恒例に日曜新聞読書欄簡単レビューです。朝日、毎日、日経の3紙から紹介します。多文化理解の本でまずイスラム世界の紹介した本から。
北村歳治、吉田悦章『現代のイスラム金融』(日経BP、2520円)―朝日―は今週のいちおし。イスラム社会であろうと資本主義の輪から別の存在ではない。だからイスラム教の教えから言って、否定される不労所得や賭博性であるといって無利子金融は信じられないわけだが、誕生から30年をへて成長がダウンして壁につきあたることはない。本書は評者(小杉泰)が評するように「良質の概説書」という。「イスラム金融の成長の歴史を踏まえながら、今日のイスラム金融全体を描き出す」という本のスタンスだ。イスラムを教えを守りながら現代金融に対応する方式は、われわれに通じる金融用語に翻訳することを本書は忘れない。「ムダラバ」とは投資ファンド、投資信託、共同出資、リースに相当すると著者は説明するなどわかりやすい。イスラム世界を理解する絶好の一冊といえそうだ。
ローワン・ジェイコブセン『ハチはなぜ大量死したのか』(文芸春秋、2000円)―朝日―は評者(尾関章)が一文で野生の花粉媒介役が失われているとの論を紹介しているが、基本は自らのサラリーマン人生になぞらえての花粉交配のためにトラックに載せられてぼろぼろになるミツバチに自己を重ねているとこころが面白い。自然界の「蟹工船」というわけだ。本書の誕生はアメリカで06年に大量のミツバチが失踪したなぞの解明にあり、いまのところ諸説あり確定した答えがあるわけではない。携帯に電波説、遺伝子組み換え作物、ウイルス関与説などの説があるが、本書ではそういった諸説ではなくミツバチの日常生活を暴いたところに大きな価値を評者が見出しているようだ。本書の引用でカギになる用語は「知性のほとんどは、個々の蜂にではなくコロニーに宿る」というフレーズ。「巣ごとの知性がいま脅かされている」と評者はいう。どう受け止めればいいのか。コロニー?に戻る生活=サラリーマン生活の知性が壊れてきているということか。それとミツバチの大挙した失踪劇。さて、さて……。京都新聞の書評欄でもこの書が紹介されていた。
入門書のように思うがこれがなかなか本格的な金融経済の仕組みを解き明かす作品なのが中空麻奈『早わかりサブプライム不況―「100年に一度」の金融危機の構造と実相』(朝日選書、735円9-毎日―だ。著者は外資系証券会社で金融商品の実務に精通したエコノミスト。サブプライム・ローンをはじめとした金融危機がどう結びついてどういう結果を生んだのかを「鮮やかな筆さばき」で解いていく。津波のように広がった金融危機は信頼感の喪失がり、)やがてドルの世界通貨基軸も衰退することを予兆させる。評者(中村達也)は水野和夫『金融崩壊―「アメリカ金融帝国」の終焉』(NHK出版)も推薦している。
文学関係では平林敏彦『戦中戦後 誌的時代の証言』(思潮社、3800円)―日経―が興味をひく。それは詩を求める精神というか原動力がこの書に盛り込まれているから。食うや食わずの戦中、戦後すぐの時代に、どうして詩に情熱を燃やせたのか。評者(野村喜和夫)は「人間存在の根底にあるのは言語であり、そのまま精髄が詩である。そういう確信があるからこそ、もしそれが危機にさらされている場合には、詩人は常にもましてアクションをおこすのだ」と書く。そして戦中戦後の混乱期を「誌的時代」と呼ぶ著者に深い批評精神をみるのだ。
社会学の本ではスディール・ヴェンカテッシュ『ヤバい社会学』(東洋経済新報社、2200円)-日経ーと、佐藤俊樹『意味とシステむールーマンをめぐる理論社会学的探求』(勁草書房、3570円)ー毎日ーがある。前者はコロンビア大学教授の著者がギャングが支配する団地を何年も通いどうお金がまわるのか、問題解決されるかを研究した書。後者は評者(松原隆一郎)いわく「欧米の大家をいかに卒業させるかの手引書」という。ルーマンの社会システム論批判だが、ルーマンの決別の書ではない。ルーマンの面白さを説く本でもあろう。
