韓国のサムスン電子が6日発表した2011年10-12月期の連結営業利益は、前年同期比73%増の5兆2千億ウォン(約3470億円)前後と四半期ベースの過去最高を更新した。
主力の半導体メモリーや薄型テレビの価格が下落する中、スマートフォンが急成長して業績を牽引した。次々に製品群を拡充し、顧客を幅広く獲得するスピード経営が奏功している。
●スマホが業績下支え
「スマートフォンがなかったらどうなっていたか……」。
昨年夏以降、サムスン電子の幹部がこう漏らす声があちこちの事業部から聞こえてくる。事業ごとの独立性が強いサムスンは、基本的に部門間の仲が悪い。業績に伴う利益分配金により、部門ごとの年収に大きな差がつくという事情もある。
だが、携帯電話が主力の通信部門の健闘がなければ、11年のサムスンの進撃はあり得なかったというのが共通認識。
DRAMや液晶テレビの歴史的な価格下落や液晶パネルの供給過剰など、デジタル製品の事業環境が悪化する中、サムスンの場合はスマートフォンが年間を通して業績を下支えした。
ウォン安の追い風もあり、10-12月期の連結売上高は前年同期比12%増の47兆ウォン前後で、売上高営業利益率は11%程度の見込み。営業利益の半分程度をスマートフォンを中心とする携帯電話部門が稼いだとみられる。
7-9月期に2千万台後半で米アップルを抜き首位となったスマートフォンの世界販売は、10-12月期には3千万台半ばに伸びた模様。
従来型携帯電話で世界2位のサムスンに対し、同3位のLG電子は7-9月期までスマートフォンの出遅れが響き、幾度も赤字を計上した。首位のノキア(フィンランド)も苦しい。
その中でサムスンが勝ち組となり得たのは、製品投入のスピードと多様な機種展開が奏功したため。
サムスンは、10年6月に4型の有機ELパネルを搭載した「ギャラクシーS」を発売。11年は4.3型の「SⅡ」のほか高速無線データ通信サービス「LTE」対応機、5.3型パネルにタッチペンを付けた「ギャラクシーノート」を投入した。
さらに、普及タイプの新機種を次々に発表し続けている。多くのメーカーがやりたくても難しい、短期間での集中投入を実現させた。機種構成の多様さが先進国から新興国まで幅広い市場でギャラクシーブランドを浸透させる原動力となった。
●瞬発力のある対応
「消費者を中心に見て、瞬発力のある対応をする」。無線事業部の季英煕(イ・ヨンヒ)専務は強さの理由をこう評する。
具体的には「素早く意思決定し、(発売の)最後の瞬間に至るまで(仕様を)変更する大胆さ、融通の利くところがある」のだという。デジタル製品の転換サイクルが早まる中で、スマートフォン事業ではこうした組織の特徴を最大限に生かした。
企画から開発、販売までのリードタイムを短縮。ライバルの動きを横目で見ながら、ソフトウエアや使い勝手の変更を発売直前まで繰り返すことでその時点でのベストを追求し、市場で支持を得た。
半導体や液晶パネルでのサムスンの成功の秘訣は、投資のタイミングの早さだった。先行メーカーとのシェアの差を一気に縮め、そして抜き去ることにあった。
スマートフォンでは経営スピードが製品の魅力、豊富なラインアップに直結している。
業界が目まぐるしく動き、製品寿命が短くなるほどサムスンに有利に働く構図。世界の電機メーカーの多くが苦しむ経営環境を、サムスンは逆手に取っている。
【記事引用】 「日経産業新聞/2012年1月10日(火)/20面」