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ごっとさんのブログ

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合成樹脂を原料に戻す新触媒を開発

2023-08-16 10:34:26 | 化学
最近廃プラスチックが海洋汚染など問題になっていますが、合成樹脂の分解の研究も進んでいるようです。

東京大学はリサイクルが困難な合成樹脂「ポリウレア」を水素で分解し原料の化合物に戻す新しい金属触媒を開発しました。

水をはじき摩耗しにくい性質から屋根や屋上駐車場の表面に使われているこの樹脂が、廃プラスチックとなった際新触媒によるリサイクル促進が期待されています。

ポリウレアを構成するウレアは、分子内に炭素と酸素の二重結合を持つカルボニル化合物の一種で、炭素が窒素化合物のアミンと結合しています。水素と金属触媒によるカルボニル化合物の分解は、廃棄物を出さないクリーンな化学反応として注目されています。

研究グループは、カルボニル化合物の分子内における炭素‐酸素二重結合の電荷の偏りに注目し、イリジウムの周りにリンや窒素などを配置した金属錯体を触媒として作成しました。

作った触媒の機能を調べるため、有機溶媒にジフェニルウレアを溶かし、水素と触媒を入れました。約130℃、10気圧程度の条件では、ウレアの炭素‐窒素結合の片方が切れて水素化され、ホルムアミドとアミンに分解しました。

こういった反応性の低いウレアの水素化分解は2011年ごろからルテニウムの触媒によって行われていました。ウレアがアミドより反応性が高かったことから、2種類のカルボニル化合物混合物で水素化分解を試みました。

その結果ケトンには劣るものの、エステルとウレタンよりは反応性が高いことが分かりました。触媒に含まれるイリジウムと窒素が、ウレアの炭素と二重結合した酸素と相互作用をしていることで、ウレアと優先的に反応するとの仮説が考えられるようです。

異なるアミンの結合によって非対称な構造をしたウレアでも、一方の炭素‐窒素結合を選択的に切断できることも確認しました。

研究グループは、「2つの異なる炭素鎖が交互にウレア結合で繋がった構造をしているポリウレア樹脂を今回開発した触媒で水素化分解する技術と既存触媒を組み合わせることで、水素分子の移動のみによるポリウレア樹脂のリサイクルの仕組みができる可能性がある」と話しています。

今回のポリウレア樹脂の分解は、私の専門分野ですのでつい詳しい内容を書き、専門的になりすぎて分かり難くなったかもしれません。こういったプラスチック樹脂のリサイクルには根本的な問題が存在します。

それはこういった樹脂が非常に軽くできているため、体積が膨らんで輸送コストが非常に高くなってしまう点です。一時はやったペットボトルの蓋を集めるといった活動も、この輸送コストのため中止となってしまいました。

プラスチック削減は、技術的な面よりもこういったコスト面での課題が多いような気もします。

「タウリン」に老化を遅らせ寿命を延ばす効果

2023-07-05 10:35:43 | 化学
「タウリン」という化合物はあまり馴染みはないかもしれませんが、アミノエタンスルフォン酸という有機化学ではよく使用する物質です。

タウリンは天然物質で、イカやタコなどに多く含まれています。昔から色々な効用が知られており、中性脂肪を下げたり、血圧を下げる、肝臓の解毒能力を強化するなどとされています。最近では色々なエナジードリンクの主要成分として入っているようです。

このタウリンが健康で長生きするためのカギとなり得ることが、最近発表されたコロンビア大学の研究で明らかになりました。この研究によれば、体内で生成され食物からも得られるタウリンは、動物の老化に関わる主要な要素のひとつであるとしています。

マウス、サルそしてヒトの血液検査で、年齢とともに衰えがちな免疫機能や神経系機能、骨の形成や肥満など身体の重要なプロセスに、タウリンのレベルが関連していることが示されました。

タウリンのレベルは年齢とともに減少しており、60歳の人間では5歳児のレベルの約3分の1しか持っていないことが明らかになりました。

タウリンの不足が本当に老化の原因であるかを検証するため、約250匹の14カ月齢のマウス(ヒトの45歳に相当)を使い、その半分にタウリンのサプリメントを与えました。この結果タウリンを摂取したマウスが、摂取しなかったマウスよりも約3〜4か月長生きしたことを発見しました。

これはメスの寿命が約12%、オスの寿命を約10%伸ばしたことに相当し、人間に換算すると約7〜8年の延命となります。さらに長生きだけでなく、タウリンを与えられたマウスはより健康な生活を送っているとしています。

