さて、次のようなお便りを頂きました。
憲法と将棋 (よいとく)
2012-04-18 00:30:36
はじめまして。1ヶ月後に試験を控え、もう一度急所を読み返している受験生です。少しずつ憲法の力がついてきたような気がしています。
素晴らしい本に出会えて良かったです。木村先生、ありがとうございます。
さて、お便りコーナーというのは、どんな話題でもよいのでしょうか?憲法学者であり、将棋ファンの木村先生にお聞きしてみたいことがあるのです。
(もちろん、ブログの読者の皆様にも!)
久保先生は「振り飛車党は南斗聖拳」と例えたそうですが、将棋の戦法や棋士を憲法学の解釈論や学者に例えてみるとどうなるのでしょう?
ちなみに、私は藤井猛九段のファンなので、やはり藤井システムがどう例えられるのかが特に気になります。居玉で攻めるという発想の転換や、その破壊力は、憲法学史におけるどのような議論に似ているのでしょうか…?
あと、何となくですが、羽生世代という響きと、憲法学における55年組の先生方というのはどことなく位置づけが似ているような気がします。将棋にも55年組というくくりはあるようですが、カリスマ的な意味では羽生世代に近いような?
と、なんだか考え出すと楽しくなってきたので、投稿させていただいた次第です。
受験1か月前に何を呑気かつミーハーな話題…と我ながら呆れてしまいますが、いかがでしょうか。
なかなかの難問です。
読者のほとんどは、藤井システムとは何か、
ご存じないと思うので、
ちょっと、説明します。
1 振り飛車とは何か?
将棋の戦法、戦い方というのは、
大きく分けて二つに分類されます。
居飛車と振り飛車というのが、その二つで、
棋士、将棋愛好家は、
主として居飛車を指す居飛車党員。
主として振り飛車を指す振り飛車党員。
選り好みなく何でも指す無所属(オールラウンダー)に分かれます。
居飛車党というのは、しばしば「王道」と言われまして、
トッププロに限ると、居飛車党員が多いです。
例えば、現在のA級棋士(名人挑戦権を争うトップリーグ所属棋士)
に限ると十人全員が居飛車党です。
ただ、振り飛車が優秀でないか、というと、
そんなことはなく、非常に合理的な面もあり、
アマチュアでは、振り飛車党は多く、
居飛車党の棋士が、振り飛車を指すケースも最近では多くあります。
2 藤井システムについて
さて、そんな振り飛車でありますが、
その昔、振り飛車戦法が消滅の危機にひんした時代がありました。
振り飛車戦法に対し、居飛車穴熊という戦法が開発され、
振り飛車の勝率がすごく悪くなったのです。
ここで、登場したのが藤井猛九段の開発した
藤井システムと言う戦法でした。
これは、居飛車穴熊の天敵で、
藤井九段は、居飛車穴熊を操るトップ棋士を次々と撃破し、
将棋界最高のタイトル竜王を獲得し、二期連続で防衛に成功します。
居飛車穴熊の陣形をとろうとすると、
陣形が完成するまでに、何回か隙が生まれます。
そこで、藤井システムは、自分の守備にエネルギーを割かず、
その隙が生じた段階で一気に攻め潰す、と言う趣旨の戦い方です。
とりわけ特徴的なのが、
「居玉は避けよ」という著名な将棋格言
(守備に手を回さずに戦いを始めると、すごく不利だよ、
という趣旨の格言)に反し、
「居玉」で戦う点でした。
3 藤井システムの評価
現在では、藤井システムは研究が進みすぎ、
あまり指されることはありませんが、
将棋界に巨大な影響を与えました。
ところで、この戦法の位置づけについては、最近
興味深い指摘があります。
メジャーな戦法を指しこなすためには、
非常に多くの情報が要求されるため
情報交換のための研究会を頻繁に開催できる
東京や大阪に住んでいる棋士に有利である。
他方、地方在住の棋士は、情報量が不利に働かないよう、
独自の戦法を開発する傾向がある。
藤井システムは、その最たるものである。
以上をまとめると、
「これが憲法学界の藤井システムだ」というためには、
次の条件を充たす必要があります。
条件1 ある戦法(振り飛車)の天敵(居飛車穴熊)が編み出されたときに
逆襲のために生まれた戦法である。
条件2 従来、一般的によくないと言われていた戦い方(居玉)を
採用し、画期的な成果を上げた。
条件3 メジャー戦法の情報合戦の外から生まれた戦い方である。
・・・。うーん、あまり思い浮かばないなあ。