北村歳治、吉田悦章『現代のイスラム金融』(日経BP、2520円)―朝日―は今週のいちおし。イスラム社会であろうと資本主義の輪から別の存在ではない。だからイスラム教の教えから言って、否定される不労所得や賭博性であるといって無利子金融は信じられないわけだが、誕生から30年をへて成長がダウンして壁につきあたることはない。本書は評者(小杉泰)が評するように「良質の概説書」という。「イスラム金融の成長の歴史を踏まえながら、今日のイスラム金融全体を描き出す」という本のスタンスだ。イスラムを教えを守りながら現代金融に対応する方式は、われわれに通じる金融用語に翻訳することを本書は忘れない。「ムダラバ」とは投資ファンド、投資信託、共同出資、リースに相当すると著者は説明するなどわかりやすい。イスラム世界を理解する絶好の一冊といえそうだ。
ローワン・ジェイコブセン『ハチはなぜ大量死したのか』(文芸春秋、2000円)―朝日―は評者(尾関章)が一文で野生の花粉媒介役が失われているとの論を紹介しているが、基本は自らのサラリーマン人生になぞらえての花粉交配のためにトラックに載せられてぼろぼろになるミツバチに自己を重ねているとこころが面白い。自然界の「蟹工船」というわけだ。本書の誕生はアメリカで06年に大量のミツバチが失踪したなぞの解明にあり、いまのところ諸説あり確定した答えがあるわけではない。携帯に電波説、遺伝子組み換え作物、ウイルス関与説などの説があるが、本書ではそういった諸説ではなくミツバチの日常生活を暴いたところに大きな価値を評者が見出しているようだ。本書の引用でカギになる用語は「知性のほとんどは、個々の蜂にではなくコロニーに宿る」というフレーズ。「巣ごとの知性がいま脅かされている」と評者はいう。どう受け止めればいいのか。コロニー?に戻る生活=サラリーマン生活の知性が壊れてきているということか。それとミツバチの大挙した失踪劇。さて、さて……。京都新聞の書評欄でもこの書が紹介されていた。
入門書のように思うがこれがなかなか本格的な金融経済の仕組みを解き明かす作品なのが中空麻奈『早わかりサブプライム不況―「100年に一度」の金融危機の構造と実相』(朝日選書、735円9-毎日―だ。著者は外資系証券会社で金融商品の実務に精通したエコノミスト。サブプライム・ローンをはじめとした金融危機がどう結びついてどういう結果を生んだのかを「鮮やかな筆さばき」で解いていく。津波のように広がった金融危機は信頼感の喪失がり、)やがてドルの世界通貨基軸も衰退することを予兆させる。評者(中村達也)は水野和夫『金融崩壊―「アメリカ金融帝国」の終焉』(NHK出版)も推薦している。
文学関係では平林敏彦『戦中戦後 誌的時代の証言』(思潮社、3800円)―日経―が興味をひく。それは詩を求める精神というか原動力がこの書に盛り込まれているから。食うや食わずの戦中、戦後すぐの時代に、どうして詩に情熱を燃やせたのか。評者(野村喜和夫)は「人間存在の根底にあるのは言語であり、そのまま精髄が詩である。そういう確信があるからこそ、もしそれが危機にさらされている場合には、詩人は常にもましてアクションをおこすのだ」と書く。そして戦中戦後の混乱期を「誌的時代」と呼ぶ著者に深い批評精神をみるのだ。
社会学の本ではスディール・ヴェンカテッシュ『ヤバい社会学』(東洋経済新報社、2200円)-日経ーと、佐藤俊樹『意味とシステむールーマンをめぐる理論社会学的探求』(勁草書房、3570円)ー毎日ーがある。前者はコロンビア大学教授の著者がギャングが支配する団地を何年も通いどうお金がまわるのか、問題解決されるかを研究した書。後者は評者(松原隆一郎)いわく「欧米の大家をいかに卒業させるかの手引書」という。ルーマンの社会システム論批判だが、ルーマンの決別の書ではない。ルーマンの面白さを説く本でもあろう。