携帯電話機メーカーがスマートフォンの薄型化を競っている。NECカシオモバイルコミュニケーションズが世界最薄となる7.7mmを実現したのを手始めに、1cm以下で各社の攻防が始まった。
かつて2つ折りの携帯電話で旧NECと松下通信工業(現パナソニックモバイル)が繰り広げた「薄型化戦争」を再現するかのようだ。
●薄さと強度を両立
各社が薄型化を意識したのは、昨年発売された米アップルの「iPhone4」の存在が大きい。9.3mmと従来の「iPhone3G」(12.3mm)より薄型化し、人気を博した。
3月15日に発売したNECカシオモバイルコミュニケーションズ製の「MEDIAS(メディアス)」は、スマートフォンとして世界最薄となる厚さ7.7mmを実現した。
「おサイフケータイ」、「ワンセグ」、「赤外線通信」といった日本独自の付加機能を搭載しつつ薄くした。薄型化は、内部に組み込む半導体や通信装置などの実装技術が決め手となる。
メディアスは、複数の部品を内部に隙間なく組み込むことに成功。本体の裏側にある電池の両脇の細い隙間にも基盤やアンテナを分散して実装している。
薄さと強度を両立するために、本体側面部にアルミフレームを組み合わせたのも特長。
もともと旧NECはNTTドコモの「iモード」機種で松下通信工業と「薄型化戦争」を繰り広げ、08年2月に当時世界最薄の9.8mmの2つ折り携帯「N705iμ」を開発した。
その後は、高画質カメラなどの人気で薄型化ブームは去りつつあった。
NECカシオ商品戦略本部クリエイティブスタジオの佐藤敏明チーフクリエイティブディレクターは、「薄型化は日本メーカーの誇る大きな基盤技術だと気づき復活させた」と語る。
スマートフォンの世界戦略が重要となっていることも、薄型化に拍車をかける背景にある。
●薄型化進める海外勢
海外勢も負けていない。ソニー・エリクソンは人気モデル「エクスペリア」を8.7mmまで薄くした「エクスペリアアーク」を今春、投入した。
薄型化には07年に9.4mmを実現した「ウォークマンケータイ」の基板設計を生かしたという。
従来の「エクスペリア」は13.1mm。本体の液晶画面の裏側に電池と基板の2つを重ねていたが、「基板のサイズを半分にし、液晶の裏側にバッテリーのみを置くことなどで、薄型化が可能になった」という。
韓国サムスン電子の人気モデル「ギャラクシーSⅡ」も8.9mm、LG電子の「オプティマスブライト」も9.5mmと薄型化を進めている。
NTTドコモやKDDI(au)などの各通信会社はスマートフォンに力を入れる中、従来型の携帯電話の顧客を呼び込むため、「おサイフケータイ」「ワンセグ」といった機能を充実している。
さらに、最近では「ワイヤレス充電」や無線を使ったパソコンとの通信など新機能も重要になってきた。2つ折り携帯電話が薄型化から高機能化に向かったように、スマートフォンもハード面での機能充実の要望が高まっている。
だが、携帯電話は機能を付加すればするだけデザインとしての洗練さが失われかねないのも事実。機能と形のバランスを維持した開発も求められる。
【記事引用】 「日経産業新聞/2011年5月19日(木)/4面」