気儘に書きたい

受験勉強よりもイラストを書くのが好きだった高校生の頃---、無心に絵を描く喜びをもう一度味わえたらいいのだが。

高千穂峡

2015-11-21 01:25:05 | 風景画
 平成27年11月17日、目が覚めると雨音が耳にはいってきた。40日間休まず働いた自分をねぎらって一泊二日のツーリングを計画していた。ネットで泊まるところも予約してあるので、嵐がこようと予定を変える気はなかった。9:30AMに家の近くのガソリンスタンドでアフリカツインを満タンにして、いざ出発。
 ノンストップで走り0:30PMに大観峰休憩所に到着した。駐車場は雲の中で阿蘇山がまったく見えない。バイク旅行者は自分一人、他に乗用車が5台止まっていた。食事処で肉うどんを食べながらNHKの連ドラ「あさが来た」を観た。妻が心配していたので経過報告のメールを送信した。
 阿蘇の中岳を右に想像しながら東廻りにミルクロードを通ってやまなみハイウェーに入った。天気が良ければ最高のツーリングコースなのだが、この日はずっと視界50メートルほどで、強風に煽られっぱなしの過酷なものとなった。 カルデラ盆地に降りると視界が開け、ほどなく雨もあがった。外輪山の裾にそって時計周りに265号線を快走し、高森峠で少し道に迷ったが、3PMになんとか高千穂にたどり着いた。最初に念願の高千穂峡を訪ねた。悪天候で閑散とした秘境を想像していたが、着いてみると大勢の中国人旅行者で賑わっていた。観光ルートの入り口にあるトイレで、清掃作業中の女性に高千穂観光のお勧めスポットを訊ねた。「国見ヶ丘」と「天岩戸神社」は欠かせないようだ。



 傘を開いてボート遊びをするカップルが楽しそうだったが、川に沿って峡谷を散策するその他大勢の一人となった。1キロほど歩いたところで何となくバイクのキーが気になになり、ポケットを弄った。無い。キーをつけたままバイクを離れてしまったようだ。駐輪場に停めてあった数台のバイクは大勢の目があるから大丈夫だろうと荷物をキャリアに残していた。それでもキーを挿したままのバイクは自分だけだろう。逸る気持ちを抑えて足早に駐輪場に戻った。バイクは無事で、イグニッションにキーが挿してあった。手に持っていたツーリングバッグをバイクのタンクにセットしようとして、中に入れておいたツーリングマップと宿泊情報を纏めたリーフレットが無いことに気づいた。リーフレットがなければ今夜宿泊するホテルの名前や住所、電話番号がわからない。再び峡谷に向かい、落し物を捜しながら戻ってきた道をたどった。自分が情けない。数百メートル先の道端に、雨に濡れていたのが幸いして誰にも拾われずに探し物が転がっていた。
 足場の悪い道を小雨に濡れながら2往復して、峡谷を堪能したので次に「国見が丘」に向った。



ここでは雲海に浮かぶ山々の大パノラマが見所らしいが、あいにくの天気で標高513mの展望所から見えるのは雲ばかりだった。ホテルのチェックイン予定時間まで30分早かったので天岩戸神社を下見することにした。高千穂町中心部を通り抜けて鄙びた県道をしばらく進んだが、意外と遠く、天の岩戸神社まであと4キロの表示がでたところでUターンしてホテルに向った。下校中の小学生たちに道を訊いたりして5PMにホテルに到着した。チェックインの際、夜神楽ツアーを希望するか聞かれたので、申し込んだ。
フロントで受付を終えると、仲居さんが別館の部屋へ案内してくれた。別館は一戸づつ独立した和風平屋の離れで、木の香りに癒されるナチュラル志向の内装だった。部屋に荷物を置いて本館の大浴場に入り、さっぱりしてから6PMに夕食会場へ向った。
上品な会席料理に生ビール2杯、冷酒1本とお酒がすすんだ。



食事が終わって一旦部屋に戻って間もなく、7:20PMにロビーに集合して、送迎バスで高千穂神社へ向った。
高千穂町内のあちこちのホテルから送迎バスが神社の駐車場に集合し、バスから降りた人波がぞろぞろと本殿へ続いた。
神社入り口のチケット売り場で700円の夜神楽観賞料を支払い、各々脱いだ靴を入れたビニール袋を持って広い社殿に入った。区画の無い畳席だったが舞台のある前の方から観客が埋まっていた。前最前列から4列目に一人分の空間を見つけ、陣取ることができた。送れてきた人は後方で立見のようだ。観客は300人を超えているようで、ここでも中国語が飛び交っていた。今晩の神楽舞の出し物は全部で33番あるうちの4番だという。夜神楽は観るのは初めてだったが、緩慢な動きの繰り返しで、日本の神話を知らない外国人はきっと退屈だろうと思った。