マウスは測定されたほぼすべてのパラメーターで良い結果を示し、筋肉の耐久力と力、骨量の増加、エネルギー消費の増加、インスリン抵抗性の減少、そしてうつ病や不安行動の兆候の減少などが確認されました。

タウリンの補給による同様の健康効果は、中年のアカゲザルでも観察されました。タウリンを6か月毎日投与することで体重増加を防ぎ、脊椎と脚の骨密度が増加し、免疫系の健康が改善されたとしています。

タウリンがヒトの老化に果たすと思われる役割はまだ明確ではなく、まだ多くの疑問が残されています。この関連性を検証するため、60歳以上のヨーロッパの成人1万2千人を約50の健康指標で評価しました。

その結果タウリン濃度が高い人ほど健康であり、2型糖尿病の症例が少なく、高血圧が減少し、肥満と炎症レベルが低いことが見出されました。

このようにタウリンの効果は明らかになりましたが、市販のエナジードリンクを大量に摂取することには、健康上の悪影響を警鐘しています。

チャンピオンデータを報告してはいけない理由

2023-04-08 10:33:42 | 化学
私が現役のころの研究者として最も非科学的な科学のはなしですが、これは私だけではなく研究者には常識的なものです。

それは実験をしていて出たチャンピオンデータは報告してはいけないというものです。毎日実験をしていると稀に素晴らしい結果が出ることがあります。それが再現性良く実施できれば問題ないのですが、その後再現できなくなることがあるのです。

もちろん分野によって内容はさまざまですが、非常に収率よく反応したり、できたものの物性が完璧だったりします。これは実験操作にミスがあったり、結果の判定がおかしいわけではなくすべてのデータがきれいにそろってしまいます。

これをチャンピオンデータと呼んでいますが、残念ながら2度と再現できないケースもあるのです。研究者はもちろん再現できるようにあらゆることを検討しますが、それに時間をかけるより別な実験を始めた方が効率が良くなり、チャンピオンデータはなかったことにするという非科学的なことが行われるのです。

科学的な実験というのは、毎回同じになるような気がしますが、同じ操作をしても若干違った結果になることの方が多いのです。権威ある雑誌に投稿された論文の通りに実験をして、同じ結果になる再現率は有機化学の分野は高く60%程度といわれています。

逆に言えば40%の論文は再現できないのです。これは特に医学分野は低く再現率は20%程度が当たり前になっているのです。これは別に不正をしているわけではなく、いわばチャンピオンデータを報告しているためでしょう。

論文通りの実験をやってうまくいかなくとも、著者を責めることはなく単に忘れ去られるだけとなっています。従って論文の価値は、他の論文にどれだけ引用されるかの個数で評価するようになっているのです。

チャンピオンデータのイメージを今話題のiPS細胞で説明してみます。現在100個の細胞に遺伝子操作をしてiPS細胞になるのは、数個(成功率数%)といわれています。

100個に同じ操作をしているのになぜすべてがiPS細胞にならないのかは不思議なところですが、この辺りが科学の面白いところです。

さてここからは仮定ですが、もしこの操作で30個のiPS細胞が出来たら素晴らしい結果となるでしょう(成功率30%)。しかしその後はやはり現在の数個しかできなければ、この30個できたというのがチャンピオンデータとなるのです。

この30個できたという事を発表しても何の意味もないことになるわけです。これは仮定ですが、現実でもこれに近い現象は起きてしまうのが科学であると感じています。

こういったことも踏まえると、科学にはまだまだ分からない事象がいっぱい存在するといえるのかもしれません。

誰でも知っている「タンパク質」の基礎知識

2023-03-24 10:35:46 | 化学
三大栄養素のひとつである「タンパク質」は色々な形で表れており、タンパク質という名前の付いた食品やサプリメントがあふれています。

私も高齢になり、タンパク質を摂取しないといけないといわれており、肉類などを取るように心がけています。ここでは改めてタンパク質とは何かをまとめてみました。

タンパク質を英語表記するとプロテインですが、これは「第一の物」という意味のギリシャ語のプロティオスが語源とされています。タンパク質は多くのアミノ酸がペプチド結合で繋がった高分子化合物です。

