ごっとさんのブログ

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悪性脳腫瘍をポリオウイルスで治療

2018-08-08 10:37:18 | 健康・医療
ガン治療に免疫療法を中心に様々な生物学的治療法が開発され、その一つに腫瘍溶解性ウイルスの利用が注目されています。

多くのウイルスはヒトの細胞に感染して増殖し、最終的に感染した細胞を殺してしまいます。このような細胞溶解性ウイルスは、もしうまく腫瘍細胞だけでウイルスを増殖させることができれば、腫瘍を殺す腫瘍溶解性ウイルスとして発展する可能性を持っています。

またすべてのガン細胞を殺せなくとも、一部のガン細胞を溶解させることで、炎症や免疫反応を誘導して、免疫学的にガンを殺す可能性もあります。

こういった考えから、さまざまな腫瘍溶解性ウイルスの開発が進んでおり、悪性黒色腫に対しては、ヘルペスウイルスを用いた治療法がアメリカでは正式な治療として認可されています。こういったウイルスの可能性に最も大きな期待を寄せているのが、手術以外に治療法がない悪性脳腫瘍(グリオプラストーマ)で、ヘルペスウイルスを始め様々なウイルスが試されています。

小児麻痺を起こすウイルスとして恐れられた、ポリオウイルスを腫瘍溶解性ウイルスとして用いる臨床試験が行われました。この治験はヂューク大学の研究チームが行ったもので、安全性を確かめると同時に治療効果を調べる1b相試験で、61人の患者を5年近く追跡しています。

ポリオウイルスが小児麻痺を起こすということは、神経細胞内で増殖して細胞を殺すことができます。この治験で用いられたポリオウイルスは、ポリオの生ワクチンをベースに、リポゾーム侵入サイトを置き換えた組み換えウイルスで、グリオーマで選択的に増殖して溶解することが確認されています。

これに加えてウイルスが感染して細胞内で増殖を始めるとインターフェロンの産生を高め、炎症や免疫反応を誘導することから、これも抗ガン作用に貢献すると考えられます。

今回の治験では61人のステージ4の患者を選び、さまざまな力価のウイルスを腫瘍内に投与して感染させ、副作用の強さから安全な量を決めています。

結果としては、コントロールに選んだ無処置の患者104人と比べ、50%が死亡する時期で見ると、コントロールが11.3月に対してポリオウイルス投与群が12.5月と、一か月の延命効果しかないように見えます。

しかし生存曲線を見ると、治療群の約8割はコントロール群とほとんど同じに亡くなっていますが、18か月を乗り越えた残りの20%の患者は5年まで全く再発なく経過していることが分かりました。

例えば4年目ではコントロール群では生存率が2%なのに、投与群では21%でこれが5年目まで維持されていました。今のところ誰に効果があるのか予測は難しそうですが、それでも20%が5年生存するというのは素晴らしい結果といえそうです。