国内の携帯電話機メーカーの事業環境が悪化している。
各社の2009年3月期の携帯事業は、国内首位のシャープが32%減収、3位のNECが50億円の赤字。販売制度の変更に景気減速が重なり、急速に市場が縮小した。
今期以降も国内市場の大きな回復が望みにくい中、事業存続を賭けた競争は我慢比べの様相を呈してきた。
●楽観できぬ状況
シャープはアクオスケータイが好調だった反動もあり、国内出荷は約830万台と36%減少した。
市場が落ち込む中で相対的に健闘したのが、2位のパナソニックモバイルコミュケーションズと、前年の5位から3位に順位を上げたNEC。
ただ、両社とも楽観できる状況ではない。パナソニックモバイルは一部機種の好調に加えて特許関連の一時的な収入があり、営業利益が237億円と71%増えた。
出荷台数は633万台、売上高は3897億円で、減少幅をいずれも13%台にとどめた。今期は特許収入分が減るほか、低価格端末が増え、売上高は3365億円と13%減を見込む。
●低迷続く国内需要
大手で唯一事業規模が大きくなったNECは、前期の出荷台数が510万台と6.3%増。売上高も2.3%伸び、機種数や供給先の拡大が奏功した。
だが、目標の700万台には届かず、営業損益も50億円の赤字に転落。矢野薫社長は「赤字なので生き残ったとはいえない。黒字化を達成して初めて生き残ったといえる」という認識。
MM総研によると、08年度の国内市場規模は3589万台と前の年度に比べて29%減少し、2000年度の調査開始以来、初めて4千万台を割り込んだ。
販売制度の変更に伴う単価上昇などで買い替えサイクルが長期化しているほか、契約者数が1億人を超え、新規需要も落ち込むとして09年度以降も3500万台前後で推移する見通し。
市場は冷え込んだが、08年春に京セラが三洋電機の事業を買収して、三菱電機が撤退して以降、撤退や事業統合の大きな動きはない。
●部品共通化やLTE商機
それには、いくつかの理由がある。まずソフトや部品の共通化などにより販売台数が減っても大きな赤字にならずに済む体制が整いつつある。
また、半導体やハードディスクドライブ、液晶パネルなどと比べて人手による組み立て工程が多く設備投資規模が小さいため、損失も膨らみにくい。
10年にNTTドコモが開始予定のLTEなど、次世代規格では海外を含めて商機が期待できる点も思い切った決断を下しにくい一因といえる。
事業立て直しへ海外市場重視を鮮明に打ち出したのがシャープ。08年に進出した中国で品ぞろえを広げるほか、欧州市場も強化を打ち出す。
今期の出荷台数は国内は横ばいだが、海外は2.5倍の400万台を狙う。
●夏商戦が持つ意味
東芝は09年3月期の売上高が約1400億円と46%落ち込み、順位も4位から6位に下落。
日本と欧州で同時投入するタッチパネル式の多機能型携帯電話(スマートフォン)に復活を賭ける。ただ、海外市場で十分な成果を出すには一定の時間がかかる。
パナソニックモバイルやNECは当面、事業収益を支えるのは国内市場。「どこかが撤退してくれれば楽になる」との思いを各社が共有する中、くすぶる再編が動き出すのか。
19日のドコモとソフトバンクモバイルの新製品発表で幕を開ける今夏商戦が持つ意味は大きい。
【記事引用】 「日経産業新聞/2009年5月19日(火)/3面」