ごっとさんのブログ

病気を治すのは薬ではなく自分自身
  
   薬と猫と時々時事

薬の作用機序による問題点

2020-10-24 10:23:07 | 
このところ2回にわたり、薬の有効性は100%ではなく、多くの薬が使った患者の半分強ぐらいにしか効果を出さないということを書いてきました。

私は現役時代の大部分を新しい医薬品の合成という仕事に従事していましたが、作ることが専門でありなぜ効果が出るのかということは、評価グループに任せていました。

ある受容体や酵素に強く結合する薬ができれば、こういった疾患の治療薬となるという理論で進めていたのですが、若干疑問を持っていました。つまり生体内の機能を止めることは、ある疾患にはクスリとなるかもしれませんが、他の生体機能に問題は出ないのかというところです。

現在非常に多くの薬が使用されていますが、こういった副作用というのはあまり議論されておらず、それほど問題ではないのかもしれません。ここでは私のやった仕事ではないのですが、高脂血症治療薬として最も多く使用されてきた薬の例を紹介します。

高脂血症は言うまでもなく、血液中の中性脂肪やコレステロールが高くなり、放置すると動脈硬化となる可能性があります。そこで開発されたものが、コレステロール合成酵素阻害剤であるプラバスタチンです。

コレステロールは、食品から体内に入るだけではなく、体の中で合成される量が多い物質です。この辺りの量はよくわかりませんが、食品からよりも体の中で合成される量の方が多いようです。

つまり血中コレステロールが高くなった場合、食事を変えることだけではコレステロール値を下げることができません。コレステロールは糖や脂肪から作られるスクアレンと呼ばれる物質を原料に、かなり長い工程でコレステロールに変換されます。

そこでその合成酵素の1種を阻害してしまう物資を探索しました。その結果プラバスタチンという薬を開発したのです。この薬は非常によく効き、血中コレステロールを低減するということで世界中で何百万もの人に使用されました。

ところがコレステロールは人体にとって必須の化合物であり、生体膜成分や色々なホルモン原料となる重要な物質です。そのため人体はこの酵素を使わないルートでコレステロール合成を始めてしまうのです。つまり長く服用していると耐性ができ効かなくなるわけです。

そこで問題は効かなくなるというよりは、この様に人間にとって必須の物質の合成を止めてしまって問題はないのかという点です。プラバスタチンはかなりの長期間、非常に多くの患者に使われましたが、これといった副作用は出ていません。

だから合成を止めても安全であるというのは、あまりにも安易な非科学的な解釈のような気がします。この副作用というのは非常にとらえにくいものなのです。

この例では、何かホルモンが作られなくなって症状が出たとしても、別な病気を発症したとして副作用と捉えることはありません。

こういった点をしっかり検証していくのが、医薬品メーカーの役割だと思いますが、現在ではそういった体制は取られていないのが問題だと思っています。