木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

ご質問について

これまでに、たくさんのご質問、コメントを頂きました。まことにありがとうございます。 最近忙しく、なかなかお返事ができませんが、頂いたコメントは全て目を通しております。みなさまからいただくお便りのおかげで、楽しくブログライフさせて頂いております。これからもよろしくお願い致します。

学説の正しさ

2012-04-20 08:04:20 | ちょっと一言
このブログをはじめまして、多くのご質問をいただいてきました。
どうもありがとうございます。
私自身も、大変勉強になりました。

ところで、ご質問をいただいていて、最近、少し気になったことがありますので、
それを少し書き連ねてみます。

しばしば、
「キムラの見解は、A先生のこの論文と違っているようだが、
 どういうことなのか?」
「キムラの言葉の使い方は、A先生のこの論文と違うが、
 どういうことか?」
という趣旨のご質問をいただきます。


もちろん、
「A先生のこの論文の記述は、キムラはこれをどう評価するのか?」
「A先生の論文は、お前の議論をこう批判しているが、
 それについてどうこたえるのか?」
という質問は、いろいろ答えようがあります。


しかし、上の質問は、こういう質問とはニュアンスが違っていて、
お前の見解を、A先生の見解に整合するように説明しろ、
と言われているような気がするわけです。

私が論文や著作を公表する場合、
私なりに、これが最も理論的に優れている、
最も優れた解釈論である、あるいは
最も優れた言葉の定義と使い方である、と思って提示しているわけで、
他方、A先生も、そう思って学説や議論を提示し、言葉を使っているわけです。


この場合、私もA先生も主観的には自分が真理だと思っていますが、
どちらが客観的に「正しい」のかは、読者のみなさんが判断するより他ないのです。

それぞれの論証を読み、どちらが正しいかを判断し、
自らの支持する立場を固める。

これは、法律家にとって必須の能力です。
このあたりを、もう少し意識してほしいなあ、と思う今日この頃です。


そうそう、ちなみに、何が「試験委員の理解」として「正しい」のかも、
認識しようがありません。

試験委員をされている学者の先生に限っても、
考え方はそれぞれ違うところがあり、
特定の先生の考えが「試験的正解だ」というみなしは、かえって危険です。

「理論的に正しければ、試験委員の見解と違っていても、評価してくれるはずである。
 だから、徹底的に理論的な正しさを追求した議論をすべきだ。」
という態度であるべきだし、実際、そういう態度で合格していけるように思います。

もちろん、自分で「理論的に正しい」ものを選ぶ能力がない、自信がない、という方もいるでしょう。
そういう方は、まず、その能力を身につけることから試験勉強をはじめられるとよろしいと思います。

積極目的による財産権(既得権)制約

2012-04-20 08:01:51 | Q&A 憲法上の権利
今日は、財産権についてのご質問を紹介します。

財産権と営業の自由 (ノブコフ176)
2012-01-13 05:42:04
 はじめまして。先生。大好きです。さて、質問させていただきます。
 「財産権の主張に積極目的規制だから緩やかに判断しよ!!という反論はダメなのですか?」という質問です。

 第五問の急所203Pの、本件では財産権の主張の方がよさそうだというご趣旨の記載に関してです。営業の自由の適法制約についての正当補償請求権を明示的に補償した規定がないからという理由は理解できました。しかし、積極目的規制に分類され、緩やかな審査基準が設定されてしまいそうだから、財産権主張の方がよいとの記載について頭がこんがらがってしまいました。

 第六問の解説を僕は、「積極目的規制は、いわば公的カルテルだから、いろいろくまなく専門的に調査して評価した上で、民主的正当性を確保したい。そーゆー規制は、そーゆー調査に優れた、民主的正当性を確保する機関の立法府に任せるべき。だから、緩やかに審査しよーぜ。」というものだと理解しました。

 それは、第五問でも同じことがいえる気がして、財産権であっても、被告に積極目的規制だ!!と反論させたくなってしまいました。多分僕は、積極目的規制はが営業の自由だけでなく、経済的自由権一般に妥当するものだと思ってしまっているのです。
 「積極目的規制は既存業者を保護するもので、公的カルテルだから、片方の営業の自由を制約し、片方の営業の自由を保護するのが前提になっている規制。だから、財産権主張の反論にならないのかなー。」とか、「でも、片方の財産権を制約し、片方の財産権を保護することも積極目的規制なんじゃないかなー。。」とか頭が混乱し、急所愛読仲間に質問しようとしたのですが、僕は「歩くミスリーディング」とよく友達から罵られるので、怖くなって友達を巻き込むことはできませんでした。ブログを拝見したところ、先生が暖かく優しく質問にお答えしてくださってるので、先生を頼りたくなりました。どうか、稚拙な私の質問にお答えいただけないでしょうか。


>ノブコフ176さま (kimkimlr)
2012-01-13 07:36:42
うーんと、財産権(既得権制約)と目的の積極・消極ですが、
判例は、積極目的だから緩やかに審査する、とは考えていないように思います。

既得権は予測可能性のための権利なので、
そういう保障根拠からすると、積極目的の方が
むしろ重大な侵害になりやすい、という考慮かと思います。

これに対し、営業の自由との関係では
目的がどうだろうと原告の生存と人格に与える影響は同じなので、
積極目的の方が重大な侵害だ、とはなりにくく、
他方、公権力側の事情(第六問で解説)からすると、
積極目的の方は認めてもいい規制なので、
ああいう議論になるのかな、と思います。

ただ、学説レベルでは、既得権保障を含めて
経済的自由権一般について、裁判所の政策判断能力から、
積極目的緩やか審査と言いますので
(芦部『憲法判例を読む』参照)、
第六問の考慮を財産権に及ぼすこともできるかな、と思います。

ありがとうございました。 (ノブコフ176)
2012-01-13 10:53:10
昨日3時間くらい悩んでいたのですが、先生のおかげで理解することができました!!本当にありがとうございます!!