時間どおり8PMに夜神楽が終わり、大勢の観光客が駐車場で待機している自分たちの送迎バスへ戻っていった。
ホテルに帰ってすぐに、大浴場へ向った。風呂上がりに売店でおつまみを買い、部屋に戻って備え付けの冷蔵庫からビール1本とワンカップ焼酎1本をとりだしてテレビを観ながらまったりとした時間をすごした。



翌朝6pmに目覚めると酷く雨が降っており、少し憂鬱になった。7:30AM昨晩と同じ会場で四季見ホテルが言うところの「日本一の朝食」の膳についた。支配人が宿泊客に挨拶と料理の説明をしたあと高千穂の民謡を自ら披露した。



9AMに到着したときと同じ重装備のレインウェアに身をかため、出発する団体で混雑したフロントでチェックアウトをした。
昨日の続きから旅が始まった。天の岩戸神社は雨天にもかかわらず朝から参拝客が多かった。社務所で申し込むと小グループごとに無料で宮司さんが神社内を案内してくれるのがありがたい。宮司さんのお祓いを受けて身を清め、天の岩戸神社の神聖な場所から天岩戸があったとされる場所を遥拝した。神社をスケッチしたかったが雨が降るのであきらめた。



ここから県道7号を北上することにした。県道は狭くうねり、峠が多く、ほとんど林道のような部分もあり、道が間違っていないか何度も地図をチェックしながら走った。二時間走って対向車が4台しか来なかった。県道7号が国道502号に突き当たるT字路の近くに道の駅があったので休憩した。昼を過ぎて空腹だったが、小奇麗な和風レストランはレインウェアを着たままでは入りにくい雰囲気だったので諦めた。国道502号から右へ行けば大分市、左へ行けば竹田市、阿蘇方面で、前日までは大分市に抜けるコースをとる予定だったが、雨天走行を満喫した今は、早く帰ることばかり考えていたので、左折して竹田市に向った。グローブの中まで水浸しで指が悴んで方向指示器の操作もままならなかった。岡城手前のガソリンスタンドで満タンにした際、給油スタッフに財布ごと渡してそこからガソリン代とおつりの出し入れをしてもらった。レインウェアの下のジャケットまで雨水が浸入し寒さに震えながらバイクを走らせた。筋湯温泉の案内板に惹かれ、温泉で体を温めようと思ったが、帰路のコースから離れるので諦めて久住高原へ向った。1:30PM、子供たちが小学生の頃、家族旅行で泊まったことのある久住山荘国民宿舎の前を通ったが、チェックイン時間外だったので通過した。ひたすら走りながら自分はいったい何をしているんだろう、こんなことをしていて良いのか、私がいない会社のことが頭をよぎった。日田市を抜ける頃、トイレを我慢できずにいたが国道脇に「焼肉定食、ちゃんぽん」の看板が目に入ったので休憩することにした。バイクにレインウェアを引っ掛けて店内に入りちゃんぽんを注文した。カウンター席に座るとすぐに暖かいお茶がだされた。しばらく湯のみを両手に包んでいると、店主が調理の合間に「雨の中、大変やね。」とお茶のたっぷり入った急須を私の前に置いた。「自分も昔バイクに乗ってたから、辛さがわかるよ。」ちゃんぽんを食べて気力が蘇ってきた。店主は高千穂の夜神楽に縁のある人で、会話がはずんだ。店主がゆっくりしていくように言ってくれたが、雨もあがったので出発した。帰路にある英彦山の国民宿舎「しゃくなげ荘」は、日帰りで度々行っているのだが、早朝出立すれば宿泊しても出勤時間に間に合うと思い、泊まるつもりでバイクを走らせた。3PM、やっと到着して荷物を抱えてチェックインのためフロントに行くと「本日は満室です」と断られた。いつものように風呂にだけ入ったが、1時間かけてリフレッシュしたので、濡れたジャケットを再び着ても苦にならなかった。4PM英彦山を出て6:30PM無事に家に帰り着いた。