米グーグルは19日、アジア太平洋地域での戦略について都内で記者説明会を開いた。
エリック・シュミット会長はスマートフォン向け基本ソフト(OS)事業で「アンドロイドこそ、アジアの携帯プラットフォーム」と明言。スマホを軸にアジアでの事業拡大を図る姿勢を鮮明にした。
出荷急増に伴ってアプリ開発も過熱している同地域をドル箱市場として投資を加速する。
●アジアでの利用者を拡大
「スマートフォンは現在の500ドル(約3万9500円)ほどから、200ドルぐらいに値段がドがるだろう。そして遠くない将来に、50ドル程度にまで下がってくる」。
19日朝、都内のホテルで壇上に立ったシュミット会長は確信を込めて将来像を描いた。
同社は「今日の戦略では、ハードへの投資はしない」と明言する通り、あくまで「ブラットフォーマー」との立場を崩そうとしない。
あえてハード価格の行方に触れたのは、スマートフォン端末の価格低下をテコに、アジアの利用者を爆発的に拡大できると読んでいるから。
実際、グーグル発のサービスを日常的に使う人の数は乗数的に増えている。
例えばアンドロイド。2008年10月に初の搭載機種が発売されて以来、世界で1億3500万台が新規登録された。うち1億台は「直近の2カ月間」で獲得したものだという。
瞬間風速にして、「毎日55万台」が登録されている計算になる。スマートフォンというプラットフォームを握ることで、事業が拡大するのは韓国で実証済み。
検索シェアでは約6割を占める韓国NHNの後じんを拝し、10%にも満たなかったが、アンドロイド端末の急増に伴いシェアが上昇しているという。
●グーグルサービス使用加速
世界の提携戦略を管理するディレクターのジョン・ラーゲリン氏は「それまでグーグルのサービスに触れたこともなかった消費者が、スマートフォンでグーグルのサービスを使い出した」と指摘する。
グーグルが祖業である検索エンジンだけでなく、アンドロイド、ブラウザーの「クローム」、動画共有サイト「ユーチューブ」など、持ち駒を増やしていることもこうした流れを加速しそう。
いずれも設計図を世間に公開するオープンソースが原則で、各国のアプリ開発者やコンテンツ制作者が、このグーグル生態系に相乗りしていることがソフト開発数の急増にもつながっている。
もちろん、死角もある。オープンソースゆえ新種のウイルスに攻撃されやすい側面などだ。
しかし、「人々がパソコンのみ使っていたのは過去の話」(アジア太平洋地域担当のダニエル・アレグレ社長)と、説開会では試作中のサービスのデモを通じ、さらなる攻勢戦略も打ち出した。
例えば、現在、63言語に対応しているという機械翻訳ソフト。自国語しか話せない者同士がアンドロイド端末に話しかけると、数秒で画面上に他国語に翻訳された文字が現れ、音声でも再生する。
見知らぬ国でも、タクシー運転手と筆談ならぬ「スマホ談」で交流できるというわけだ。
もうひとつが「バーチャル・カメラマン」と名付けた技術。スマホのカメラが会議などで発言している人を自動認識して映し出し、テレビ電話が円滑にできるというもの。
●グーグル革命の凄み
こうしたサービスを手ごろな価格で使えるよるになり、あたかも空気のような存在として人々の暮らしに寄り添う。価格破壊、あるいはコモディティー化もときにいとわない。グーグルが目指すのはそんな姿ではないだろうか。
「50億-60億人の人々の生活が変わってくる。歴史的には富裕なエリートと西洋人しか持てなかった情報力。それをあらゆる人が手に入れられるようにしたことが私の一番の誇り」。
シュミット会長が締めくくりで語った言葉にこそ、スマホを軸にしたグーグル革命の凄みが隠されている。
【記事引用】 「日経産業新聞/2011年7月20日(水)/3面」