ブログ「かわやん」

森羅万象気の向くままに。

日曜新聞紙読書欄簡単レビュー

2010年12月19日 09時37分00秒 | Weblog
 今日は朝日、毎日とも見開きで「今年の3冊」を紹介しているが、読書欄の残る1面で取り上げた本を紹介しよう。文中敬称略。

 毎日は「この人・この3冊」でジャン・ジュネを取り上げている。3冊のうちジャン・ジュネは『泥棒日記』は読んだが、それ以外にエオドマン・ホワイト『ジュネ伝』上・下(河出書房新社、各4725円)、ジュネの詩集『ジャン・ジュネ詩集』(国文社、1995円)をあげている。評者は藤本晴美。ジュネが獄中にあったとき、当時のフランスを代表する知識人、サルトルらが救出運動を展開していた。日本の作家では三島由紀夫もジュネを高くかっていたが、三島の評価はジュネの「美意識の透明」「美に対する純粋な向き合うこと」にあったと記憶している。今回藤本の文を読み改めてジュネの感性の瑞々しさを知った。ジュネの死の前年まで交流を重ねた藤本の照会文はナミの紹介ではない。ジュネの文学的感性をこの1000字ほどの毎日のコーナーで縦横に昇華している。藤本はジュネと自殺未遂した3カ月後の1967年夏に知り会った。訪日したジュネについて書いている。ジュネは自殺未遂から立ち上がる再生の営みを日本に求めたのだ。日本での経験が、「私をユダヤーキリスト教道徳から解放してくれる」(『恋する虜』(人文書院))と書いていることにもふれている。日本語の響きに敏感であったエピソードは詩人のジュネを語るのに興味深い。ジュネは「「なぜ」という好奇心でどんなことにも深く純粋に向き合い」と藤本と書く。85年に出会ったとき、面白い小説を書いていると語ったという。ベットに臥せながら語ったが、1時間以上も語り続けてそのまま眠り込んだというエピソードが記されている。純粋無垢な子どものようなジュネをシンボリックに表現する藤本の渾身の哀悼のことばかもしれない。

 朝日は酒井法子『贖罪』(朝日新聞出版、1260円)を佐々木俊尚の書評で取り上げている。「陰影伴う昭和のアイドル」との見出しで惹きつけられて読むと、いまのアイドルとの違いを酒井の著が浮き立たせていることがわかる。それは昭和という時代に懸命にかけぬけた酒井の真摯な生き方が読み取れるからだ。「いまの時代のアイドルは真摯でないのか」というとそうではない。真摯なのだが、昭和のアイドルには陰影が伴うのである。それはなぜか。そのことには踏み込んでの書評ではないが、酒井のこの書はベストセラーでよく売れているという。酒井はいまも「アイドル」の影を引きずり再生しようとしている。
コメント
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