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酵素や微生物の有機合成への応用 昔ばなしその5

2022-12-11 00:08:17 | その他
前回合成したDL体の化合物に酵素を作用させ、光学活性体を作る手法は確立できたものの、酵素の価格が非常に高く実用化が困難であることを書きました。

そこでこの反応をいかに安価にするかで、精製した酵素ではなくこの酵素を持っている微生物を直接固定化して使用する方法の検討を行いました。

幸い私の会社はもともと微生物発酵を得意としており、多くの微生物のストックを持っていました。また微生物の固定化はそれを得意とする大学からその技術を教えてもらいました。

ある種の放線菌に加水分解の酵素活性が高いという菌があり、それを培養し菌体をそのまま固定化しました。

この固定化微生物反応は、モデル化合物の簡単なものの場合は比較的順調に反応しましたが、少し複雑な化合物になると色々な副反応が起き、生成物が多くの類似物質の混合物になることが分かりました。

これは菌体すべてを固定化していますので、当然目的とする酵素以外の多くの酵素も入っていますので、ある意味当然ともいえるものでした。この副反応を抑える検討などやっているときに、別の医薬品開発を担当している研究所から面白い相談を受けました。

新薬候補の医薬品を動物に投与すると、当然代謝を受けて排泄されます。当時の厚生労働省の指針では、この代謝物に関しても基本的な性質を抑えるようになっていました。

ところがこの代謝物は化学反応では難しい箇所に水酸基(OH)が入ったりして、化学合成では非常に時間がかかってしまうということでした。そこでこの動物の代謝物を微生物を使って作れないかという相談でした。

そこで微生物のスクリーニングをしたところ、カビの類にそういった活性があることが分かり、培養液に直接医薬候補化合物を加えるという乱暴な方法でしたが、低収率ながら動物の代謝物を得ることができました。

この結果こういった研究が医薬開発の支援研究として位置づけられ、私のグループの正式な研究テーマとなったのです。この医薬開発研究所は常時数種の候補化合物を扱っていますが、新たな候補化合物の開発が決定されると、その化合物が私のところに来るというシステムが出来上がりました。

それを良さそうな微生物と反応させ、生成物を同定し動物の代謝化合物の可能性がある物質として報告しました。それまで数十匹のマウスの血液から代謝物を精製単離して構造を決めていたものが、私のところのデータと比較するだけで済み非常に楽になったと感謝されました。

結局このテーマに時間を取られ、安価な酵素反応の開発はしぼんでしまいましたが、それまでのデータをいくつか学会や論文として発表し、良い評価を得ていましたのでまあ面白いことができたと良い思い出になっています。これで思い出話は終了します。


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