アミノ酸が2個以上結合したものがペプチドであり、アミノ酸が約80個以上結合したものをタンパク質と呼んでいます。

タンパク質を構成しているアミノ酸には20種類があり、そのうち体内で合成できず必ず食物から取り込まなくてはならない9種類のアミノ酸を「必須アミノ酸」といいます。

タンパク質は構成するアミノ酸の数や種類、結合の順序によって種類が異なり、さまざまな働きを有することになります。タンパク質の最も大切な働きは身体を作ることです。ヒトの身体の主成分はタンパク質で、男性では16〜18%、女性では14〜16%がタンパク質で占められています。

次がエネルギー源になることです。タンパク質は炭水化物や脂質と同様に、エネルギー源として利用されます。特に飢餓状態など食物からの摂取エネルギーが不足した際には、生命を維持するために身体を構成しているタンパク質を分解してエネルギーに利用します。

食事からとったタンパク質は分解され、アミノ酸やペプチドとして小腸から吸収され、一定量が体内に蓄えられます。蓄えられたアミノ酸はタンパク質の合成に利用されます。

さらに組織を構成していたタンパク質は分解され、この合成と分解が常に繰り返されることで、身体のタンパク質は常に新しくなっていき、これを新陳代謝と呼んでいます。

例えばコラーゲンをたくさん摂ると、身体のコラーゲンが増えるかのようなCMをよく目にします。前述のようにコラーゲンというタンパク質を摂っても、アミノ酸まで分解されて吸収されますので、吸収後にもう一度コラーゲンに合成される保証はありません。

この辺りはタンパク質の面白いところと言えそうです。タンパク質のもうひとつの重要な点が酵素として働くという事です。生体は生きていくために非常の多くの酵素反応を行っています。

タンパク質の一種である酵素は必要に応じて合成され、すぐに分解されることを繰り返しています。

こうした重要な働きをするタンパク質を補う意味でも、バランスのとれた食事を規則正しく摂ることが健康の基本といえるでしょう。

小惑星リュウグウ試料から有機分子2万種を発見

2023-03-12 10:36:54 | 化学
私は基本的に宇宙にほとんど興味はなく、宇宙開発というのは莫大なコストがかかるだけで、あまり意味が無いものと感じています。

ただ今回の小惑星リュウグウの試料の分析などは、生命誕生の謎を解く手がかりがある可能性から、若干興味を持っていました。生命誕生には宇宙飛来説などもあり、私は地球発生説を推していますがその辺りの解明も面白いような気がしています。

探査機はやぶさ2が小惑星リュウグウから持ち帰った砂状資料を分析している宇宙航空研究開発機構(JAXA)などの研究チームは、試料から約2万種もの有機分子が見つかったと発表しました。

地球生命の源となる物質は宇宙から飛来したとする仮説を、補強する材料になりそうです。見つかった有機分子は、炭素を骨格として水素や窒素、酸素、硫黄などが多様に組み合わさっています。生物の体に必須のアミノ酸のほか、カルボン酸や炭化水素などが含まれていたようです。

私は生命の起源とは別に、有機化学者としてこの原始の惑星ではどんな化学反応が起きていたかには興味があるのですが、残念ながらすべての化合物の構造を調べるほどの量はなく、未知の化合物を同定することはできそうにないでしょう。

アミノ酸にはヒトの左手と右手と同様に、互いに鏡に映したような関係である左手型と右手型があり、地球の生命を構成しているのは左手型です。

リュウグウ試料のアミノ酸の多くは左手型と右手型の比率がほぼ1:1で存在しており、アミノ酸が地球で混ざったのではなく、宇宙空間で合成されたことの証拠になるとしています。これは当然ですが、私はこんな微量の試料の光学純度まで測定できる分析技術の進歩に驚いています。

また別の分析で、試料が大量に含む黒色の個体有機物を調べたところ、複数の炭素などが無秩序に結合した高分子構造であることが判明しています。

最古の太陽系物質である炭素質隕石に含まれる有機物の構造とよく似ており、炭素質隕石のもとはリュウグウのような炭素質小惑星であるとする説を初めて直接的に証明しました。

これらから生命の材料となり得る物質が存在するリュウグウのような炭素質小惑星の一部が、何らかの理由で隕石になるなどして地球に飛来し、生命の源をもたらしたとする仮説の補強が一歩進んだとしています。

私はこの結果は、単に地球を含む太陽系はどこでも有機化学反応が進む環境であったことの証拠にすぎず、宇宙発生説を進める材料ではないと感じています。

生命が発生するためには大量の有機物の存在が不可欠で、隕石に付着する程度ではとても高濃度にはなり得ず、やはり地球発生説ではないかと考えています。

それでも他の惑星にどんな有機物が存在するかは、興味あるテーマといえるのかもしれません。