほころばせ、胸を足で撫で下ろし、にんまりと幸せそうに空を見上げて叫びました。


「そうか!。

 僕は、バカだったんだ。

 バカだったんだぁぁああ。」


 患者は狂喜して垂直に飛び上がり、天井に首まで突っ込んで手足をはためかせ、大声で言いました。


「ありがとぉう、先生。」



 キーホーは、

「どういたしまして。」

と言って、ゆっくりと板戸を閉めました。




注。
 エメリューム光線とはウルトラセブンの松果腺から発せられるエネルギー体の名称。
 ここでは人間の未知なる目、
 即ちDNA遺伝子の失われた記憶領域の開放、覚醒の意味を含ませている。
 デカルトは松果腺に魂が宿っていると言った。
 ブッダは覚醒により過去世を思い出し、その影響を受けたエンペドクレスも過去世を思い出した。

 第三の目。

 

少女2

 



KIPPLE



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